第276話 冬の到来と昼休み
あやかんの車も決まって、ようやく私らの周辺は快適な冬が迎えられるようになったよ。
あの後、次の週末にやって来たNXクーペのタイヤを水野が用意してたスタッドレスタイヤ付きのホイールに履き替えて、オーディオを取り付けたりして、冬の備えも万端になったんだ。
それにしても水野ったら、こんな国産メーカーの今年製造のスタッドレスなんて何処で手に入れたんだろ?
確かに中古品なのは、ちょっと減ってるから分かるんだけど、それでも今年製造だから3~4ヶ月しか使ってないって事だよね。
しかも、スタッドレスに付いてきたホイールが、漫画とかで見た事のあるやつだったよ。黒いやつでさ、黄色いボディとの対比で結構カッコよく見えるんだよね、映えるよ。
優子がさ
「綾香、夏冬のホイール、逆にした方が良いよ」
って言ってるんだけど、そんなに良いものなの?
ワタナベって言うんだってさ、なんだろ、名前を聞くとちょっと引いちゃうんだよね。なんか日本人的なしょうゆ味みたいな感じになっちゃってさ……。
水野曰く、タイヤは自分のルートで手に入れたものなんだけど、ホイールは落ちてた物だから、大した事は無いんだって言ってたよ。
そもそもさ、ホイールって落ちてるものなの? 確かに畑とかに行くと、ブルーシートを押さえる用に使い古しのタイヤとホイールとか置いてあるけどさ、あれって軽トラ用の鉄ホイールばっかりだよね。
まったく、水野は分からない奴だよね。
あとは、あやかんが、私らの車のキーレスエントリーを見て欲しいって言い出したから、じゃぁ適当なの買ってきたら一緒につけるよって話になって、今、あやかんが鋭意品定め中なんだよ。
それにしても、良かったねあやかん、本格的な冬が来る前に車がやって来て、そうじゃなかったら、今年も寒い中でバスを待つ地獄の通学が待ってたんだよ。
部室でお昼を食べながら、私はあやかんに言った。
「そうだね。去年だけでもうこりごりだったよ」
でもって、あやかんは燈梨と同じで、元々北海道の寒い地方にいたから、こっちの冬でもそんなに辛くないんじゃね?
「そんな事無い! 確かに雪の積もり方とかは向こうの方が遥かに凄いけど、寒さに関しては、同じか、こっちの方がキツイよ」
そうなの?
「そうだよマイちゃん。私、冬に関してはこれからだけど、夏から秋にかけてだって、日によっては向こうよりひんやりしてるなって感じだったからね、寒さに関しては、ここの方が辛いかもね」
そうなんだ。
まぁ、本格的な北海道人の2人からそう言われちゃうと、そうなんだろうなぁ……って、納得せざるを得ないよね。
ここって、高原で、元々開拓されるまでは、人なんて住んでない土地だったらしいからね。きっと寒さが厳しいから、人も住んでなかった未開の地だったんだと思うんだ。
そんな話をした日の夜、雪が降ってきた。
遂に雪が降り始めて本格的な冬の到来って感じだね。
でもって、一昨年、初めてバイクで迎えた冬と比べたら、これでもぬるいと思うよ。
あの時は、通学時間が短くはなったものの、寒さは厳しいのは変わらないどころか、酷くなっちゃったからね。
しかも10日目に凍結踏んでコケたのを皮切りに、冬場のバイクの辛さの洗礼受けまくったからね。
翌朝には雪はやんで、また冬晴れのスッキリした朝になったんだけど、これが曲者でさ、こういう朝は、間違いなくあちこちが凍ってるんだよね。
去年までは、こういう日は探り探り走りながら、凍結箇所を見つけていったんだけど、今年は3年目で、大体の凍結場所は把握しちゃったのと、なにせ、バイクじゃなくて車になったから、コケる心配がなくなったから、ちょっと気持ちが楽になったんだよね。
いつもの時間に出発。
これが新鮮なんだよ。バイクの頃は、さすがに今までと同じスピードでは走れないし、コケる事も考慮して、15分くらい早く出発しなきゃいけなかったんだけど、車だからね。
通学路の地獄の急坂を上る。
ここは、午前中から陽が当たるから、そこまで注意しなくても行ける。よし! ここはクリアだ。
そこから、上りカーブが幾つか続いて、学校に到着するわけなんだけど、4つ目の左カーブが鬼門なんだよ。ここって、日陰だから、前日に降ると高確率で凍ってるんだよね。
……ほら、凍ってた。もう、何台かコケたんだろうねぇ……ミラーが割れた痕と、砕けたウインカーレンズが地面にくっきり付いちゃってるよ。
その凍結を車で初の対決だよ。
この場合、今までの経験と、第二練習場での特訓の成果で、普段通りに通過した方が良いんだよ。
上りだから、下手に速度を落とし過ぎると、ローギアで上る事になるんだけどさ、そうすると路面により強く押し付ける力が働くから、いとも簡単にツルっといっちゃうんだよ。
だから、涼しい顔して2速のまま上がっていっちゃうんだ……そうすれば……ホラ、何事もなくクリアできたよ。
確かにちょっと滑りはして、ハンドルに“ぬるっ”っとした感触が伝わって来たんだけど、バイクの時みたいに、それで前輪があらぬ方角に向いちゃって、そのままコケちゃうなんて事も無いからさ、やっぱり車通学はサイコーだよぉ。
それに、スカートの下にジャージ履いてこなくても、足元から暖房でポカポカだし、好きな音楽聴きながら移動もできるしさ、ホントにマジで車通学サイコーって改めて思っちゃったよ。
あれ? 学校の近くでレッカー車が止まってる。でもって、これはいつも見慣れた解体屋さんのじゃないね。きっと保険会社のロードサービスでも呼んだんじゃね?
あぁ、やっちゃったな。
これを見ても、冬が始まったんだなって感じがしてきちゃうよね。
これはね、毎年の風物詩なんだよ
大抵が、帰ろうとしたらバッテリー上がり起こしたか、調子こいて飛ばしてたら滑って、ガードレールにしこたま擦っちゃった……とかね。
でもね、バッテリー上がりに関しては、4輪通学者講習をきちんと聞いてれば、ロードサービスなんか呼ばないんだよ。
ウチの学校は、毎月教師も含めて、必ず誰かがバッテリー上がりを起こすから、職員室にジャンピングケーブルが用意されてるんだよ。
だから、職員室に行けば、誰かが必ず救援してくれるんだよ。だってさ、逆に教師がバッテリー上がり起こして、生徒に頼んで電気分けて貰うってのもよくある話だしね。
むしろ、学校にロードサービス呼ぶと騒ぎになっちゃって、色々よろしくないんだよ。生徒指導に報告しないといけないし、それでバッテリーだなんて分かったら、講習をきちんと聞いてなかったって言われて怒られるんだから。
今日のところは、無事に学校まで到着できたね。
結論は、やっぱり車サイコーだねぇ……。
駐車場で車から降りると、黄色い車体が入って来るのが見えた。あやかんのNXクーペだね。
私は、車が止まった先まで行くと、運転席から降りてきたあやかんに声をかけた。
おはよ、どう? 車通学初日は?
「サイコーだよ! いつもより遅く出られるし、暖房が効いてて暖かいし!」
そうなんだよ、だから、車通学はサイコーなんだよ。
あやかんは、夏の恩恵が受けられなかったのは残念だけど、でも、冬のメリットの方が大きいからね。
あとは凍結路にだけは注意しながら、快適なカーライフを楽しんでね。
「その凍結が、私にとっては懸念なんだよ~」
まぁ、分かるよ。
歩いてるのと違うからさ、初めての凍結は結構ビックリするものなんだよ。
その辺の話は、またお昼にみんなとじっくりしようよ。
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『初めての冬を乗り切るのに、どんな心掛けが必要なの?』など、少しでも『!』と思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
次回は
舞華の冬道レクチャーと、意外なアクシデントに、一同が驚愕します。
お楽しみに。
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