第273話 じゃじゃ馬と1人旅
あやかんは2台の車を見て悩んでたよ。
うん、この場合って、あやかんが車に対して何を求めるかによって答えが変わってくるんだよね。
単純に走りの刺激だけを求めるなら、スターレットが圧倒的に魅力だよね。
洗練されているか否かは別として、あのとんでもないほどの加速感や、加速中のハンドルの暴れ方とかさ、ああいう車って、恐らく今後出てくる事は無いと思うんだよね。
ホラ、今の車って、電子制御で姿勢やパワーの出方とかをコントロールしていく傾向にあるからさ、あんな突貫小僧みたいな車はメーカー的に出せないんだよ。あれより速い車っていうなら簡単に作れるけど、あんなじゃじゃ馬っぷりを味わえるって言うと、あの車に勝るもの無しって感じがするよ。
私みたいなややSで、じゃじゃ馬を慣らして自分の手の内に収める事に魅力を感じるタイプの人間にとっては、このスターレットの乗り味は嫌いじゃないし、乗りこなせた時の爽快感が格別だと思うから、是非乗りこなしてみたいと、思っちゃうんだよね。
でも、その他のファクターなんかを求めるなら、NXクーペの方かな。
スターレットはエンジンとかを除けば普通のコンパクトカーだからさ、実用車感丸出しだけど、NXクーペはサニーをベースにしながらも、ちょっとお洒落な感じとか、あのTバールーフの開放感とか、そういうのが魅力だよね。
ちなみにさっき水野が言ってたんだけど、NXクーペの1500ccと1600ccはデジタルメーターが標準なんだって、それもついてたら、もう言う事なかったんだけどさ、何故か1800ccは普通のメーターしかないんだってさ、マジでイミフだよね。
見た目も低くてカッコ良いし、それに何より、あのクーペの流麗なラインがさ、同じ値段払っても、特別な車に乗ってる感を感じさせてくれるんだよね。
なにせ、黄色いクーペだよ。あっちは黒いハッチバックだからね。
自分の車として、人に見せた時の『おおーっ!』っていう感じは、圧倒的にこっちの方が上だよね。
上手くすれば、外車だと思われてさ『どこの国の車?』なんて聞かれるかもよ。
そしたらすかさず、イタリア車だとか言っちゃって、フィアットとか適当な事言っちゃえば、女子同士ならそんな深く追求する娘もいないだろうから、一目置かれるかもよ。
しかし、どっちも魅力だなぁ……それぞれに無いものを持ち合わせてるからさ、だから悩ましいんだよ。
これでスターレットと、スイフトスポーツとかだったらさ、車の性格が似通ってるからさ、どっちってズバリ言えちゃうんだけどね。
あやかんも、そう思っているのか思案顔になって黙り込んじゃったんだよね。
どう? あやかん。悩んでるなら、もう1回乗ってみるってのはどうだろう?
「えっ!?」
そんな、ちょっと乗っただけで、全てを理解するのなんて難しいじゃん。せっかくここに持って来て貰ったんだからさ、納得いくまで乗ってみて、自分に合ってると思う方に決めた方が良いよ。
じゃないと、今度という今度こそ、あやかんは軽トラに……
「やめてよ~!」
あはははは、冗談だよ冗談。
しかし、あやかんはなんでそんなに軽トラに拒絶感があるんだろう?
私や優子なんかは、家にあって、便利だけど、ドライブに出かけるような車ではないと思ってるからなんだけど、あやかんは違うでしょ?
「嫌だよ、2人しか乗れないし、それに、あれじゃ仮眠とかできないじゃん!」
そうか、あやかんは最初に2シーターは不可って言ってたもんね。
それにしても仮眠って、あやかんは車中泊希望なの? 今の流行りに乗ってるの? それとも、これまた今流行りのおひとりキャンプ?
「私ね、母親と折り合い悪くて家に居づらいから、小学生の頃からしょっちゅう家出とかしてたんだ。だから、1人旅とかも苦にならないんだよね」
そうなの? あやかんったら、そんな大それたことしてたの?
でも、なんかあやかんって、燈梨の家庭環境と微妙に似てるんだね。
え? たまたまだって? うん、そうなんだろうけどね。
でも、そう考えると、リアシートを倒して寝袋で寝られるのは……って、どっちもハッチバックだから、リアシート倒して寝袋で寝る事は出来そうだね。
寝る時に空を眺めたいなら、NXクーペが有利かな。
リアガラスがクーペで寝てるから、そこから満天の星空を眺めることが出来るし、更に、運転席の上はTバールーフだから、そこからも空を眺めながら寝ることが出来ちゃうよ。
「う~ん……なんか悩んじゃうなぁ……」
あやかんの車選びの方向性は何となく分かった。
だったらちょっと訊いてみよう。
あやかんさ、バイクは乗らなかったみたいだけど、自転車ってどんなの乗ってたの?
「こっちでは乗ってないけど、北海道にいた頃はMTB乗ってたよ」
あぁ、なるほどね。
さっきのあやかんのアクティブだって話と、この自転車の話で、なんとなくあやかんは、遠くとか、未知の世界とかに出かけるのが好きなタイプだよねってのが分かっちゃったよ。
だから、選ぶ車も、恐らくだけどこっちになるんだろうなぁ……って思っちゃうんだよね。
「ねぇねぇ、舞華っちはさ、私はどんな車が似合うと思う?」
え? 私に訊くの? 仕方ないなぁ……。
あやかんに似合うのは、メタリックカラーの軽トラかな……。
「ココには軽トラないだろー!」
いや、だって私に丸投げするからさ。
私はあやかんのイメージから一番似合うのはメタリックカラーの軽トラ……って、痛っ!
「もういいよ! 聞かないから」
ゴメンゴメン、でも、どんなのが似合うかじゃなくて、どんなのに乗りたいかってところが重要なんだよ。
「う~ん……」
恐らく、あやかん自身でも今回の2台に関して、決めきれないところがあるんじゃないかな。
だから、もう1回、この辺りを一回りしてきた方が良いと思うんだよね。
私とあやかんは、スターレットに乗ってもう一度、走り出した。
「この、ドタバタ暴れるところが、面白いんだよねぇ……」
あやかんも、この車の特徴が分かって来たみたいで、魅力がそこにある事をしっかり見抜いていた。
「ただ、これから雪の季節になるっしょ、そうなると苦労するよね……」
分かってたか、あやかん。
そうなんだよ、この辺の地区では冬場があるから、この手の2駆のハイパワー車は乗り辛くなってくるんだよね。
恐らくだけど、スターレットだと凍った上り坂で前輪が空転して、ズルズル落ちてきちゃうと思うな。
「維持費ってどうなるんだろうね。なるべく、自分でバイトして賄いたいからさ」
あやかんは偉いな。私は車を押し付けられたから、当然、芙美香に払わせようと思ってるのに。
ええっと、そうか、NXクーペは1800ccだったか……1500ccだったら税額は同じなんだけど、1800ccだとランクが変わるから、年額5,000円違うね。
「そうなのかぁ、燃費はどうなんだろう?」
これに関しては、詳しくは分からないけど、極端には違わないよ。
スターレットの場合は、ターボをどれくらい多用するかによって変わってくるけど、この辺の地区の場合は勾配がきついから結構お世話になっちゃうからね。
NXクーペは排気量が大きい分、余裕もあるけど燃料も排気量なりに使うからね。でもって、NXクーペは1500ccじゃなくて良かったと思うよ。
「なんで?」
どうも、乗ってた人の話をネットで見たけど、排気量の割りに燃費が極悪だって言ってる人が多いよ。
思うに、パワーが足らないから、いきおいアクセルを多く踏んじゃうんだろうねぇ……。
「う~ん……」
私は、悩むあやかんの姿が、とても楽しそうに見えると共に、自分自身はそういう葛藤もなく車が決められていたので、そんな悩みにふけるあやかんを見て、ちょっとジェラシーを感じてしまったんだよ……。
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『スターレットって、そんなに突貫小僧なの?』など、少しでも『!』と思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
次回は
綾香の悩みはまだ続き、舞華は、初めて車を選ぶ葛藤に羨ましさを感じます。
お楽しみに。
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