第221話 名誉部長とボディビル
翌日、部活に行くと、何故か運ばれていたロールバー取り付け車3台と、GTE修理班、文化祭班が、
要は、誰がメインでガレージを使うのか……について、意見が割れて大揉めになっているのだ。
……思うんだけど、そもそも水野が、文化祭の準備で忙しい最中に、向こうの練習場の練習車があるにも関わらず、もったいぶって出さない上にGTEを持ち出すから、柚月がクラッシュさせて、余計な仕事が増えていくんだよ。
それにしても、見事なまでにみんながみんな、言いたい放題言ってるだけで、全く収拾がつく気配が無いよ。
燈梨ー! どうやって収集つける気?
「まずは、文化祭準備班メインだけど、その文化祭に展示するGTEなので、この2つは優先でガレージ作業に組み入れる」
よし、それは分かったけど、ロールバーの3台は? 一応、水野の持ち込み企画だから、タイミングは任せるけど、きっと、あまりチンタラは出来ないと思うよ。
「ええっ……と」
燈梨、分かるんだけど、水野に苦手意識持つと、色々面倒だよ。
あいつはただの天然の変態さんなんだから、悪気とか、怖いとかそういうのは無いんだよ。ただのぬらりひょんなんだよ。
「ぬらりひょんって、なに?」
いちいちツッコむなよ! 私だって知らないけど、単なるイメージだよ、イメージ。
とにかく、しょうがないから燈梨を連れて水野の所に乗り込もう。
◇◆◇◆◇
アイツさ、職員室に行ったらいなくてさ、探し回ったら、何故か部室にいたんだよ。
しかも、抗議したら
「ロールバー班に関しては、GX100と、R34は、採寸を済ませて、穴の位置を記載済みだ。アルテッツァは、そもそも穴が開いてるはずだ。アルテッツァからはじめてくれたまえ」
だってさ。
なんか、最近、作業がヘビーになってるせいもあって、水野がこうも断片的に指示してくると、部長の燈梨がただのパシリみたいになっちゃってるじゃん。
だから、思わず言っちゃったのよ。
最初から、やる作業の全貌をきちんと伝えてくれないと。断片だけ指示されても、ただ作業をやらされてる感しかなくて、やる方も、指示する方も、楽しめないし、学べないんですよ。それじゃ、困りますからね!
「……申し訳ない。以後は無いように気をつける所存だ」
そんな政治家みたいな言葉じゃなくて、行動で表してくれないと、今までの部は、こんな事しかしてなかったのか……って思われるんですよ。 私は、後輩たちにはですね……って、燈梨、なにするんだよ。
「ありがと。でも、もう大丈夫だよ」
いや、何も解決してないよ。
コイツは1回、けちょんけちょんにしておかないと、反省しないタイプだよ。
燈梨、放せ、はなせぇ~……!
はぁはぁはぁ、まったく、燈梨は甘いんだから!
アイツに舐められたら、どんなえっちな要求されるか分からないんだから、毅然とした態度で臨まないとダメだよ。
「なんか、舞華が自分の事みたいに、喰ってかかるから、私が何も言えなくなっちゃっただけだよ」
そうなの?
ガレージに戻ると、何故かみんなが整列していた。
どしたの、ななみん。
「まるで忠臣蔵のような修羅場を見て、自分達も、もっと顧問に毅然とした態度で接するべきだと、考えを新たにしたっス!」
え? あぁ、部室の窓から覗いてたのか、だったら、疑問があったら、ああいう感じで水野にぶつけていくんだよ。分かった?
さて、ようやく作業に入れるよ。
だからガレージの班割りは、GTEとロールバー班だね。
文化祭班は、すでに車の作業は終わってるじゃん。展示場所の打ち合わせとかは、ガレージ奥か部室でもできるでしょ?
じゃぁ、ロールバー班は、2班構成にします。
まずはアルテッツァにロールバーをつける班と、あとの2台にボルト穴を開ける班ね。
穴開け班には、柚菌をつけるから、そこの菌の指示に従ってね。最後はアルコール除菌しちゃっていいから。
「ユズキンって呼ぶな~!」
柚菌、柚菌、柚菌~っと、柚月より呼びやすいから、今度からこう呼ぶ事にしよう。
さて、アルテッツァ班に合流してみると、ホントだ、この車、既にロールバーが当たりそうな場所に穴が開けてあるよ。
恐らく、結構いじってあったから、前の持ち主が取り付けて、その後で外して売ったんだろうね。
兄貴が昔やってたのと、昨日ググってみて調べたところによると、床下から当て板を当てて、まずはロールバーの取り付け部分を床の形にフィットさせてやるんだ。
けど、なんかこのロールバー、既に床の形に曲がってないか? そうか、中古品だからだ。
どう、仮組した感じ? このまま取り付けできそう?
「マイ名誉部長! 1ヶ所穴が合いません!」
えっ!? 私、名誉部長なの? いい響きだねぇ、こりゃぁ、部室に写真を額に入れて飾らないとね。無論、燈梨とツーショットでね。でへへへへ……。
えっと、後ろの右側か、4ヶ所中、2ヶ所ボルト穴と微妙にズレてるねぇ。
他が全部ドンピシャなところを考え合わせると、この車が微妙に歪んでるのかなぁ……。
ちょっと待ってね。
ななみんー! ここにいる娘達って、みんな強い?
「ええ……っと、そこにいるのは、元レスリング、空手、ボクシング、テコンドー、ボディビル等です」
じゃぁ、大丈夫そうだね……って、ボディビル愛好会の娘って、この娘? 凄く普通の可愛い娘じゃん! ねぇねぇ、後でさ、ポージングして見せてぇ、服脱いでさ、ちょっとでいいんだよ。恥ずかしいなら、2人きりの場所、作るからさ。
「マイ先輩ー! セクハラは犯罪ですからねー!」
うるさいな、ななみん! 別作業なんだから、いちいち聞き耳、立ててないで、作業に集中しなさいよ! それに、私の事は、名誉部長様と呼びなさい。
さて、本題に戻るけど、まずは他の部分を仮止めしておこう。ネジが取れてこない程度、工具を使わずに手で締め込んでいって、止まるくらいで。
そして、その状態でこの右後ろを、みんなで引っ張って穴を合わせてる間に、裏からボルトを挿して、ここから本締めしていくんだよ。
「でも、ボディに沿わせた方が、剛性が高くなりませんか?」
うん、良い質問だよ。
ただ、今回の目的は、横転時の乗員保護で、ボディ剛性アップじゃないんだ。
それに、あのコースでボディ剛性を上げ過ぎると、弊害があるんだよ。
「ええっ!? それはなんですか?」
剛性が上がると、反面で挙動がクイックになっていく傾向があるんだよ。あのコースでは、初心者には極力クイック感を避けた車から、練習を初めていかないと、いともあっさり事故を起こすんだよ。
「ええっ!?」
そう、そういうコースなんだよ。今回の練習場は、そういうところだから、のんべんだらりと運転なんかしてると、車があっという間に横転しちゃうよ。
みんなはバイクで、大きめの石踏んでコケた事って無い? それと似た感じで、一瞬の気の緩みで、コースの轍や穴にハンドル取られて、一気にコントロール不能になってひっくり返っちゃうんだよ。
「なるほど」
概要を分かって貰ったところで、早速始めようかぁ。
取り付けていくんだけど、ロールバーって、取り付けるの結構大変なんだよ。重いしね。
だけど、この娘達だと、あっさりと取り付けられちゃうから、驚いちゃうんだよねぇ……しかも、見てて清々しいくらい、あっさりとさ。
よし、問題の箇所だね。
みんな、もうちょっと右下に引っ張ってみて……OK、ボルト班、今だ! 入れちゃって……よし、貫通した。
「やったぁ~~!!」
アルテッツァ班から歓声が上がり、まずは1台の取り付けが終わったよ。
──────────────────────────────────────
■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『他の2台の進捗状況は?』など、少しでも思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
次回は
1台が完了して、一仕事終えたつもりのアルテッツァ班。
しかし、まだまだ道のりは遠く……。
お楽しみに。
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