第208話 マッハパンチと冬支度

■まえがき

 今回の話で登場する、オリオリのフェイント攻撃については、もう1つの連載中小説「殺し屋さんは引退前の仕事で、女子高生の口封じに失敗する」の30話、152話などに登場します。

 どのような攻撃か興味があれば、是非ご参照ください。

──────────────────────────────────────


 学校の啓蒙活動は、私の考えた案でほぼ通過するから、この冬は、なるべく少ない労力で、最大限、学校に恩を売るような感じで活動するんだよ。


 「なるほどね!」

 「参考になるっス!」


 2人共、この部に限らずさ、ウチの学校って、使えるものは何でも使ってくるけど、しっかり貢献してるって、アピールできれば、そこのところはしっかり考慮して便宜を図ってくれるからね、露骨に嫌な顔したり、断ったりしないで、適当に楽できる妥協点を探し出して、プランを作って提案するんだよ。

 そうすることによって、言われてから割り当てられたものより、ずっと楽できる上、学校側には、自発的にやったってアピールもできるからね。


 「マイは、ずる賢い事、考えさせたら天下一品だな」


 オイ、結衣、なんだその言い草は、私は部の将来を見据えて、積極的に交通安全関連の啓蒙活動に参加しようって、言ってるのに、それをズルいだなんて、私の努力に対する冒涜に等しいぞ。

 こうなったら、結衣には、私が通信教育で会得したマッハパンチをお見舞いしてやる。


 「マイ、どこの通信教育でマッハパンチなんて、教えてくれたんだ?」


 フフフ~、悠梨、それはいくら悠梨にでも教えられないね。

 よーし、結衣め、覚悟! 

 マッハパ~~~~ン……に見せかけた、脛回し蹴りぃ~!


 “バシッ”


 「痛っったぁぁぁぁ!!」


 パンチが飛んでくると思って、上方のガードをバッチリ決めていた結衣は、突如のフェイント攻撃に、手も足も出ずに、その場にのたうち回った。


 まったく、結衣め、人に押し付けてばかりで、運営に参加もしてないくせに、運営に対してケチをつけるなんて、万死に値するんだぞ。

 まだ柚月に言われる方がマシだけど、柚月が言っても、お仕置きすることには変わりないからね。


 「沙織さんみたいな、容赦ないフェイント攻撃だ……」


 なに燈梨? オリオリさんって、フェイント攻撃なんてするの?

 私には、お洒落で、頼れるお姉さんって感じで、そんな乱暴な感じには見えないんだけど……。


 「まぁね……」


 なんか、燈梨の歯切れが悪いけど、まぁ、いいや。


 さて、本題に戻ってだ、そろそろみんなも、スタッドレスの心配をしなくちゃならない季節になったよ。

 まぁ、私らは、車では初めてだけど、バイクでは十分経験してるよね。そして、ひと冬で3回はコケたから、大体の怖さとポイントは分かるよね。

 ちなみに、通学時、スカートの下のジャージを履くのは、防寒対策がメインじゃなくて、コケた時の、怪我防止が大きいんだからね。


 みんなは分かるけど、ここに未経験だと思われる燈梨がいるから、そこのところのレクチャーをしながら、おさらいしようよ。


 それじゃぁ、乗り物で初めての冬を迎える燈梨に質問だよ。

 なんで、冬タイヤに交換する必要があるんだい?


 「それは、雪が降るからじゃないの?」


 それだと、残念ながら45点だね。

 それだったら、雪が降った日に、駆動輪にチェーンを巻くだけで対処できるよ。


 「マイ、その配点、厳しくない?」


 そうかな優子? 

 でも、理由のウエイト的には、50点はあげられないでしょ。


 「そうだそうだ~、50点はあげ過ぎだし、そもそもマイは、燈梨ちゃんに甘いんだよ~、私なら35点だね~」


 柚月は無用に厳しすぎるよ。


 配点論議は置いておくとして、正解は、雪道の走破力を上げるのも全く無い訳じゃないけど、大きなところでは、凍結路での走破力とグリップ力を上げて、冬場の走行を安定させるためだよね。


 あと、チェーンは、雪が止んだ後の乾燥路では外してないと、車は揺れるわ、道路は削れるわ、チェーンが切れて危険だわ……で、大変だってのもあるんだけどね。

 ただ、本当に雪の積もった、除雪されてない山間部に分け入ろうとか、ガチガチに凍り切った場所でラリーするとかならば、チェーンは必要になるから、決して持っていても邪魔になるものじゃないよ。


 さて、燈梨だけでなく、みんなに質問だよ。

 スタッドレスタイヤを選ぶポイントは?


 「中古パーツ屋で、最も値段の安いのを買う」


 悠梨の大バカーー!

 “バキッ”


 「痛ぁ~、殴ることないだろ~!」


 これは、命知らずを自慢してる悠梨に対する、愛のムチだよ!

 ポイントが値段って、しかも、最初から中古パーツ屋で買おうというところがアウトだよ!


 「悠梨は、おバカやなぁ~、スタッドレスは、柔らかさが命なんやでぇ~。カチカチの中古品を選んで、どないするん~?」


 柚月め、またして、けったいな京都弁だけど、言ってる事は正解だよ。

 スタッドレスはね、氷上での性能が、予算内で最も高いモデルを選ぶこと、そして、氷上での排水性も大きなポイントだよね。

 

 ぶっちゃけ、雪の走破性なんて、そう大して変わらないよ。

 下手すりゃ、比較的新しい夏タイヤの方が、良かったなんて事だってあるくらいなんだからさ。

 

 冬の道路で最も怖いのは、凍結路と、アイスバーンなんだよね。

 凍結路は、いともあっさりと、タイヤのグリップ力をゼロに近くしちゃうし、他の車に踏み固められてできるアイスバーンは、乗っかると、グリップが回復するまで手も足も出せないから、恐ろしいもんなんだよね。


 どう注意していても、アイスバーンに乗っかることなんて、結構ある事だし、凍結路だって、この辺で暮らす以上は、どこかに必ずあるものだから、遭遇しない事よりも、遭遇してもきちんと対処できるよう、備えることが大事なんだと思うよ。


 「私にも、そこは分かるよ」


 そうか、燈梨は、北海道の出身だったもんね。

 なるほどね、雪の中で乗り物には乗った事は無いけど、歩いていても、その辺のことはハッキリ分かるから……か。

 

 その凍結路を考えた時に、重視するのは氷上の性能だね。

 具体的には、グリップに集約されるけど、そのグリップも、コーナーの安定性よりも、ブレーキ性能がメインだよね。

 凍ってても、しっかり止められることを重視して、選ぶのが良いよね。どうせ、雪や凍結の中なんて、高速コーナリングなんて、そんなにしないんだし。


 あとは、ゴムの柔らかさだね。

 カチカチなタイヤじゃ、いくら新品時に高性能でも、まともなブレーキ性能なんて期待できないしね。


 「でも、溝が残ってれば使えるんじゃね?」


 悠梨さ、アンタ、バイクの冬タイヤも中古タイヤだったの?

 さすがに、バイク屋さんがそんなものを扱ってなかったから、言われるがままに買ってたって?


 悠梨の場合は、タイヤ屋さんに言われた物を買ってた方が良い気がしてきたよ。

 すぐに中古品にして浮かせようとするんだもん。

 それも悪い事じゃないんだけどさ、悠梨が重視してるのって、残り溝のことばっかだし。

 悠梨に任せると、東京の人がスキーに行く時だけ履いてた、ベランダ保管の5年前のスタッドレスとか買ってきそうだよね。『バリ山だった』とか言ってさ。


 「それで良くね?」

 「悠梨のバカー!」


 遂に柚月にすら怒られちゃったよぉ、まぁ、当たり前だよね。

 私ですら、分かることなのに、堂々と、とんでもないこと言っちゃってるんだもん。ちょっと、頭を割って中身の点検したいくらいだよ。


 「いったぁ~! なんでみんなで殴るんだよぉ」

 「悠梨が、バカな事ばっかり言うからに決まってるじゃん~!」


 もうさ、悠梨って本当に子供の頃から、この辺に住んでたのかって、時々疑問に思うんだよね。言う事がたまに突拍子もなくってさ。

 中学以前の悠梨は学校が違うから、他の友達から、昔のことを聞く限り、生まれた時から住んでるらしいんだけど、どうも、今ここにいる悠梨は、中学以前の悠梨と別人のような気がするんだよね。


 「そんなわけあるか~!」

 「ねぇ、マイ。その話って、具体的にはどんな感じの見立てでいるの?」


 あらあら、優子が喰いついてきたよ。

 優子って、こういう都市伝説とか、ミステリーちっくな話が好きだもんね。



──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『悠梨の正体について、舞華の見立てってどうなの?』など、少しでも思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る