第229話 相棒とドラマ
その後、優子たち3人も合流して、何故か駐車場に移動して互いの車を見せ合ったんだよね。
いつもは、唯花さん達4人で動く時には、2台に車をまとめてくるんだけど、朋美さんは
「オリオリがね、私には自分の車で来いって言うからね」
更にフー子さんは
「あたしは、バイト先から直行だったんだよね~」
と言って、みんなが、それぞれの車で来ていたんだよ。
唯花さんのランエボは、派手だったんだよねぇ。
ボディが黄色だってのもあるんだけどさ、室内なんかも、あちこちにコントローラーとかがついてて、なんか凄い感じだったし、シートも、純正だって言うんだけど、社外品のゴツイので、なんか座り心地も硬くて、なんか、なにもかもが凄かったんだよね。
でもって、買った時はノーマルだったんだって。
それを、関東に住んでる伯父さんが、バンいっぱいにこれらの部品を積んでやって来て、組み込んで、あちこち走り込んでセッティングして帰って行ったんだってさ。
変わった伯父さんだね……って、でも、兄貴と同じ匂いがするから、あまりお近づきにはなりたくないけどね。
凄く速くて安定してそうな感じだったよ。
なんか、唯花さんって人のイメージにピッタリなんだよね。
次はフー子さんのロードスターなんだけど、この車は、マフラーとダウンサス以外、ほとんどノーマルらしい。
「お金返しながら乗ってるからね。まだ手が回らないんだよ」
フー子さんの両親が提示した額より、結構オーバーしてたみたいで、その分は自分で払ってるんだって。
両親は、いいって言ってたんだけど、受け取らないと、フー子さんが仏壇に勝手に置いていくから、渋々受け取ってるんだって、なんか、フー子さんは偉いね。
私だったら、絶対にそのまま貰っちゃうんだけどなぁ……。
「あたしさ、弟が死んだ後に、結構親に迷惑かけちゃったんだよ。不登校になって、拒食の後で、過食になっちゃって。親がね、あたしまで死ぬんじゃないかって、毎日眠れなかったらしいんだよ。だからさ、このくらいはしなきゃね」
へらっと言う、フー子さんの表情に、一瞬だけ影がさしたが、すぐさま消えていった。
なんか、悲しい過去を抱えながらも、それを乗り越えて、明るさで包み込むような、フー子さんの陽気さを感じさせる分身のような車に見えた。
次は、朋美さんの鉄仮面だね。
かなり古い車だってのは分かるんだ。R32が30年前で、その2世代前のモデルの最終型だから、その5年くらい前の物と考えて、35年前位の車なのかな?
「舞華ちゃん。ほぼ正解だよ、36年落ちなんだ」
36年前っていうと、1985年で昭和60年かぁ。
え? 朋美さんのお父さんが小学生の頃、つくばの科学万博の会場で、この車と撮った写真がお爺ちゃんの家のアルバムに残ってるんだって?
凄いなぁ、そんなに1台の車に長く乗るなんて。
ウチの兄貴に、爪の垢を煎じて飲ませたいもんだ。
でもって、ウチは爺ちゃんも、しょっちゅう車を壊しては乗り換えてた気がするから、もしかしたらこれは家系なのかな?
いや、でも、お父さんは、別にそんな事は無いし、これはあの2人が特殊なんだよ。うん、間違いない。私には遺伝してないんだよ。
「舞華ちゃんのところって、そんな凄いんだね」
朋美さんが微笑みながら言って、私が何か言おうとしたところに、突如声を被せられた。
「マイのお兄さんはね~、この辺じゃ知らない人がいないくらい、有名な走り屋だったんだからね~。その実力は……」
やめろ、柚月! 兄貴の話はするんじゃない!
アイツは、この地区の歴史に残る迷惑者で、我が家一族の恥部なんだよ! 柚月がこの学校の恥部であるのと同様に、兄貴は我が家の恥部であり、ガンなんだよ。
「私の、どこが恥部なんだよ~!」
うるさい、全てだ全て!
学校に来るたびにパンツ脱いだり、人の車のタイヤをパクったりしてな。
思い出したぞ。柚月は、去年の文化祭の時、終了後のキャンプファイヤーの燃料にガソリンを混ぜて、基台を爆発させたんだ。
だから、今年から終了後のキャンプファイヤーは廃止になったんだぞ!
「ええっ!?」
どうだ、燈梨、ななみん。コイツはただの恥部だという事が分かっただろう。
「ズッキー先輩のせいで、今年から、キャンプファイヤー無しって……許せないー!」
「やめろー!」
さぁ、邪魔者柚月はいなくなったところで、ゆっくりと、朋美さんの鉄仮面を見ようっと。
なんか、この車凄く綺麗だよね。
ツヤも凄いんだけど、窓の周辺のゴムモールとかが、結構モチモチしてるし、凄いよ。
「新車の頃から、使わなくなった農機具倉庫に入ってたし、ゴムは替えを何セットか買っておいたんだって」
凄いね。最初から長く乗るのを見越して、部品も用意してるなんて。
しかも、冬場は軽トラに乗ってて、週に1回くらいしか乗ってなかったのも、大きかったみたいなんだってさ。
内装は、直線のカクカクした感じなんだけど、R32のダッシュボードをイメージさせるような、そんな作りだったよ。
そして驚いたのは、2ドアなのに、後ろの窓が開くんだよね。R30型までは、2ドアはお洒落なハードトップだったから、ドアと後部の間に柱が無くて、窓も前後とも開くようになってたんだって。
全開にさせて貰ったんだけど、開放感抜群だよね。
これだと確かに後ろの席にいても、狭苦しさが緩和されて、広々とは言えないけど、充分にリラックスできるんだよね。
R32の後席って、広さは別としても視覚的に圧迫感を感じる分、狭苦しく感じちゃうんだよね。
こういう工夫が、今の車にも求められるんだろうね。
視覚的な広々感。今の車は、衝突安全性のために、柱を太くしたり、乗員保護で内装を厚くしなきゃいけないのは分かるんだけどね……。
運転席に座った感じはさ、スカイラインって、感じはするんだよね。
いい意味でルーズで、適度な感じにタイトな感じ。
R32よりも、ちょっとルーズ感が強めなのが、居心地良いかな? って気もしちゃうんだ。
スカイラインくらいのタイト感が、一番運転しやすいんだよね。
これ以上タイトだと、ちょっと遠乗りしただけで、疲れちゃうよね。
さて、エンジンを見せてもらおっと。
実は、RSのエンジン見るのって初めてなんだ。
この間の博物館では、エンジンルーム閉まってたからさ、見ずに終わっちゃったんだよね。
この代は、歴代で唯一、最強版が4気筒っていう異端児だったんだよね。
詳細は博物館でも語った通りだけど、苦肉の策で作られた、このFJ20型エンジンは、強固さと荒々しさを残す、古き良き時代を味わわせてくれたんだって。
「う~ん、ちょっと、下が足らないのと、やっぱりドッカンターボ特性だから、ユイのランエボとか、美咲のローレルとかに比べると、荒々しいかもね」
朋美さん曰く、それ以外は特に普通に乗れるし、快適装備も揃ってるから、ハンドルの重さと反応以外は、今の車と変わりなく乗れるんだって。
操舵の方式が、R30型までは、旧世代のボール循環式だったせいもあって、細かい切り返しの時に、注意していると僅かに感じられる程度の違和感があるんだけど、今の車に比べても、特に気負う事なく乗れるんだって。
まぁ、確かに、鉄仮面のインタークーラー車には、ATの設定もあったくらいだし、当時としては『高性能を楽ちんドライブで、爽やかに楽しもう』くらいのノリだったんだろうね。
しかし、お爺ちゃんの車ってのも、凄いな。
それで、朋美さんのお爺ちゃんは、免許を返納したんですか?
「いや、直後に車乗り換えたよ」
そうなの? ちなみに次の車は、凄い車なのかな?
「今は、ノートニスモS乗ってるよ。爺ちゃんは、スカイライン取るか、MT取るかで、最後まで悩んでたけど、でも、正解だったと思うよ」
朋美さん曰く、当時、もしスカイライン買ってたとしたら、お爺ちゃんは、後から追加された400Rを見て、後悔しただろうって話だった。
朋美さんのお父さんが言ってた話だと、昔、お爺ちゃんは、GTEXターボとどちらにするか悩んでRSを買ったら、2年後にRSターボが出て、本気で後悔したんだって、そして、インタークーラーが追加された時に、辛抱たまらず、RSを下取りに出して、この車に買い替えたから、もし、スカイラインを買ったら、2回連続で同じ目に遭ってたんだって。
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『一体、R32の登場はいつあるの?』など、少しでも思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
次回
遂にみんなの車エピソードが完結します。
お楽しみに。
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