第266話 ロンサムとホルダー

 吹出口の交換は、凄く意味のある事だったよ。

 風向きや風量が調整できるようになったのもさることながら、シャットダイヤルの機能がかなり強くなったんだよ。


 今までは、やっぱり昨日悠梨が言ってたように、ダイヤルのところに貼ってあったスポンジがボロボロになって気密性が落ちてたみたいなんだよね。

 本当なら適時貼り替えが出来れば良いんだけど、何分、そのたびごとに吹出口を外してたら、そのうちパキっと逝っちゃいそうな気がしてさ、そこは怖いんだよね……。


 学校に到着すると、私は悠梨以外のみんなを集めて言ったんだ。

 次のステージの対策をした方が良いってね。


 「なんで、私だけ仲間外れなんだよー!」


 だって、悠梨だけR33じゃん。

 R33は内装の形状がそもそも違うから、私らの談義から導き出される結論が参考にならないかもしれないでしょ。


 「だからって、除け者にするなー」


 じゃぁ、早速始めるよ。

 今回の原因は複合的な要因が絡んでるんだけど、バラバラになった事で分かったのは、昨日も言ったようにR32のエアコンの吹出口の作りでは強度が不足してるって事なんだ。


 「それって、どういう事だよ?」


 結衣は、その話をした時、職員室で丸刈りにされてたから聞いてなかったんだね。


 「日直だっての! それになんだよ今時丸刈りって、そんな体罰あるかっ!」


 とにかく、R32の吹出口は飲料を日常的に置かれるような環境にさらされると、時間の問題で壊れちゃうから、私は、この問題を解決させるためには、ドリンク置き場を作ることが必要だって思う訳なんだよ。


 説明しながら、私のバラバラになった吹出口を結衣に見せたけど、それを見て納得した様子だったよ。


 「それは分かったけど、どこに置くの?」


 優子が質問してきた。

 いくつか案はあるけど、まずはその1として、エアコンの吹出口前の平らな部分に置き型ドリンクホルダーを貼りつける。


 「それだと~、両面テープが剝がれたら、飲み物直撃だよ~」

 「それはどうかと思うよ」


 分かってるよ、柚月、優子、あくまで言ってみただけだよ。

 それに、これだとエアコンの風も遮っちゃうから、ボツ確定なんだよ。

 

 そして、その2としては、ドアの内張りと窓の間に差し込むタイプのカップホルダーだよ。


 「あぁ、昔のカー用品だよね」


 結衣は知ってるんだ。

 なに? お父さんがハチロクの頃につけてたって? 一体、結衣のおじさんはいつの時代の人なんだろうね?


 「失礼な事言うなー。れっきとした現代人だよ」


 別にそれは知ってるよ、さすがに石器時代の人とかいう話じゃなくて、現代人は現代人でも、いつの時代の人かって話だよ。

 結衣のおじさんの話を聞くに、LPレコード買って、カセットテープに録音して、ハチロクにつけたパイオニアのロンサムカーボーイで音楽聴いてたように聞こえるんだよね。


 「なんだよ! その、ロンサムカーボーイって」


 詳しく話すと長くなるから割愛するけど、昔流行ったカーコンポだよ。詳しくは検索して調べてね。

 

 「うわぁー……」


 柚月がスマホで調べて、優子と見て言ったのを見て、結衣も柚月のスマホを見た。


 「バカにするなー!」


 バカになんてしてないよ。

 当時、それを組むことはステイタス中のステイタスだったんだよ。今で言えば最新のiPhoneとかPS5を持ってるくらいの意味合いだよ。

 なにせ、高いから買えなくて、ロンサムカーボーイのステッカーだけ買って貼ってた人もいるくらいだったらしいし、ロンサムカーボーイつけたら、車上荒らしに速攻盗まれた……なんてよくある話だったらしいからね。

 それとも、それがお気に召さないって事は、結衣のおじさんは、ロンサムカーボーイ派じゃなくて、クラリオンのシティコネクション派だったのかな?


 「やっぱりバカにしてるなー!」


 だから、バカになんてしてないって、言ってるじゃん。

 ちなみに、シティコネクションのCMでエマニエル坊やが歌っている歌は、シティコネクションは知らなくても、大半の人が聞いたことのある歌って程、メジャーになったからね。


 それを聞いた柚月がスマホで検索をかけて動画を再生した。


 「あぁ~、この歌、知ってる~!」

 「私も聞いたことあるよ」

 「あぁ、この歌ね。私は弾いた事もあるよ」


 柚月、優子、悠梨が見て言った。

 でしょ、歌には聞き覚えがあるでしょ。

 それを見て、結衣は歯ぎしりしながら言った。


 「大体、マイはなんで、こんな大昔のカーコンポの話を知ってるんだよ!」


 昔、兄貴が記事を書くのに突然、ウチに帰って来て、そこら辺にあった書籍やパンフレットをひっくり返すだけひっくり返して、そのまま夕飯も食べずに帰って行って、芙美香がブチギレて、片付けを手伝わされた事があるからね。

 その時に書いた記事を後で見せられたことがあったんだよ。それが、懐かしのカーコンポ特集だったってわけ。

 だからちょっと詳しいよ。ロンサムカーボーイは、結構早めに廃れたけど、シティコネクションはCDの時代まで生き延びてたんだよ。


 「へぇー」


 いつの間にか懐かしのカーコンポ談議になっちゃってるけど、本題に戻そう。


 「マイが、脱線させたんだけどなー」


 それで、さっき言ったドアに挟むタイプのなんだけど、2つの点が懸念懸案なんだよね。


 「2つの点って?」


 優子、あれって構造上、ドアの動きに連動しちゃうから、例えば缶飲料を置いておいて、ドアの開閉をしちゃうとさ


 「あぁ、そうか……こぼれちゃうんだね」


 その通り。

 それと、あれをつけてると、重みで窓の縁ゴムを変形させちゃうんだよね。

 だから、私らみたいな古い車であれやると、結構、色々な部位に影響与えちゃうんだよね。


 「マイ~、それじゃぁ、こんなのはどう?」


 柚月が見せてくれたのは、スカイラインのドアの内張りに、折り畳み式の他車種の純正品をネジ留めする方法だった。

 なんか、この折り畳み式のカップホルダーって、昔、芙美香が乗ってたマーチについてたやつじゃね? 今から2つ前の型のにさ、ついてたんだよね。


 せっかくだけど柚月さ、これも3つの懸念があるね。

 1つはさっきと同じで、ドア開閉時にこぼれちゃうって事、そしてもう1つは、内装に穴開ける事に抵抗があるって事、そして、最後の1つは、補強しないでポン付けは怖くてできないって事だよね。


 「なんで~?」


 だってさ、あんな素材で出来てる内装に補強も無しにビスやネジで留めて、日常的に荷重をかけてたらさ、普通に考えて、重力で穴が下に広がってくるんじゃね? って思わない?


 「そうか~、そうだね~」


 思うんだけどさ、その方法だと、私のエアコンの吹出口みたいに、ある日突然前触れもなく、内張りごとごっそり剥がれて落ちてくるような気がするよ。


 「でも、純正品でしょ?」


 優子、純正品でも、他車種の純正品だからね。

 R32での品質保証なんて無いからね。

 芙美香のマーチがそうだったけど、あれがついてるところの内装って、硬い素材でできてて、それ自体が結構強度ありそうだったよ。


 「そうなんだ」


 うん、だから、その方法を使うなら、ある程度の厚さのある鉄板を裏から当てて、ドリルで穴を開けて鉄板で補強をかけながらネジ留めするんだよ。


 「めんどくさいな~」


 そのくらいの面倒臭さを厭わないくらいじゃないと、流用なんてできないからね。

 ポン付けできてラッキー……なんてケースは、そうそうあるもんじゃないよ。同年代の似たクラスの車じゃない限りはね。


 「なんかマイ、一時期に比べると、たくましくなったんじゃね?」


 そう? 結衣。

 でもそう言われても嬉しくないんだよね。

 これって兄貴が言ってた事とかを思い出して言ってるような感じだからさ、あのクソ兄貴の言う事をトレースしてるに過ぎないんだよ。


 あぁ、イヤだイヤだ、おぞましい。


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『昔のカーコンポについて勉強になった!』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。


 次回は

 思わぬところから始まったカップホルダー談義。

 解決策まではまだまだ道のりは続きます。


 お楽しみに。

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