第277話 凍結とモノクローム
教室でホームルームを待っていると、いつものメンバーが続々と入ってきた。
いやぁ、代わり映えしない光景だねぇ……。
「当たり前だろ、そんなに言うならどう変わって欲しいんだよ」
結衣は、シャレの分からない女だね。
そんなんじゃセレブになれないよ。そうだなぁ、例えば……
「ユイがモヒカンで来るとかさ~、もう船橋でもすっかり見かけなくなった某キャラクターで来るとかさ~」
柚月が言って、結衣に追いかけられて廊下へと飛び出していった。
お~い2人とも~、早く戻ってこないと先生くるぞ~!
「それにしても、今朝、凍ってなかった?」
あ、優子も気が付いた?
去年までに比べると、今年はコケる心配も無くて凄く気が楽になったよね。
そう言えば、駐車場であやかんに会ったぞ。あやかんは、初めての冬の通学を迎えるから、ちょっと不安がってたなぁ……。
「いや、綾香は去年の冬もここに通ってたよ」
そうじゃなくて、乗り物での通学が初めてだって言うのよ。あやかんはバイクにも乗ってなかったんだからさ。
「あぁ、そうか……」
あやかんの話を聞くに、北海道にいる頃も、冬場は自転車とかに乗ってなかったらしいから、タイヤで凍結しているところを通るって体験自体が初めてなんじゃないかな?
「……とすると、ヤっちゃうかもね?」
そうだけどさ……嬉しそうに言うなよ優子、友達だろ?
「嬉しそうになんて言ってないわよ! ただ、不安なのは確かだよね」
うんうん、優子にも分かって貰えたか、それで、私らからあやかんに心得をレクチャーしてあげた方が良いと思ってね。
「心得って?」
「それは、マイがさ上から目線で、綾香に言うんだろー『あやかんは、こっちの事は分からないと思うけどさ~』とか言いながらさ」
オイ、悠梨
いきなり会話に参加してきたと思ったら、意味の分からない口真似で、私の事をディスってるんじゃないよ!
「マイ、さすがにそれじゃ、綾香が嫌がるよ……」
だ~か~ら~、優子もこんな奴の冗談を、真に受けるんじゃないよ。
「マイ~! 助けてぇ~! あの腐った妖精に殺される~!」
「なんだマイ、こんな奴を庇うのか? 見損なったぞ!」
えーーい、オールメンバーで私に絡んでくるんじゃないーー!
昼休みに部室で、冬の路面の話になった。
「それで舞華っち~、どうやって冬の道は走ればいいの?」
あやかんの質問はなかなかに難しいんだよ。漠然とし過ぎていてさ。
だけど、1つ言える事は、慎重に運転をする。これに尽きるよね。
「それだと、まったく具体性に欠けるぞ」
まぁ、そういうと思ってね、いくつかのポイントに絞って話をするとさ、冬場に怖いのは、雪よりも凍結なんだよね。
雪はある程度のところまでは除雪されてるしさ、そもそも、除雪されていないような所なんか、普通の乗用車じゃ入って行けないしね。
だけど、凍結は除雪されてるところにもあるからね、気をつけながら慎重に走ることが求められるんだよ。
「どうすれば良いの?」
具体的に言うなら、まずは凍ってそうな所を見極めて走るんだよ。
何となく凍ってそうな場所って、あやかんも、今年で2年目だし、元々北海道に住んでたんだから、車やバイクに乗らなくてもさ、なんとなく分かるでしょ?
「うん、だいたいね」
そういう場所が見極められるなら、第二段階として、そういう場所に差し掛かったら……
「差し掛かったら?」
余計なことをせずに、そのまま走るんだよ。
「ええーーーーっ!?」
あやかんの驚きようが、オーバーじゃね? ……って、燈梨まで驚いてるよ。
燈梨も分からなかったの?
「舞華っち、燈梨はチャリも持ってなかったんだから、乗り物に関しては分からないよ」
そうなの? あやかん……そうか、燈梨のお母さんって、毒親だったから、乗らせて貰えなかったのか。
じゃぁ、改めて言うけど、何もしないんだよ。
勘違いしちゃダメなのは、何もしちゃダメって言ってるんじゃないの。
言い換えるなら、凍結路では、余計な動きをしないで、最小限の動きで進むんだよ。
ダメな例は、急ブレーキや急ハンドル、急加速みたいな“急”のつく運転ね。大抵初心者は、凍結に乗ってグリップ感が抜けるとパニックになって強めにブレーキ踏むんだけど、凍った路面でそれやると、タイヤはロックして、路面を滑ってあらぬ方向に車が飛んでいっちゃうからね。
分かりやすく言うと、初心者のスケートと同じだよね。
「あぁ、なるほどね」
あやかんは納得した。
燈梨には分かり辛かったかな?
「いや、理論的には分かるよ。足は止まっても、氷の上を真っ直ぐ滑り続けちゃうって事でしょ?」
そうそう。
あと、必要以上に舵角を与えるのも厳禁だよ。これは雪道もそうだけど、そうすると、前輪が切れたまま、遠心力に押されてまっすぐ進んでいっちゃうから。
「じゃぁ、どうすれば良いのさ?」
あやかんはせっかちだなぁ、実はせっかちって言うのも、雪道ではあまりよろしくないファクターなんだよ。
なるべくアクセルもブレーキも踏まず、舵角も一定で凍結箇所を通り抜けるのがベストなんだ。
「でも、道路全体が凍ってたりしたら、どうするの?」
だから、そんなせっかちに詰め寄らなくても、続きがあるから。
凍結箇所が長く続く場合も、基本は同じだよ。
でもって、ハンドルも切らなきゃならないし、アクセルやブレーキも踏まなきゃならない……となったら、今までの話を踏まえるなら……
「踏まえるなら?」
分からない? あやかん?
「分からないよっ!」
どうやら燈梨は分かったみたいだね。ニヤニヤしてるよ。
「じゃぁ燈梨、踏まえるなら何?」
「それは綾香、全部『優しく』操作するんだよ。『急』がダメで、操作はしなければならないなら、やさしくそっと操作して、ブレーキもなるべくエンジンブレーキを多用するんだよ」
さすが燈梨は、私が見込んだ部長だねぇ……思わず頬をスリスリしちゃったよ。
「あははははは……」
でも、そうは言われても、なかなか難しいところがあるよね。
そこで、燈梨に相談があるんだけどさ、今度、第一練習場を凍らせて、体感教習をしてみるってのはどうだろう?
確かあそこって、朝のうちだけは陽が当たるけど、お昼からは日陰になって水撒いとけば凍っちゃうからね。
その時にあやかんも、一緒にやってみれば良いんだよ。
代わりに、1、2年生の同乗をやるって条件とかにしておけば、ななみん達もOKするでしょ?
「そうだね、早速みんなに相談してみるよ」
私って、今日も良い事したなぁ……って、しみじみ思っていたところに、部室のドアが勢い良く開いて、柚月と結衣が飛び込んできた。
あぁ、この2人はお弁当じゃなくて、買ってくる派だもんね。……でもって、あんまり勢いよく開け閉めするなよ。埃が舞うでしょ!
「マイ~! 大変なんだよ~!」
柚月、何が大変だって言うのよ。
どうせアンタの大変なんて、くだらない事に決まってるんだからさ、さっさと言っちゃいなさいよ。
「今朝、学校の近くで車が落ちたらしいんだけどさ、それが、ウチの生徒のだったらしいんだよ!」
そうなの結衣? 今朝のレッカー車って、事故があったのね、てっきりバッテリー上がりかなにかかと思っちゃったよ。
「あぁ、舞華っちは知らなかったの? 私も見たよ。頭から血を流した女子が担架で運ばれてたよ」
そうなの?
でも、それの何が大変なの? ウチの部員の免許保持者は、今ここに全員いる訳だしさ、一般生徒なら特に問題なくない?
「それがね~、落ちたの涼香らしいんだよ~!」
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『凍結路の走行ポイントが分かった気がする!』など、少しでも『!』と思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
次回は
意外な人物の事故に、驚く一同。
そして、凍結路練習場作りが始まります。
お楽しみに。
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