第207話 冬の始まりと旅のしおり
それで、耐久レース後の話になるんだけど
「そうなんだよ、何のかんの言って、再来週じゃん」
結衣の喰いつき方が凄いな。耐久レースに関しては、優子から旅のしおりが配られてるから、それを参照して
「そんな物、貰ってないぞー!」
え? 私は2週間前に、優子に頼んだら、翌日には貰ったんだけど。
「結衣には渡すの、忘れちゃった。もしかしたら、不参加かもしれなかったからさ」
だから、優子はさ、部内に不穏な人間関係を持ち込まないでよ。参加者は3年生全員と、2年生の次期役員って自分で書いたんだからさ。
ハイ、これで結衣も概要は分かったね。
耐久レースの話については、もう全体の話は終わってるから、質問等は、個別に私に聞きに来てね。
それで、耐久レース後、実質的な運営は全て新役員に引き継ぐよ。
ちょうど耐久レース終了の次の週末が、文化祭になって、文化祭までは、私らの企画だから、運営するけど、それ以降は、完全に新役員の体勢でいくからね。
「そしたら~、ウチらは、どうするの~?」
そこら辺は、別に部から除籍されるわけじゃないから、今まで通りに出席はするけど、手や口は出さないで、2年生仕切りの部の運営を眺めてるだけだよ。
燈梨とも話したけど、部の整備とバッティングしなければ、今まで通り、私ら個人の車の整備でガレージ使っても良いしね。
ただ、2年生から助言とかを求められれば、それに関しては参加しなくちゃいけないとは思ってるよ。私らが卒業するまでは、協力できることはしていくというスタンスでの参加になるってところかな?
部室の使い方も従来通りだね。
私らがお昼食べに来てるけど、それもOKだよ。まぁ、今までだって、1、2年生もお昼食べに来てる娘達はいたけど、全然場所に余裕あるしね。
もし、今後、部員が増えて混雑するようになったら、私以外の3年生は遠慮しなきゃならなくなるかも……だけど、しばらくは問題ないでしょ。
「待てよマイ! なんで『私以外』なんだよ!」
結衣が噛みついてきたぞ。
ホラ結衣、私は曲がりなりにも、初代部長の要職に就いてた身だからさ、言うなればレジェンドなわけよ。
結衣とは求められてる度の違いってものがあるのよ。私がレジェンドなら、結衣はフィットシャトルくらいに違いがある訳だから。
「ウソつけ! マイは燈梨ちゃんと、お昼にしたいだけだろ! 動機が不純なんだよ!」
結衣ったら、自分の行いのせいで、燈梨に距離置かれてるからって、私が燈梨とキャッキャウフフできてるのを妬まれても困るんだよ。
「なにがキャッキャウフフだ。向こうが引いてるのに、マイが入れあげてるだけに決まってる!」
ひっどいなぁ、結衣は。
この間、一緒にドライブにも出かけたくらい、親密な間柄だよ。結衣と言い、優子と言い、モテないからって、燈梨と私が仲良いのを妬まないで欲しいな。
「私は、妬んでないでしょ。結衣と違って」
そうだっけ、優子?
燈梨に『私と一緒の車に乗ると、ホテルに連れ込まれる』って、デマを吹き込んだくせにさ。
「ううっ……」
よしっ、これで黙り込んだぞ。
うるさい2人が反論できなくなってるうちに、他の話題に持っていこうね。
私は、さっき職員室で受け取ったパンフを、みんなに配った。
「あぁ~、もう、この季節か~」
悠梨がため息をついたよ。
このパンフはね、学校側が、秋になると配り始める、冬タイヤへの交換を呼びかけるパンフなんだよ。
ウチの学校は、バイク通学や車通学を奨励している以上、この手の交通規範に対しては、口うるさいくらいうるさいからね。
ちなみに、ウチの学校では、11月の3週目以降は、冬タイヤに替えていないバイクでの通学は禁止されてるので、バイクでもスタッドレス装着は、常識なのだ。
冬タイヤへのチェックは結構うるさくて、冬場になると、生徒指導の教員の張り切り度合いが上がるんだよ。
午前の授業中に、駐輪場の全バイクを完全チェックして、夏タイヤのバイクが見つかると、1限か2限の終わりに職員室に呼び出されて、鬼のように怒られるんだよ。
私らでコレに引っかかった人間はいないんだけどさ、2年の頃、内申点欲しさにやってた、生徒会の用事で職員室に行った時に、生徒指導の加藤が、周囲の迷惑も
さて、そんなしょーもない思い出は置いておいて、私らの通学車も、その心配をするシーズンになってきたよ。むしろ、4輪車になったから、尚のこと、気を遣わなきゃならなくなったと、言うべきかもしれないね。
この地方に住んでいて、しかも、去年までのバイク通学の経験があるのに、夏タイヤで乗り切ろうっていうバカヤローは、このメンバーにはいないだろうけど、自動車部という性格上、この運動に積極的に取り組まなくてはいけない訳なんだよね。
「マイ~、何やるの~? チラシ配り~? それともぉ、駐車場で声かけとか~?」
柚月さ、それ、意味なくない? それに寒いしさ。
どうせ、交換に関しては、全校集会とか、ホームルームなんかで告知されて促されるんだからさ、チラシなんて作れば部費から引かれるし、配って捨てられてれば、美化委員とかから文句言われるんだからさ。
だから、考えたのは、学校側が作ったパンフを、自動車部主導で、学校の主要な場所に貼り出して、告知に努める。そして、月一でタイヤチェック活動を、生徒指導部や、生徒会を巻き込んで、合同って形でやるのさ。
アイツらを引っ張り出すことによって、チェックする手間が大幅に省ける上に、こっちからの提案でやったって事で、学校側に対して、部の株が大幅に上がるって訳なのよ。
生徒会いたから分かるけど、生徒指導部と、生徒会の印象が良いか悪いかで、部の扱いなんて、天と地ほど違うからね。
「なるほどね」
そうなんだよ、優子。
どうせ、このお題に関しては、なにかしら、自動車部としての啓蒙活動を求められてくるだろうから、先もって動いて、先手で自分たちが楽が出来て、アピール度が最大限になる提案をしておくんだよ。
「さっすが~、マイは、ずる賢いよね~」
なんだ柚月その言い草は。
私が、学校側に先を越されないように、寝る時間を削って考え出した素晴らしくナイスな妙案を『ずる賢い』なんて、まるで、何もしないで、寝ながら考えたみたいに言い捨てやがってぇ! ……このっ! このっ! 参ったか?
「参りました~、ゴメンなさい~」
そしたら、明日はパンツ履いてきませんって、言うんだよ!
「明日はパンツ履いてきません~」
よしっ! ……って、あれ? 燈梨とななみんだ、来てたんだ。
ななみん、聞いた? 柚月、明日パンツ履いて来ないんだって。
「聞きました! ズッキー先輩、マジ変態っス!」
「マイに脅かされて、無理矢理言わされたんだよ~!」
まぁ、くだらない掛け合いはこの辺にしておいて、2人にも、私が考えた冬タイヤ啓蒙活動の説明をしたんだ。
「なるほど、今までは、車やバイクの課外活動が無かったから、生徒会や生徒指導部主導でしたけど、これからは、自動車部にも関わってくるんですね」
ななみん、そういう事だよ。
現に、安全運転講習にも、関わってる部分があるでしょ?
バイク関係の部活動が無いから、今のところは自動車部が一手にやる事になるんだよね。とは言え、バイクのタイヤチェックとかは、やらないように話持って行くけどね。
え? ななみん、マジ?
バイクのサークルの立ち上げ計画があるの?
「随分前から動きはあるんですけど、活動の内容がツーリングとか、バーベキューとか、明らかに課外活動と言うより遊び中心で、学校が許可しないんですよ」
そりゃそうだね。
大会に出る訳でもなし、学校行事に積極参加するわけでもない、ツーリングサークルなんて、許可するわけないじゃん。それじゃぁ、まだ、マゾヒスト部の方が貢献度があるよね、大会参加してるし。
「マゾヒスト部なんて、ないから~!」
「マゾヒスト部なんて、ありません~!」
柚月とななみんがハモっていた。
まぁ、とにかく、そのバイクサークルなんて、設立すら当てにならなさそうだから、やっぱりこの啓蒙活動は、自動車部が中心で進めるしかないね。
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『冬タイヤの話の行方はどうなるの?』など、少しでも思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
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