第205話 百戦錬磨と2シーター
まったく、優子のせいで、せっかくのドライブが半分パーになっちゃったじゃないか。
一昨日は酷いもんだったよ。あの後ななみんが暴れるからさ、仕方ないから、全身ミノムシみたいにぐるぐる巻きにしなくちゃならなくなるし、その後も騒ぐから、燈梨との会話も弾まないしさ、サイテーだったよ。
昨日、バイトの前に優子の家に行ったんだけど、アイツ、妙に勘が鋭いというか、昔から、人にちょっかい出しといて、隠れるのはうまいからさ、いなかったんだよね。
でもって、今回の私はちょっとマジだったから、おじさんとおばさんに、優子の悪行を3割増しで言いつけておいたからね。
へっへ~んだ、優子。私を出し抜いたつもりだろうけど、そうは問屋が卸さないんだよぉ。せいぜい今のうちだけ束の間の勝利を味わっておけ、帰ってきたら、土蔵に正座コースだな。
バイト終わりに、優子の家の前を通りかかったら、土蔵の明かりがついてたから、優子の奴めたっぷりお説教された後で、正座させられてるよ。
ざまあみろ~っていう事で、クラクションで三三七拍子してきてやったぞ。
◇◆◇◆◇
翌朝、優子は片足引きずりながら学校に来てたよ。
あれ!? 優子、どうしたの? バイクで転んだの? とか、白々しく訊いてやったのさ、そしたら優子は顔を真っ赤にして、悔しがってたね。
そもそも、優子が売って来た喧嘩だからね。そこ勘違いしちゃダメだよ。しかも、私相手に喧嘩売ると、優子の場合は、ほぼ100%負けるんだからさ、勝てない相手に喧嘩売っちゃダメだよ。
さて、土曜日、東京に行ってた悠梨と、法事で出かけてた結衣とも、土曜日のドライブの話をしたのさ。すると、結衣は悔しがってたね。
でもって、急遽パンフ見て思いついた話だったってのと、車の数を絞りたいからって話をすると、私からコースの詳細を聞いて
「今度、1人で行ってみようかなぁ」
なんて言ってたよ。
まぁ、1人でも楽しめるドライブコースだけど、でもって、3人くらいいた方が楽しいよ。この季節だからさ、運転交代して眺めも楽しめるしさ。
あ、今日はちょっと水野の所に寄ってから部に出るけど、後継人事について結構動きがあったからさ、3年生は、その件で打ち合わせやるから、部室集合ね。
さてと、職員室に行く前に、あやかんを……って、柚月、どうしたの? ちょっと私はあやかんと水野の所に行くんだけど。
別になんでもない? だったら、先に部室に行っててよ、そうだ、柚月さ、ななみんに、優子の言う事を真に受けないように、しっかり言い聞かせておいてね。一昨日のドライブの時、酷い目に遭ったんだからさ。
「だから、ななみんは~、ぐるぐる巻きだったんだね~」
そうだよ、しまいには燈梨までドン引きだったからね。
それで、柚月は私に何か用? さっきも言った通り、今からあやかんと水野の所に行くんだけどさ。
「その~、後継人事の件なんだけどさ~」
なに? この間のドライブの時に、ななみんと燈梨と話して大体の適正は分かったから、素案を今日話すんだけど、あくまで素案だから、柚月が良いと思う娘がいるんなら、その時に堂々と提案してよ。
じゃぁ、私は行くよ。
あやかんを連れて、職員室に行くと、事前に話しておいたおかげで水野は自分の席にいた。
まずは、あやかんの事情と、車の希望を伝えると
「ただ走ればいいというだけの条件なら、結構豊富に紹介は出来るが、やはり、西原君の希望が一番だからね。『若い』という要素が、どのようなものなのかも、ある程度具体的に示して貰った方が、こちらとしても助かる」
と、またいつもの捉えどころのない感じで、表情1つ変えずに訊いてきたよ。
あぁ、百戦錬磨のあやかんでも、私にヘルプの目線を向けてきているよ。
あのね、あやかん。
一口に『若い』って言ってもさ、最近の若者って、好みが多様じゃん? だからさ、ぶっちゃけ、N-BOXとかでも、カスタムだったら、若さの要素アリになっちゃう訳よ。
それに、SUVだって、若い要素充分だと思うしさ、だから、その、なんと言うかジャンルを指定してくれると良いかな? なんて言ってる訳なんだ。
ホラ、こっちが若さに寄せてクーペとか用意したけど、あやかんの若さはN-BOXかもしれないと困っちゃうからさ。
ふぅ、なんで私が、何のプラスにもならないのに、こんなに心を砕いて2人の間を取り持たなきゃならないんだろ?
あやかんは、ちょっと考え込むような感じになってから、ふと思い直したように見上げると
「優子とか、舞華っちみたいな感じの車が良いかな? 車種は問わないけど、2ドアのさ、ああいうのは、若いうちでないと乗れないからさ」
と、ニカッとした表情になって言った。
すると、すかさず水野が、一本調子で
「了解したが、いくつか質問だ。2ドアだけでなく、3ドアでも可かね? それと、オープンや2シーターの場合はどうかね?」
と、訊いてきたので、あやかんは、ますますちんぷんかんぷんになって、私の方を見てちょっと怪訝な表情を
あぁ、水野と初めて話した人間の大半が示す正常な反応だよ。ホントに水野に思うけどさ、マジで友達いないよね。こんなの友達にいたら、絶対近寄らないしな。
あのね、あやかん。
3ドアってのは、ハッチバックタイプの車のことだよ。
運転席と助手席ドアに加えて、リアのハッチドアがあるから3ドアっていうんだ。
それと2シーターというのは、2人乗りのことだよ。マツダロードスターとか、日産フェアレディZとか、スポーツカーに結構多いよね。
私は、あやかんに水野の言葉を通訳した。
何故、日本人同士の会話に、私が通訳を入れなければならないのか、まったくもって意味不明だけどさ。
いつもながら、水野に引きあわせたのは私だしさ、あやかんが困ると燈梨が悲しむしさ、せっかくだから、あやかんにも良い車がきてくれた方が良いからさ、ちょっと骨を折ってるんだよ。
結果、ハッチバックやオープンは可で、2シーターは、オープンとセットなら可だけど、クローズドボディの2シーターは勘弁して欲しいという回答だった。
確かに、カッコ良いのはいいんだけど、2人乗りだと、通学車としてはちょっときついかもね。
水野の所から戻りながら、あやかんは
「舞華っちは、よくアレの相手できるよね。凄いよ」
と言って、私を尊敬のまなざしで見た。
違うよ、あやかん。
私だって、4月の終盤までは、まともに言葉を交わした事もない間柄だったのに、色々な用事で顔を出すうちに、なんとかあそこまで意思疎通ができるようになっただけだよ。
「普通、それを『だけ』とは言わないよ。舞華っち、私だって、児相とかで色々な人に会ってるけど、水野くらいの偏屈さは、結構キングクラスだよ」
そうなの?
やっぱり児相で鍛えた百戦錬磨のあやかんでも、水野は特殊で偏屈な人物って事なんだ。
私って、もしかしてグレイトなのかな?
え? 凄いけど、あまり身につけてても、自慢できないグレイトさだって?
あやかん、それってさ、私の事全然褒めてないよね。
すると、あやかんは、笑顔を浮かべながら
「それにしても、免許が取れるくらいまでには、どうにかしてくれるって言ってたから、ちょっと楽しみだなぁ」
と、屈託なく笑うあやかんを見て、私はその時、何故か妙な達成感と満足感に包まれていた。
そして、その笑顔を見ると、私もどんな車が来るのかを楽しみに思えてきたんだよ。
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『綾香は、部外者なのに、水野は探してあげるの?』など、少しでも思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
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