第275話 決定と準備

 あやかんは、まだ悩んではいたけど、遂に決意したように


 「こっちにします」


 と、NXクーペの屋根をポンと優しく叩いて言ったよ。

 なるほどね、やっぱりそっちにしたか。

 いや、私はあやかんにピッタリだと思っていたよ。

 やっぱりさ、アクティブなあやかんには、こういう多目的に使えて、乗ってる人を映えさせる車の方が、似合ってると思うもん。


 「なによー、舞華っちはさっきまで、軽トラが似合うって言ってたくせにー」


 あれは、言葉のあやだよ。

 あやかんだけにさ……痛っ! 全然面白くないだって?

 このぉ、せっかく私が場を和ませようとしてるのに、ぶち壊すなよぉ!


 あやかんとキャッキャウフフしていると、水野が唐突に


 「了解した。車はすぐにでも引き渡せるので、必要書類を用意して、引取りに来て欲しい。それでは、失礼する」


 と言うと、元通りに2台をキャリアカーに積んで走り去っていっちゃったよ。

 ホントに、動きが事務的なんだよなぁ……水野は。

 

 あ、燈梨からLINEだ。

 あやかん、燈梨バイト終わったんだって。

 せっかくだから、合流して一緒にお昼にしようよ。


 県道沿いにある、私と燈梨がバイトしてるのと同じ系列の和食レストランで燈梨と合流すると、早速お昼にしながらさっきまでの話をした。


 「へぇー……」


 燈梨は喜んでいたが、さすがにNXクーペの事は知らないので、薄めの反応になってしまった。

 あやかんは、その態度にちょっとムッとしながら


 「これだよ!」


 と、スマホで撮った現車の画像を見せた。


 「なんか、全体のラインを見ると、フェアレディZに似てるよね」


 燈梨も私と同じ感想を言った。

 ホラ燈梨、メインはZが大好きなアメリカだからさ、フェアレディZの弟分ってイメージをつけておいた方が、色々イメージ的にも良いと思うんだよね。


 「確かにね。この黄色だって、フェアレディZと同じ色だもんね」

 

 それにしても、面白い車だったよ。

 パワーも結構あるし、トルクもたっぷりだしさ。

 エンジンがSRの1800ccだったから、ピックアップも良くて凄く面白かったんだよ。


 「へぇー、綾香の車もSRエンジンなんだね」


 燈梨がニコッとして言った。

 やっぱり、燈梨はあやかんと仲がいいねぇ。


 「これで、車がなんとかなったから、あとは書類を揃えて、すぐにでも乗り出したいなぁ」


 あやかん、取り敢えず揃える書類のチェックだよ。

 あやかんは印鑑証明が無いから、恐らくお父さんの名義になると思うんだよ。だから、印鑑証明と委任状……えっ? その辺は、既にお父さんが用意してくれてるって? じゃぁ、あとは車庫証明だよね。

 水野が、車検証のコピーをくれたでしょ、これに書いてある事項を警察署から貰ってきた車庫証明の用紙に書いて……って、水野がそこまで用意してるじゃん。


 そうなったら今から書き込めるところを書き込んじゃおう。

 車名と型式、車体番号に、車の寸法だね。

 うんうん、そうだよ。あとは、お父さんに書き込んでもらおうよ。

 そしたら、週明けには警察署に持って行けるね。警察署は平日の夕方までだから、私か燈梨が月曜日に連れて行って、そのまま送って行くよ。


 「うわぁ~、なんかすっごく待ち遠しいなぁ」


 でしょでしょ。

 この時間もまた、車買う時の醍醐味だなんていう人もいるくらいだからね。


 普段見た事無いくらいテンションの高いあやかんを見て、私も燈梨も思わず笑顔になっちゃったんだ。


 その後も、あやかんの興奮した話は続いた。

 どうやらあやかん的には、奥に引っ込んだライトの独特な顔周りと、Tバールーフはすっかり気に入っちゃったようだ。


 「あのTバーって言うの? あの屋根のガラスのやつは、面白くて気に入っちゃったんだよなぁ」


 あやかんの喜ぶ顔を見てすっかり満足しちゃった私だけど、ふと思い出したことがあった。


 燈梨、NXクーペはさ、標準でカップホルダーがついてるんだよ。


 「マジ?」


 これって許せなくね?

 私らがあんなに苦労してるのにさ。


 「それは、許せないよね」


 こうなったら、あやかんをヤッちゃうしかないと思うんだよね。

 次の瞬間、燈梨があやかんを羽交い絞めにして、ボックス席の奥のソファに引きずり込んだ。


 「やめろよー……むぐっ」


 さぁ、あやかん。

 あやかんの弱点はどこなんだぁ? 素直に言ってごらん。


 「誰が言うかぁ!」


 じゃぁ、仕方ない。

 あやかんのおっぱい握り潰しちゃお~っと。


 「~~~~~~~~~~!!」


 フフフフフフフ……正義は勝つんだぞ。


 「なにが正義だ! それに、燈梨も向こうにいた頃は、こんなことする娘じゃなかったのに、どこかで毒されたんだなぁ……」


 あやかんは、恨めしそうな目で燈梨を見たけど、燈梨はケロッとして


 「そう? これが私の地だよ」


 とへらっとしながら言っていた。


◇◆◇◆◇


 お昼と裏メニューのスイーツを堪能した後は、あやかんの揃えるものを見に、カー用品店へとやって来たんだ。

 

 「なんか、気が早くない?」


 そんな事無いよ。

 大体、今日乗ってみて、あやかんに足らなさそうなものはピックアップ済みだからさ、最初にある程度揃えておいた方が、あやかんの軽トラ……じゃなかったNXクーペでの移動も楽しくなるってもんだよ。


 「また、軽トラって言ったな~!」


 気のせいだよ、ねぇ燈梨。


 「うん、綾香の気のせいだよ。マイちゃんがそんな事言う訳ないじゃん!」


 そうだよそうだよ。あぁ、私はここまで尽くしてきたあやかんに、そんな心無い事を言われてもう、明日から学校に行けなくなっちゃったよ。


 「明日は日曜日だろー」


 さて、カップホルダーは取り敢えず純正のがあるから、今日は買わないにしても、オーディオの品定めとか、配線キットだけ買うとか、あとはルームミラーだったり、ティッシュケースだったりとか、そういう小物類なら買えると思うよ。


 まずはオーディオの品定めをしよう。


 「私も、納車のその日にオーディオ交換したんだよ~」


 へぇ、燈梨、そうだったんだぁ。

 なに? 登録に行ったコンさん達が、純正のオーディオの調子が悪い事に気付いて、買ってくれたんだって?


 くそぅ、いつも燈梨の端々に登場するコンさんめぇ……いちいち燈梨の心を掴みやがって許すまじ、今日はななみんもいないから心置きなく、コンさんにお仕置きしてやるぞぉ!


 「ところで、舞華っちぃ、このルームミラーってどういう効果があるの?」


 え? あぁ、あやかん。

 どうしたのって? いやいや、私の心の中で、今コンさんがジャーマンスープレックスを喰らって倒れたところだったんだよ。


 ええっと、このミラーはね、純正のに被せて幅を広げる事によって、左右の死角をなくす効果があるんだよ。

 純正の防眩機能は使えなくなっちゃうんだけど、使ってる人は手放せないって言ってるね。兄貴も使ってたから、私の車にもついてるんだ。


 オーディオは、ここだけの話、通販で買った方が安いからさ、今日は機能のチェックをして、機種を決めるところまでやっておこうよ……って、なんでこの時期に出血セールなんてやってるんだろう?

 おおっ! このオーディオ超安いよ! 機能にも問題ないし、限定5台で、残り2台だから、取り敢えず、抑えておいて、スペックを見てみよう。

 備え付けのパンフによると、性能的に劣るものでもないし、問題なさそうだね。私とお揃いのメーカーだから、音も悪い訳じゃないしね。


 なんか、今日はとっても楽しいねぇ。

 何故か分からないけど、妙にウキウキしちゃってるよぉ。

 買い物も終わったし、ちょっと2階のフードコートに行ってお茶でも飲もうよ。


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『人の車の納車前のグッズ選びもそんなに楽しいの?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。


 次回は

 遂に冬本番に入ります。

 高原の冬の厳しさを乗り越えるR32の姿に……。


 お楽しみに。

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