第220話 パワーシートとカーペット
翌日のガレージにはGTEが運ばれてきていた。
じゃぁ、燈梨たち新体制のお手並み拝見だね。
「みんな。この車は、昨日、ちょっとした事情によって土手に乗り上げちゃったんだ。だから、異常がないかをチェックして、ダメな箇所があったら知らせてね」
燈梨は優しいなぁ、でもここは、きちんと事実を伝えてやるべきなんだと思うよ。
みんなー、ゴメンね出しゃばって。
そのスカイラインなんだけど、昨日、ここにいるこの柚菌が、2人乗車っていうルールを破った上、調子に乗って飛ばしたおかげで、コントロール不能になって突っ込みました。
「解けよー!」
放課後になった瞬間に捕まえて、ななみんと私で縛り上げておいたんだ。
こうしとかないと逃げるからね。
じゃぁ、みんな。
コイツは罰としてここに置いて行くから、みんなで手伝わせるなり、その前にボコボコにするなり好きにしちゃっていいからねー!
「覚えてろー!」
あーあー、忘れちゃったよー。
◇◆◇◆◇
さて、昨日の練習場の臨時ガレージには、10人ほどの1、2年生が集まってたよ。
「マイ先輩、お疲れ様ですー!!」
あのさ、ななみん。
私らさ、もう運営に関わらない隠居の身だよ。
その私が、なんで、ガレージと臨時ガレージを掛け持ちで回らなきゃならないのよ。
「スミマセン! どうしても、マイ先輩の卓越した技術と指導力が、今回の作業には必要なんです。お願いします!」
あーあー、他の部員までお願いしますの合唱しちゃったよ……。
分かったよ。分かったから、その暑苦しいノリはやめようね。
我が校の自動車部は、ゆるゆる~っと活動して、結果強いっていう奇跡の部活を目指してるんだよ。
他の体育部が、筋トレとか、素振りとかやってる間、部室でスナック菓子を片手にDVD見たりして、緩み切った日常でありながら、やる時はこうビシバシやっちゃって、結果強いっていう感じね。
「感動したっス!」
本当!? ななみん。今のに感動する要素、何かあったかなぁ?
まぁいいや。
じゃぁ、みんな説明するね。
この練習場の概要と狙いについては、もう説明受けてるんだよね? そうだよね、ななみん。
ななみんは、力強く頷いたよ。
それで、試しに走ってみた結果、このコースでは、横転やコースアウトで土手に乗り上げる危険性が非常に高いことが分かりました。
現に昨日、柚菌という菌が、調子に乗った挙句、見事に土手に乗り上げました。
なので、ここで練習する車には、ロールバー必須、そして、ある程度の傷等は仕方ないという事で、それなりの車を、顧問が用意しました。それが、この3台だー。
私が指し示すと、集まったみんなから、おおーっという声が上がったよ。なんか、この車たちって凄いのかな?
それで、今日やる事は、まずは、これらの車のエアバッグを外します。
「ええーー!」
やっぱりね、ななみん以外はみんな驚き桃の木山椒の木……だね。
説明すると、このコースは路面の凹凸が激しい上、速度もそれなりに出る所があるから、エアバッグがついてると誤作動して開いちゃう可能性があるんだよ。
それに、コースの性質上、土手に軽く接触したりする機会も結構あるから、そのたびごとにエアバッグが開いちゃうと、接触のたびに部車入れ替えるか……になっちゃうからね。
「なんで接触すると、車入れ替えになるんですか?」
いい質問だね。
特に助手席エアバッグが展開した場合、結構な確率でフロントガラスが割れちゃうんだよ。
フロントガラスが割れると、交換するのに軽く10万円くらいかかっちゃうんだよね。
だから、ウチらの部の部車の価格から見ると、ガラス交換に出すよりも、車ごと入れ替えちゃおうってなっちゃう訳ね。ほとんどの部車がナンバー無いし、修理に持って行くのにもお金がかかっちゃうんだよ。
「なるほど」
だから、今日の作業は、まずはエアバッグの撤去と、ロールバーの準備として内装の撤去をします。
ロールバーが入ったら、中古だけど、4点式シートベルトを取り付けるんだ。
しかし、水野の奴、なんで4点ベルトの説明に『中古の』を伝えるようにって、指示してるんだ? 別に部費を横領してるなんて、だれも疑ってないぞ。
まずは、バッテリーのマイナス端子を外して、しばらく放置することで放電するんだ。
放電したら、トルクスネジでホーンパッドを外して、今回は、ハンドルを交換するわけじゃないから、配線を外して、車側の配線に疑似抵抗を装着して元に戻せばOKだよ。
「マイ先輩ー!」
あれ? アルテッツァ班の1年生だ。
どうしたの?
「なんか、この車、既にハンドルが交換されてます」
あ、ホントだ。
なんかこの車、あちこちぶつかってるし、マフラーも社外品だし、走り屋お兄ちゃんが乗ってたんじゃないかな?
これだけあちこちボコボコだと、きっと買い取ってもらえなくて解体……って、パターンじゃないかな?
じゃぁ、この車は運転席の工程は飛ばそう。助手席から先にやろうか。
助手席も、基本は運転席と同じで、配線を外して、疑似抵抗をかませるんだ。ただ、助手席側については、モジュールごと撤去した方が良いんじゃね? と思ってるから、ちょっと面倒だけど、完全撤去しちゃおうか。
「ええーーっ!?」
いちいちオーバーアクションに驚かないんだよ。
見てるこっちが疲れてきちゃうからさ。
まぁ、もう使う事もないし、そのユニットの重さってのが結構あるから、それを外して軽量化するってのも悪くないよ。
◇◆◇◆◇
3台とも撤去完了だね。
本当は、エアバッグ開かなければ、他2台もハンドルを社外品にして軽くしたいところだけど、予算がないし、ぶっちゃけこの3台の立ち位置は、バラエティ番組のドッキリ企画に出てくるスタント車くらいのところだからね。
かと言って、みんな、雑に扱っちゃダメだよ! できるだけ次の代の娘達に引き継いでいけるようにしなきゃね。
さて、次にロールバーを入れる前段階として、全席シートを外して、フロアカーペットを剥がすよ。
ちなみにフロアカーペットって、フロアマットの下にある、床全体を覆ってるカーペットの事ね。
「えええーー!!」
また、ななみん以外全員驚いてるよ。
あれ? みんなは部のタイプMにロールバー入れた時とか、ノートやエッセの時もいなかったんだっけ?
え? ここにいる娘達は、その後の入部組だって?
じゃぁ、仕方ないね。
私とななみんで、レクチャーしていくしかないね。
まず、シートは、前2本、後ろ2本のボルトで留まってるから、探してね。大体四隅にあって、ボルトの頭を隠すように樹脂製のカバーがされてるからね。
コツは、前のボルトを外す時は後ろに、後ろを外す時は前に目いっぱいスライドさせておくんだ。
ボルトを外したら、シートを持ち出す前に、ひっくり返してみると、底面でシートベルト警告灯の配線と繋がってるので、それを外してからシートを運び出してね。運び出すシートも結構重いから、腰痛めないようにね。
ちなみに3台とも4ドア車で、ドアの開口面積が狭いから、出し入れは細心の注意で、ボディに傷つけないようにね。
「マイ先輩、シートが動きません!」
チェイサー班が呼んでるよ。
……あれ? このスイッチって、パワーシートじゃね?
さっきのエアバッグの作業の時に、バッテリー端子外したままだから、繋ぎ直せばOKだよ。
よし、後席も苦戦しながら外したね。
それじゃぁ、次はカーペットにいこうか。
今日は、前段階のここまでやったら終了だからね。
ここから先は電動工具が無いとできないところだから、ガレージに運ばないとね。
「ところでマイ先輩、この3台をどうやってガレージまで運ぶんですか?」
それを私に訊くか? 現役員のななみんは、どう聞いてるんだい?
「先生は『それに関しては、私に案がある』って……」
それで、その案の内容を知らないんじゃ、意味ないじゃん!
ここと学校の敷地は、隣接してるけど、その間に道路が挟まってるんだよ。
ナンバーの無い車を移動させる訳にはいかないからね。コンプライアンス的に。
さぁ、どうするんだ。副部長、『動かせませんでした~』なんて、もしみんなをガッカリさせるような事を言ったら、OBとしてそれは看過できないねぇ。
せっかく掘ったそこの穴に、ななみんが埋まってもらうしかないねぇ……。
「イヤです~!!」
──────────────────────────────────────
■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『ななみんは、穴に埋められちゃうの?』など、少しでも思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
次回は
翌日の部活では、文化祭班、ロールバー班、GTE班がてんてこ舞いになります。
お楽しみに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます