第272話 タイムマシンに乗って

 タレントショップ跡に戻って来ると、水野がもう1台の車を準備し終えて待っていたよ。

 

 なにこの車?

 目立つ黄色のボディ色もさることながら、妙の屋根のラインが丸くて低い。

 なんか、昔のフェアレディZに似てるけど、ちょっと小さくね?


 「なんだろ、あの車?」


 あやかんも同じ感想だった。

 あやかんはスターレットを水野の横につけて止めたので、2人で降りて水野の元へと行った。


 なんですか? この車。

 私が言うと、水野はちょっと得意気な顔になって


 「この車は、NXクーペというんだ」


 えぬえっくす? 珍妙な名前だな。

 クーペはボディの形の事だからね。アルファベットが名前なんて、最近のマツダの車みたいだな……って、ボディ後部には『NISSAN』って書いてあるから日産車みたいだね。

 そして、同じ後部にはNXクーペって書いてあったから、この車の名前がNXクーペだって事は間違いないみたいだよ。


 どうやら水野の話だと、内容的にはサニーのクーペ版だと考えて差し支えないって話だったけど、サニーって、結衣や燈梨が代車に乗ってた、あのじじむさいセダンだよね。

 確かあれって、ちょっと乗ったけどさ、ただ走るってだけで、あまりいい印象が無かったような気がするんだけど。タコメーターは無いし、ギアがグニャグニャ入ってる感じがしてさ、ただの移動手段だって割り切るにしても、もう少し何とかならないって感じの車だったよ。


 まぁ、なんにしても、決めるのはあやかんだからね、最初に変な予断は与えないように黙っておこうね。

 ホラ、いきなりマイナスな情報を与えられたら、そこからスタートになっちゃうからね。


 それにしても、ボディが違うだけで、全く印象が変わっちゃうよね。

 うん、なんていうかさ、本当に全体のイメージがフェアレディZにそっくりだよね。

 主戦場であるアメリカで、フェアレディZの弟分みたいなイメージで売ってたから、そういうデザインにしてるんだろうって? なるほどね。

 ちなみに、フェアレディがZXで、シルビアがSXで、これがNXっていうシリーズ名なんだって。


 内装は、まぁ可もなく不可もなくって感じだね。

 このダッシュボードは、当時のサニーの物がそのまま使われてるって? そうなの? でも、こっちにはタコメーターがちゃんとついてるね。

 

 早速、さっきと同じようにまずはこの中で試乗してみようよ。

 助手席に乗ったんだけど、サニーのイメージで乗り込むと、あまりにシートの位置が低いから、ちょっとビックリしちゃうね。


 あやかんに何周かして貰ってるけど、さっきのスターレットとは完全に性格が違う走りだって事は、よく分かるよね。

 スターレットは荒々しくて、ターボの力でドカンって感じでパワーを作るって感じだったんだけど、このNXクーペは、初速からしっかりとトルクが立ち上がって、全体の走りに余裕を持たせてるって感じがあるよね。


 どう? あやかん?


 「うん、さっきの車より運転しやすいよ。それに、パワー感も結構あるよ」


 そうなんだ。

 やっぱりあやかんみたいな初心者には、こういうパワーの出方が穏やかな方が乗りやすいよね。

 それに、思ったよりパワーがあるのかな? 8の字やって貰ってるんだけど、心なしかさっきのスターレットより初速ダッシュが速いような気がするよ。


 今度は、外に出てみよう……って、あやかんどうしたの?


 「この天井って、どういう風になってるの?」


 天井って……あぁ、この車、Tバールーフだったのかぁ。

 これはね、運転席と助手席の上がガラス天井になっていて、それぞれ外すことが出来るんだよ。

 スカイラインのサンルーフみたいに、ボタン1つで電動で開閉しないのが難点だけどさ、開放感は抜群なんだよ。

 なんで知ってるのかって? 兄貴が乗ってたMR2についてたからね。


 よしっ、試しに外してみよう。

 車を止めて、これを外した後、トランクに入れるんだよ。

 

 「うわぁ……凄いね!」


 うんうん、凄いんだよ。

 ただ、途中で雨が降ってきたら悲惨だけどね。今日みたいな晴れてる日にはサイコーなんだよ。

 今みたいな冬だと寒いんじゃないかって思うだろうけど、ヒーターを効かせておけば全然寒くなんか無いんだよね。

 よーし、じゃぁ、早速行ってみようかぁ。

 

 さっきと同じコースを走ってみて思ったのは、この車、やっぱりパワー感があるよねって事だよ。

 アップダウンの激しい道だからさ、パワーが無いと如実に分かるんだよね。例えば部にある教習車とかさ、この道走った時は本当に悲惨だったんだよ。止まってるんじゃね? ってレベルの遅さで。


 でもね、この車、結構速いよ。

 サニーってさ、1500ccくらいの大きさの車だと思うんだけど、その中でも、このNXクーペは最高峰なんじゃないの?

 結構モリモリとパワーが湧いてきてさ、前に乗せて貰ったサニーとは大違いに思えるんだよね。

 え? ちょっと乗ってみてくれって?


 実際に私が運転してみても、結構パワー感があって、しっかりした走りをするんだよね、この車。

 ハンドル切った感じもしっかりしてるし、身のこなしもクイックでさ、あのサニーと同じ車とは思えないんだよね。


 速くて楽しいよ。

 そりゃぁ、パワーを比べたらスカイラインの方があるんだけどさ、でもって、このキビキビした感じは、スカイラインでは得られないものだよね。 

 どちらが良いかなんて、単純には決められない良さがあるよ。

 この勾配のきつい上り坂でも、パワーが途切れることなく軽快な感じで上っていけるし、面白い車だよね。


 また、あやかんに交代して走ったけど、感想を言うならバランスが良いよね。

 さっきのスターレットは、破壊力とパワーに特化したフローチャートになるし、スカイラインは、高い速度域での安定に関しては抜群なんだけど、キビキビ感とか軽快感に関しては、譲っちゃうところがあるからね。

 その点、このNXクーペって車は、バランスの取れたフローチャートになるんだよね、私的に。


 よーし、戻ってきたよ。

 楽しかったね……って、屋根戻さなきゃね。


 「どうだったかね? ちなみにこのNXクーペはシリーズ最高峰の1.8リッター車だ」


 なにっ! このNXクーペ1800ccもあったんだ。

 どうりで俊敏に走ったし、ちょっと横着にギア入れても走りきれた訳だよ……って、先に言えよ水野め! 


 どうやら、NXクーペには、1500cc、1600ccと、この1800cc、輸出用には2000ccまであったらしいよ。

 1600ccまでのエンジンと、この1800ccは、単に排気量が違うだけでなく、エンジン自体が全く違うんだってさ。1800cc車のエンジンは、燈梨のシルビアなんかと同じシリーズのエンジンなんだって。

 うん、確かに。このエンジンの軽快さとトルク感は、シルビアのそれに通じるものがあるよね。 


 「舞華っち、見て見て~」


 どうしたの? あやかん。

 運転席のドアを開けたあやかんは、ドアの受けがある方のボディについている妙な蓋を開けると、そこから傘を取り出した。

 ナニコレ? こんな所に傘を収納するポケットがついてるの?

 あぁ、さすがに短めの傘にはなるんだけど、それでも凄いアイデアだね。


 こりゃあ、面白い車が2台揃ったけど、この2台から選ぶのって、なかなか難しい選択だねぇ……私なら、悩んじゃうかな。

 突貫小僧で走りが刺激的、そしてメジャー車種であるスターレットか、マイナー過ぎるけど、排気量にもパワーにも余裕があって走りも良い、そして色々なギミックが所有欲をくすぐるNXクーペか……。

 共通項は、FFってところだけだねぇ。


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『NXクーペって、そもそもどんな車?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。


 次回は

 乗り比べが終わって、綾香は遂に決断をします。


 お楽しみに。

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