第291話 ギネス記録と上げ下ろし

 ホラ、柚月とっととバラせ!

 いい? そうやってわがままばっかり言ってるなら、マジで今後ハブにするからね。

 なんでアンタ3年の冬になってまで、そんな事言われてるわけ? 恥ずかしいと思わないの?


ガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミ


 よし、これでバラバラになったね。

 この中で一番小さくて薄い部品がシムなんだ。この輪っかになってるやつね。


 「マイ、これをどれだけ入れれば良いんだ? 隙間がなくなるくらいまでか?」


 結衣、いくらなんでも、そんなに詰め込んだら、常にロックしっ放しで、LSDじゃなくてデフロックになっちゃうよ。

 え? なんだい悠梨、デフロックって何かって? 

 デフロックってのはその名の通り、デフをロックして、左右輪を回転差の無い状態にする事だよ。言ってみれば昔のプラモデルとか、ミニ四駆みたいな感じだよ。


 LSDが、いざって時にロックして、通常走行時はフリーなのに対して、デフロックは常にロックしっ放しだから、強烈な駆動力の反面、通常走行では曲がらないし、曲がればタイヤが編摩耗するし、下手すると駆動系にダメージがいっちゃうからね。

 ドリフト練習用に貰って、車検が切れる半年後には捨てちゃうことが確定してるような車なら、やっても構わないけど、そうじゃなければ安易にやっちゃダメだよ。兄貴が言ってたよ。


 「でも、隣の爺ちゃんが乗ってる軽トラは、後ろにデフロックってシールが貼ってあったぞ」


 結衣、そういう標準仕様のデフロックは、スイッチがついていて、オンにした時だけデフロックになるんだよ。

 ぬかるんでいて、嵌まっちゃいそうだな……ってところとかでオンにして、そこを抜けたらオフにするの。オンにしたままで交差点なんか曲がったら、タイヤがスキール音あげっ放しになっちゃうよ。下手にそのまま走り続けると、最悪はタイヤが捥げちゃうかもね。


 ええっと、兄貴に訊いたところによると、R32の場合は、シムは左右1枚ずつで充分だって、早速、入れてみよう。

 それにしても、こんなただの鉄の薄っぺらい輪っかで、変わるもんなのかねぇ……って、よく見ると、シムが入ってるバケットの中に、色々な厚さのシムが入ってるよ、一体どれが正解なんだろう?


 すると、おじさんがヒョイっとやって来たよ。


 「おおっ!? シムの厚さで悩んでるのかい? 青春だねぇ。おじさんのお薦めは……コレだ。純正のシムを取っ払ってコレを左右に1枚ずつ入れると、そりゃもう凍った坂でもス~イスイだし、ドリフトもバッチリよぉ!」


 おじさんはそれと、ビスカスLSD本体も、こっちの方が良いと言って置いていってくれたよ。

 おじさんのこの妙な知識は一体どこから来てるのかは謎だけど、おじさんのお薦めのシムを見てみよう。

 純正のシム2枚よりは薄いけど、純正のシムの1.5倍以上厚さがあるから、確かに、効きは良くなりそうだね。


 それじゃぁ、中身を入れ替えて、そして新たなシムを入れて組み込んでみよう。

 それにしても、LSDの内部はこうなってたのか。これだけ構造が複雑だと、内部を見てみても、ぶっちゃけ、どういう仕組みになってこうなってるのか、私にはさっぱり分からないけど、でも、前よりは愛着が湧いてくるのは確かだね。自分達で作業したからね。


 え? 悠梨には分かるの?

 説明できるほどじゃないけど、昔、ミニ四駆をやってた時期があるから、その部品によく似た感じのがあったから、それと同じような感じなのかな……だって?

 なに、博識ぶっちゃってるのよ。


 よし、これで、おじさんセレクトのLSD本体をデフケースに入れて、組み付けちゃおう。

 本体を入れて、シムを入れて、サイドフランジって言って、デフの力を左右のドライブシャフトに伝えるための軸を入れるんだ。

 外す時はあっさり外れたように見えるけど、サイドフランジとLSD本体外すのは物凄く大変らしいよ。でも、私らの場合は、怪力が1人いるから、そこのところもあっさりと外れちゃったんだよ。


 そして固定したら、蓋を閉めて、デフケースは完成だね。

 なんか、思いの外あっさりといっちゃったから、結衣の車に車載までいけるんじゃね?


 よし、車載までやっちゃおう。

 車自体はリフトで上がってるから、今ついてるデフを、デフケースごと外しちゃって、こっちのデフケースと入れ替えちゃおう。


 え? そんな簡単に言ってるけど、普通は放課後のJKがチョイチョイっと、デフ交換なんてしないよね? だって? 優子さ、そんな事言ったら、普通のJKは、車の作業なんて一切しないし、解体屋さんに集まったりもしないよ。

 

 さて、作業の大詰めに入ろうかぁ。

 デフを持ち上げて取り付けるよ。せぇ~のぉ~!

 よし、デフがキャリアに嵌まったぞ……それにしても、デフケースの上げ下ろしにしたって、私ら、一体何回目だよって話。


 ぶっちゃけさ、私らって、日本一デフの上げ下ろししたJKじゃね? これって、ギネス認定取れるんじゃね?


 「そんなもん、貰っても恥ずかしいだけなんだけどー」


 結衣は夢がないなぁ。

 その間に、サイドフランジとドライブシャフトを繋いで……と。

 プロペラシャフト班はどう?


 「おっけ~!」


 力仕事は柚月にやらせるに限るよ。

 アイツがいるだけで、本来JKには難関だらけなデフ交換、しかも中身の交換までも、あっという間に終わるんだからさ。


 これで完成だね!

 早速効きがどうなってるか試したいもんだねぇ……でも。


 「でも、どうしたんだよ?」


 結衣ね、今日、ここまであっさりと進むとは思ってなかったからさ、デフオイル買って来て無いんだよ。


 「ええっ!?」


 驚いてるけどさ、結衣。

 デフ交換、今日やろうって言い出したのは結衣だからね。

 私はあくまで今日は、相談だけで、できるかどうかを確認して、土曜日あたりかなぁ……って思ってたわけ。


 「そしたら、今から買いに行って……」


 時計見てみなよ。

 今から麓のディーラー行って、デフオイル買って、戻って来てオイル入れたら、真っ暗になっちゃうし、寒いでしょ。

 それに、おじさんだって、その間、帰れなくなっちゃうでしょ、迷惑だよ。


 「そしたら、どうするんだよー」

 「それはユイ~、わがままってやつだよぉ~!」


 柚月の奴め、今日はいいとこなしだったからって、結衣がわがまま言い出したと見るや、一挙に畳みかけてきたぞ。


 「まずは~パンツ脱いでもらってから~……痛いよぉ~!」


 アンタが結衣にやると、結衣に殴られるだけだからやめときな。

 柚月の言う通り、パンツ脱いでもらっても良いんだけど、それだと話が始まらないから。


 「始まらないから?」


 部車借りて帰るしかないかな?


 「マイ~、ユイに甘いよ~!」


 まぁ、待て柚月。

 ただし、借りていけるのは、サファリだけだけどね。


 「ええーー! 嫌だよ、シルビアかセフィーロで良いじゃん!」


 あの2台は校内に置いてあるんだよ。

 あれ乗って帰って、朝置いていってるの加藤あたりに見つかったら、燈梨たちに迷惑が掛かるでしょ。

 サファリだったら、第二練習場から持ち出して、明日の朝、戻しておけば良いんだし、先もって燈梨に話、通しておけば、結衣の家にあるタイヤ貰うのに貸したとか、口裏合わせができるんだからさ。


 「う……」


 それか結衣が、明日バイクで来るか……だよ。


 「覚えてろよ!」


 ナニソレ?

 私ら、結衣の作業手伝って放課後の時間潰して、柚月なんか泣かされたのにさ、なんでそんな事言われなきゃなんない訳? マジ、感じ悪い~!


 「分かったよ!」


 分かってくれて、何よりだよ~。

 じゃぁ、燈梨に連絡するね~。


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『デフ交換って、やっぱり大変なの?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。


 次回は

 遂に、LSDのシム増し作業が終了します。

 その効果は?


 お楽しみに。

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