第265話 さぎょうとルーバーと秘密
この数日間のイライラともようやくお別れできるよ。
遂に注文していたエアコンの吹出口が到着したんだよね。
翌日の学校で、早速みんなに見せると
「へぇー、まだ出るんだね」
「それだけ、定番の破損個所って事でしょ~」
優子と柚月が反応した。
恐らく、柚月のセンター吹出口は交換された形跡があったから、私と同じ症状になって壊れたものだと思うから、やっぱりそうなんだと思うよ。
部車のシルビアを見ると、エアコンの吹出口は一体成型になっていて、上下方向の風向きは吹出口ごと動いてるんだけど、スカイラインのは、ルーバー部分が別パーツになっているから、ドリンクホルダーの荷重で壊れちゃうんだと思うよ。
「なるほどね」
優子、他人事みたいに言ってるけど、優子のは一番ヤバいからね。
「なんでよ!」
優子の車の最初の状態、覚えてないの?
長期間、室内に放置してたせいで、室内がカビだらけだったことをさ。しかも、この間のライトスイッチの作業の時、最近、室内が湿っぽいとか言ってたでしょうが。
そうなると、優子の車の内装は、それだけ過酷な環境に晒されてたって事なんだよ。
「そうなんだ……」
優子ったら、ぬか床漬けてるんだから、カビとか菌とかには詳しいと思ったんだけどなぁ……。
それと、柚菌! さっき作業って優子に言ってる時『さしすせその事だよ~』とかつまらない事言ってたの、聞こえてるんだよぉ、それは、作業じゃなくて『さ行』だろーが!
「そういう意味だったのか、言われなきゃ分からないし、つまらないな」
悠梨が肩をすくめて感想を言っているが、私はそれは無視して柚月を捕まえた。
「参りました~、ゴメンなさい~!」
こいつ、最初からそう言えば許されると思って、最近先にとんでもないことするようになったからな、しっかりお仕置きしてやる。
えいっ! えいっ! このっ! やぁっ! ていっ! この野郎!
悠梨ー! 掃除用具入れ開けて。柚月を押し込めて、外からガンガン蹴ってやろう!
「ヤダー!!」
うるさいっ!
“ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンっ”
私と悠梨と優子の3人がかりでガンガンロッカーを蹴ってやったら、ようやく柚月は反省した様子だったよ。
まったく、最初からくだらない事言わなければ良いんだよ。
ところで、この話題に関わってきそうな結衣はどうしたの?
え? 職員室に行ったって? 結衣のやつ、なんかやらかしちゃったの? 違うって、ただの日直だって?
昼休みにも、部室でお昼にしながら、吹出口の話は続いていたんだ。
一応、芙美香に言われて2つ買った話なんかも交えてね。
すると、柚月が言った。
「おばさんが~、2つ買えって言った話は正解かもね~。結局、今の使い方だと~またいつ壊れるか分からないからね~」
そうなんだよね。
確かに、私が壊れたルーバーを見て、導き出した結論からすると、今の使い方でドリンクホルダーをつけていると、いつまた壊れても不思議じゃないって、事になっちゃうからね。
それにしても芙美香の奴め、なんで、あんな事言ったのか、全くもって分からないんだよな……。
「なにが~?」
私は、柚月にこの間帰ってからの
「おばさんが~、なんで昔の事を知ってるのかが、不思議なの~?」
柚月、さては何か知ってるな?
「知らないよ~」
と柚月は言ったけど、凄く気になるなぁ、柚月の態度、何か知ってるんじゃないかな?
まぁいいや、今度追及する事にしよう。
放課後、早速吹出口の交換にかかったよ。
外し方は前に柚月のダッシュボードの作業の時にやったし、しかも、今回は、ルーバーがないから、作業スペースも広くて、中の爪も見えるからやりやすいよね。しかも壊しちゃっても問題ないから、気兼ねなく外せちゃうのもメリットだよね。
マイナスドライバーを上下2ヶ所ずつ、計4ヶ所あるから、4人がかりでドライバーを突っ込んで爪を押してやると、すんなりと外れてくるから、外した所で雑巾の登場だよ。
「マイ、なんで雑巾が必要なんだ?」
結衣は掃除が嫌いなゴミ屋敷一直線タイプだな。
空調のダクト周りが砂埃だらけじゃん。折角外したこの機会なんだから、綺麗に拭いておくに越したことはないだろ。
全部拭くのは無理としても、手の入る範囲で綺麗に拭いておいて、そして、手が入らないところは、エアダスターで埃を飛ばしておこう。
更に、秘密兵器のパイプ洗浄ブラシを100均で買っておいたんだ。コレの先端を濡らして、突っ込めるところまで突っ込んで洗っておこう。
よしっ、出来る範囲で綺麗にしておいたから、今度は新しい吹出口をつけよう。
新しいのは既に一体成型になっていて、簡単に取りつけられるんだよね。
外した所に合わせて、はめ込んでいくだけだからね。
パチンと爪がロックしたら完成だね。
きちんとルーバーや、シャットダイヤルが使えるかを確認したら、助手席の吹出口も換えとこう。
確かに、左右のルーバーの動きが怪しくなってたんだよね。
今度は、センターと違ってルーバーがついてる健康な個体だから慎重にマイナスドライバーを……って、マイナスドライバーで刺した瞬間、枠がバラバラに崩壊しちゃったよぉ。
……経年劣化した樹脂は、凄くもろいんだねぇ……。
とにかく、そうなったらこっちも外すのは容易くなったね。
こっちは上下だけの2ヶ所の爪だから、なんとか1人で外せそうだよ。
やっぱりダクトの周辺は砂埃が凄いねぇ……。
こっちも綺麗にしておこう。やっぱり、外気を採り入れてるから、どうしてもダクトには砂埃がついちゃうもんなんだねぇ……。
そしてこっちにも新しい吹出口を取り付けて……と、これで完了だね。
こっちもさっきと同様、動作をチェックして、ルーバーとシャットダイヤルの動きが渋くないかを……大丈夫だね。
むしろ、今までのが引っ掛かってるみたいな動きだったから、新しくなって、スムーズになっちゃったっよ。
そして、シャットダイヤル回した時に“ボンッ”って感じで空気が震えるみたいな感じの音がしてるんだよね。
え? 今までのは、シャットの蓋の部分のスポンジが劣化して、気密性が落ちてたんじゃないのかって?
確かに、そうかもしれないね。そう考えると、コレも納得できるんだよね。
よし、取り敢えず、交換は終わったよ。
これで帰り道から車内の空気が私のものになるよぉ。
え? 元々自分の物だろうって? ルーバーが無いと殆どが助手席シートの背もたれに向かって吹いてるから、助手席のシートのものだと言っても過言じゃなかったんだからね。
これで、まずは第一段階は完了したね。
明日からは第二段階へとこの問題は移行するんだよ。
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『柚月は一体、何を隠しているって言うの?』など、少しでも『!』と思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
次回は
懸念の吹出口交換を終えた舞華。
それだけでは終わらない第二段階へとこの問題は移行します。
お楽しみに。
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