第264話 バブルとダイヤル
くそぅ、あの芙美香めぇ……また意味もなく私の事を叩きやがってぇ!
ただ、何故かエアコンの吹出口のお金をくれた上、何故かは知らないけど、助手席側の吹出口と、もう1つセンターの吹出口を買うようにってお金出してくれたんだよ。
え? 結構するんだよ、大丈夫なの? いいから黙って買って来いだって? なんで叩くんだよ!
それから部品が到着するまでの間は、結構大変だったんだよ。
前も言ったように、R32のセンターの吹出口は助手席の方に向いてるから、風を出してもその大半が私のいない方へと向かって行っちゃうんだよね。
しかも、調節するルーバーが無くなった事によって、風がそのセンターの方へと集中してるのか、センターから異様に強い風が吹き出してて、その他のところの風を喰っちゃてるような感じなんだよね。
優子とかが言うには、車の空調はユニットから出た風を設定された風量で出すんだけど、各吹出口まで行くダクトは原始的な作りだから、どこかの吹出口で異様に風を出しちゃうと、その他の吹出口から出る量が必然的に減っていっちゃうんだよって話なんだよね。
なるほどね、10の風が出たとして、普段なら4つの吹出口に2.5ずつ分配されるのに、壊れたセンターに8行っちゃったら残りの2つからは1しか出てないって事なんだね……。
「シャットダイヤル使ったらどう?」
昼休み、部室でお昼にしていたところ、卵焼きを食べていた燈梨が不意に言った。
なんだい、そのシャットダイヤルって?
なになに? 吹出口の脇に風のマークとバツ印のマークが入ったダイヤルがあって、それをバツ側にすると風を遮れるようになってるんだって?
そうなの?
「マイ~、自分の車の機能くらい、ある程度、把握しとこうね~」
うるさいな柚菌め!
「ユズキンって言うな~!」
唐揚げと交換した卵焼きを食べながら燈梨から聞いた話によると、ある程度の車格以上の車には、各々の吹出口で風を遮れるようにシャットできるようにダイヤルがあるらしいのだ。
そうする事で不必要になった分の風を、その他の吹出口で分配するために、他の風も強くなって一石二鳥の装備らしい。
「特に、センター吹出口の場合は、左右の他に後席に風を送る役割もあるから、後席に乗らない時はシャットする人もいるみたいだよ」
そうなのか、早速今日から使ってみよう。
でもって、部のシルビアにはついてなかったような気が……。
「シルビアは、S14からセンターのは無くなっちゃったんだよね……へへへ」
燈梨はにへらっと自嘲的な笑いを浮かべながら言った。
それによると、S13まではあったらしい。これは、コンさんのS13についていたから間違いないそうだ。
しかし、バブル崩壊後に登場したS14では、コストダウンによる装備の見直しが行われて、左右の吹出口のダイヤルは堅持されたものの、センターのダイヤルは廃止されたらしい。
「S13と同じ内装の180SXも、S14登場後のモデルでは、さりげなく、センターのシャットダイヤル廃止されてるって、コンさんが言ってたよ」
そうなの? と思ったら、柚月と優子がそれぞれスマホで見せてくれた。
あ、ホントだ。柚月が見せてくれた'93年の180SXのカタログでは、エアコンのセンター吹出口の真ん中にダイヤルがついてるけど、優子が見せてくれた'95年版では無くなって、その場所がつるペタになってるよ。
なるほどね、燈梨の車は、その流れを踏襲してるんだね。シルビアはそのまま終わりを迎えたんだね。
「S15は~、さらにコストダウンを進めて丸形ルーバーになったけど~、蓋を閉じられるようになったから、シャット性能は高まったよ~」
今の安い車によく使われてるような吹出口になるのか、知ってるよ、前にエルグランドの代車でクリッパーリオとかいう軽ワンボックスが来た時、それだったから。
さて、本題に戻ると、そのダイヤルを使えば、少なくともセンター吹出口の風は止められるわけね。
ちなみに、右側って変な丸形の吹出口だけど、どうやって止められるの?
「あれって、センターのノブにダイヤルがついてるでしょ? あれを回すんだよ」
そうなの優子? ノブにダイヤルかぁ……後で見てみよう。
帰り道でシャットダイヤルを使ったんだけど、ルーバーが無くなったおかげで原理は分かったんだ。
吹出口のダクトの部分からやって来る入口の部分に可動式の蓋がついていて、ダイヤルでそれを開け閉めしてるっていう仕組みなんだね。
ただ、どうにもあまりシャットできてる実感が無いんだよね。
中で蓋が可動するって言う仕組み上、寸法に余裕を持たせないといけない上、その隙間に貼ってあるスポンジがボロボロになっちゃって、隙間から風が抜けてきちゃってるよ……。
そして、分かってはいるけど、飲み物を置く場所が無いっていうのは、やっぱり辛いよね。
私もある時間帯までは覚えてるんだけど、それ以降になるとすっかり忘れて、ついいつもの習慣で飲み物持って乗っちゃうんだよ。やっぱり、今まで出来てた事が出来なくなるってのは、なかなかにきついよね。
何とかならないかと思って、シフトレバー後ろのスペースに飲み物を置けないか試してみたんだけど、置けはするけど、固定が効かないから倒れちゃうんだよね。
柚月が昔のカタログのページを見せてくれたんだけど、あそこにドリンクを1本だけ置けるようにするオプション品が存在したらしいんだよ。だから、原理的には置けないって事は無いと思うんだよね。
まぁ、取り敢えず、芙美香のお陰でセンターの吹出口を2つ買ったから、時間をかけて色々探してみようかな。
それから、右側の吹出口の謎はようやく解けたよ。
確かに優子の言った通り、丸い吹出口の角度を変えたりするノブの先端がダイヤルになっていて、それを半回転させると“ドスッ”って、明らかにダクトが塞がったみたいな音がして、風が来なくなるんだよ。そして反対に回すとまた風が出てくるようになってるんだね。
それにしても凝った作りだよねぇ、今だったらこんな複雑な作りにしないんだろうけど、さすがバブルだよね。
この丸形吹出口の作りもさることながら、このダッシュボードのデザインが凝ってるお陰で、右側の吹出口が追いやられた結果、右だけがこんな形になっちゃったんだと思うんだよね。
そして、昼に電話があって、ようやく注文してた吹出口が来たんだよ。
いやぁ、長い道のりだったけど、遂に元に戻るよぉ……。
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『吹出口の形状だけでコストダウンが見抜けるものなの?』など、少しでも『!』と思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
次回は
遂に吹出口が到着して交換に入ります。
お楽しみに。
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