第228話 みんなと相棒

■まえがき

・今回の話に登場してくる、唯花たち一行の車の話は、もう1つの連載中小説「殺し屋さんは引退前の仕事で、女子高生の口封じに失敗する」の裏設定で、都合上カットした話になります。

 あちらをお読みの方は未公開エピソードになりますので、お楽しみください。


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 文化祭も無事に終わって、遂に私らも部の運営からは引退だねぇ……。

 初めての文化祭の運営だったけど、この2日間での人の入りを集計してみると、結構イイ感じなんだよね~。


 やっぱり、見た目的に目立つ展示物だったってのと、今年は展示だけで、お金がかからなかったって事もあって、それが安心材料になって人が集まったんだろうね。

 だから、来年からは、なにか食べ物系とかで出店もして、そうなった時に、客足にどう影響するか、そして、来年の大会結果に、部車のラインナップなんかも絡むかな……。


 なんか凄い部車の1台でもあると、それを展示してカフェ……なんてのもあるんだろうけどさ、今のところは無いから、まぁ、それは来年に向けて次の娘達が考えてくれるでしょう。


 そして、午後には、オリオリさんが連れて来てくれた唯花さんと朋美さん、フー子さん、美咲さんって人と、あちこち回ったんだ。

 まぁ、破壊力の凄い4人だったよ。


 なにせフー子さんって人が、見た目の印象とは違って、バカみたいなことばっかりやるんだもん。お化け屋敷の壁に穴開けて、向こう側を覗こうとしたりとか、コーラと炭酸のペットボトルを思いっきりシェイクして、どっちの方が蓋を遠くに飛ばせるか……とかさ、やってる事が小学生レベルで、なんか、柚月と似た印象の人だったよ。


 でも、オリオリさんの話だと、この人は、高校生の頃、目の前で弟が自殺して、その後、拒食から過食になって、体形が変わったりして、物凄く色々な体験してるんだって。

 今の彼女からは想像もつかない壮絶な過去に、ちょっと驚いちゃったんだよね。


 ちなみに、彼女が乗ってるのは、現行モデルの赤いロードスターで、オープンカーが欲しかったけど、新車じゃないとダメだって、親が言うから、コレにしたって事らしい。まぁ、イメージ的には合ってたけどね。


 唯花さんって人は、この人も見た目の印象とは違って、とても常識人だったから、拍子抜けしちゃったんだよね。

 オリオリさんの話だと、例のレストランのバイトの他に、塾でもバイトしてるんだって、まぁ、オリオリさんの話だと


 「コイツは、酒飲ませなきゃ常識人よぉ。まぁ、素面しらふではつまらないって、事なんだけどね」


 だそうだ。

 そして、その言葉の直後、唯花さんって人にヘッドロックされてたけど……。


 この唯花さんは、伯父さんが車好きで、色々やっているのを見ていた影響で、車が好きになったらしい。


 乗っているのは黄色いランエボVIIなのは前に見た通りだ。

 元々はS15シルビアが欲しかったらしいけど、場所柄4WDじゃないとダメだって、親から言われて、シルビアで乗りたかった黄色いボディカラーのあるこの車にしたそうだ。


 朋美さんという人は、4人の中で一番背が高くて、いかにもスポーツやってそうな感じで、なんか見覚えがあるような気がしたんだ。

 すると、バスケをやっていたって事だったので、思い出した。中学の頃のバスケの交流試合で見たんだ。


 さっきの唯花さんとは幼馴染で、ずっと一緒なんだって。

 なんか、ウチらとは大違いだね。私も柚月や優子とは、幼馴染だけど、別にずっと一緒になんて、いたくないんだよね。


 「なんでだよ~!」


 この野郎、柚月! いきなり人の話に割り込んできやがって。

 子供の頃から、お前と一緒にいるとロクな目に遭わなかったからだろうが。

 小学校の職業体験の授業で、豆腐屋に行った時、柚月が豆腐の入った水の中に砂糖を混ぜたせいで、私らの班、全員が怒られるハメになっちゃったんだからな!


 その後で、班員全員で、豆腐屋に掃除に行かされた時、柚月は豆腐屋のハチロクをデッキブラシで洗って、塗装をほとんど剥がしちゃったんだからな!

 豆腐屋の親父はショックで寝込んで、豆腐屋の車はキューブに変わっちゃったんだから。


 「でも~、豆腐屋のおばさんには喜ばれたもん~! 『あんなポンコツ、早く買い替えて欲しかったから、助かった』って言われたもん~」


 それは、結果論だろうが!

 とにかくお前みたいな、歩く恥部とは、一緒にいたくないんだよ!


 「なんだよ~! 歩く恥部って~!」


 うるさい! 歩く恥部だから、歩く恥部なんだよ。

 柚月め、やろうってのか? このっ! このっ! こいつめ!!


 「参りました~、ゴメンなさい~!」


 この野郎、それだけで済ますか、私は歩く恥部ですって、言うんだよ!


 「私は歩く恥部です~!」


 はぁはぁ、参ったか柚月め。

 これに懲りたら……って、オリオリさんがニヤニヤしてるよ。


 「コイツらのやり合いに似てるから、面白くなっちゃってね」


 そうなの?

 いつの間にか他のみんなもニヤニヤしながら


 「なんか、いつもの風子の掛け合いに似てるよね~」

 「そんな事あるかー、唯花め!」


 なんて言ってるよ。

 フー子さんのノリに似ているって事は、危険信号なのかな、気をつけないと。

 すると


 「風子も唯花も、その辺にしときなよ!」


 と朋美さんが言い、2人は黙ってしまったよ。


 それで、朋美さんの車は鉄仮面なんだって。

 バイト先の店長の車と同じ車なんだろうね。画像を見せてもらうと、グレーと黒のツートンカラーになっていた。

 店長のと比べても、色だけでイメージが違ってくるのが面白いよね。


 お爺ちゃんから貰ったんだってさ。凄いよね。

 

 「ちょっと乗って良い? って、そこら辺一回りのつもりで訊いたら、乗って帰れって言われちゃって、ビックリしちゃったんだ」


 今日は乗って来てるから、あとで見せてくれるって?

 良いんですかぁ? ちょっと興味あるなぁ。店長のは滅多に乗って来ないから、2回くらいしか見た事ないし、中なんて全く見た事ないんだよね。


 美咲さんって人は、この4人の中で、一番落ち着いてる感じに見えるんだよね。

 黒髪を束ねてるだけで、正直、唯花さんとかと比べると、大人しい感じに見えるし、着てるものとかも落ち着いていて、正直、なんでこの4人の中にいるんだろうって、思っちゃうくらい、地味な感じに見えるんだよね。

 私らの中だと、優子みたいな印象なんだよね。


 すると、オリオリさんが


 「ミサキはね、フー子たちのグループにイジメられてたの。だから、あたしが、こいつら3人と、桃華の全員を矯正してやったの」


 と言って、ニヤッとした。

 私が、驚いていると、美咲さんという人も


 「そう、私たち、オリオリのおかげで仲良くなれた。それまでの私は、学校辞めるか、死んじゃうかで悩んでたんだけど、今じゃ、そんな事、信じられないくらい、仲良し」


 と言うとニコッとした。

 なんか、この人を見て、私は思ったんだよ。

 このグループって、絶妙なパワーバランスなんだってね。

 正直、誰が欠けてもバランスが悪くなっちゃうところは、私らのグループにも似てるなって思っちゃったよ。


 そして、美咲さんの車はC35型っていう、最後の型のローレルで、お父さんからのお下がりなんだって。


 「お父さんがね、いざっていう時に、大きい車の方が安心だからって、言ってたんだけど、要は、乗り換えるから押し付けたんだよね」


 と、苦笑しながら言ってた。

 でも、この車を見た唯花さんが、ターボ車だから、MTに載せ替えると面白くなるよ……って言って、次の瞬間には、他の3人の間では載せ替えることになって、次の週末には、バラバラにされてATは抜かれていたそうだ。


 「ドライバーすら持った事なかったのに、いきなり最初の作業が、ミッションの載せ替えだよ。『できるの?』って、マジで思っちゃったんだからさ」


 美咲さんは、最初の頃は、できる作業は無いと、専ら食べ物とかの買い出し要員を買って出ていたそうだ。

 でも、ある時、サイドブレーキのワイヤーを、室内に通す作業を手伝って以降、作業にハマっていったんだそうだ。


 「なんか、ちょっと楽しかったんだよね。みんなで、1つの事をやってるって、一体感が味わえてさ」


 美咲さんは、遠くを懐かしそうに眺めていた。


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 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『で、結局、キャンプファイヤーはあるの?』など、少しでも思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。


 次回も、舞華の回想話が続きます。


 お楽しみに。

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