第204話 政権移行と秋の空

 ダートトライアルも、色々準備は必要なんだけど、こればっかりは見つかった車次第だよね。

 ダートやラリーに使ってた車のお下がりとかだと、装備品もある程度付いてて作るのが楽だって、兄貴が言ってたなぁ。


 「準備って、例えば?」


 ベストは、アンダーガードや、タンクガードって言って、床下をガードする鉄板があると良いよね。アンダーガードは、エンジンの下部を、タンクガードは、字の如く燃料タンクの下を守る分厚い鉄板で、これはショットガンでも貫通しなさそうな分厚い鉄板なんだ。


 ダートラは、下回りをガンガン打つからね。

 床へこますくらいならまだ良いけど、オイルパンを打ってオイルが漏れたり、へこんだオイルパンのお陰でオイルの吸い込み口が塞がれ、オイルが吸えなくなってエンジンがブローしたりすると、それは最悪だからさ、装備には気を遣った方が良いね。


 「なるほどね」


 まぁ、言うまでもないけど、ロールバーは必須だよ。

 しかも、後席の周辺しか保護しない4点式や5点式なんて論外で、前席回りもしっかり保護する7点式じゃないと、横転上等なダートではケガしに来てると思われても仕方ないよね。

 ……っていうか、そもそも7点式入ってないと出場できないしね。


 それに、ダート車には、4点式以上のシートベルトは必須で、できればフルバケットシートがあればベストだよね。

 これなら万一の横転でも安全だからさ。

 あ、でも、ななみんは、縄でシートに縛り付けるので良いんじゃないかな? マゾヒスト部員の正装としてさ。


 「マゾヒスト部じゃ、ありません~!」


 燈梨は苦笑いしながら言った。


 「ちなみに、スイフトじゃないと、どんな車があるの?」


 一応、水野が挙げてるのは、ちょっと前のシビックとか、インテグラだけど、水野的にボディがやわだから、ちょっとパスしたいって、言ってるね。

 それより遡ると、スターレットとかになるらしいんだけど、かなりじゃじゃ馬で、扱い辛いし、古い上に元が安い車だから、解体に回り尽くしちゃってるみたいで、これは出てこないんじゃないかって言ってるよ。


 水野が言ってたけど、初心者のダートでスターレットは危険らしい。

 舗装路で無いから、グリップや、路面からのインフォメーションは極端に低いんだけど、ちょっとした溝や窪みにタイヤが落ちると、瞬時にハンドルがスパッと取られるため、正確で冷静なハンドル操作と、ハンドルを抑え込む腕力が必要だそうだ。

 

 ただ、スターレットのターボモデルは、乾燥路でも、グリップがいとも簡単に失われるほど、パワーが有り余っていて、しかもそのパワーの出方が極端すぎて、前輪駆動の2輪では、パワーが明らかに支えられていないので、ぶっちゃけ、まっすぐ走らないのだ。

 アクセルを踏み込むと、どっちに車が飛んでいくか分からないので、乾燥路でも、アクセルを踏み込む時は予めあらかじめ両手でしっかりハンドルを握っていないと危険なほどなんだって。


 話を戻すと、ダートでスパッと取られたハンドルを戻すにも、抑えるにも、物凄い腕力でハンドルを抑え込めないと、スターレットの場合、車の気の向く方にすっ飛んで行ってしまうんだってさ。

 そして、無理矢理抑え込んだと思ったら、今度は、初期のFF車にありがちな、強烈なタックインって、内巻き込みと、アクセルを開けた時の、アンダーステアって、外に膨らむやつに交互に襲われて、制御できなくなった車は、トヨタだけに、ヨタヨタとタコ踊りをはじめちゃうんだって……って、上手いこと言ったのに、ナニその寒い反応は?


 そうなると、大体ダートの場合、コース脇の溝か、コースのわだちにタイヤが落ちて、重心の高いスターレットの場合、いとも簡単に車はころりんちょ……だって。


 学生ダート大会が、まだスターレット華やかりし頃、大会のオフィシャルに行かされると、午前の部だけで3~4台は横転車が出て、起こすのに奔走したんだってさ。


 「へぇー」

 「それ、怖いっスね」


 2人共、すっかりビビっちゃったか……。

 とは言え、私もダートなんて走った事無いんだよね。

 水野とか柚月に、普段使ってる部の練習場のノリで良いのか? って、訊いたら、更にもう1段以上上のレベルだって言われちゃったから、練習も必須かもね。


 「でも、どこで練習すれば良いの?」


 練習場をレンタルするか、とか、練習車と競技車も含めて今、水野と折衝中だから、あとは2人の腕にかかってるよね。


 「えーーーー!!」


 ハモるなよ。耳が壊れるだろ!


 でも、現実だよ。もう、私ら3年は、所属だけしてる状態で、代表権とかは無くなるからね。

 その私らが、いつまでも水野と交渉することは、正直、憚られるはばかられるんだよね。

 学校側からも、引退した前の部長とかが、現体制に干渉してるとも取られかねないからさ、私らにも、燈梨たちにとっても好ましくない結果になっちゃうよ。


 だから、週明けに詳細は改めて説明するから、現状の課題と、どんなチョイスをすれば良いのかを、考えておいてくれるかな?

 ある程度の道筋をつけた上で、1、2年生で話し合えば、案も決まりやすいからね。


 「顧問と折衝するの、苦手っス!」


 ななみんさ、最初から水野と接する事から逃げちゃダメだよ。

 燈梨は転校してきたばかりで、ほぼ初対面だし、ここで頼りになるのは、ななみんなんだよ。

 それに、ななみんは、授業で水野と一緒らしいじゃん。

 そんなに繋がりがあるんなら、交渉担当は、ななみん一択じゃん。


 「う……」


 そうか、そんなに嫌なら、ななみんは、柚月と一緒にマゾヒスト部に行ってもらうしかないね。

 柚月から、マゾヒストの極意について、マンツーマンで、みっちり教え込んでもらうしかないね。

 

 「イヤですー!」


 ジタバタしながら、ななみんは叫んでいた。

 まぁ、この辺のところは、みんなと話して、週明けから動くので良いだろう。

 それにしても、次期役員の件さえどうにかなれば、私にとっては、ほぼ9割片付いたも同然なんだよ。


 あぁ、今日は思い切ってみんなとドライブに来て良かったぞ。まるでこの秋の空のように今までモヤモヤしてた問題が、スッキリと片付いて、これで、部関連の懸念はすっかり消えたよね。

 私はふうっと、深呼吸をすると、シートに深く腰を下ろした。


 「させないっスーー!」


 突然、背もたれに衝撃を感じて振り向くと、ななみんが体当たりしてきた。


 「優子先輩が言ってたっス! マイ先輩は、隙を見て、燈梨さんをラブホに連れ込むって、自分を縛ったのも、邪魔させないためっスね? でも、そうはいかないですよ! 自分は手が使えなくても、阻止してみせるっスーー!」


 突然の出来事に唖然として、外を見ると、この辺、ラブホだらけじゃないか!

 なるほど、だからななみんは暴れ始めたのか、しかしだ、そもそも、優子の妄想爆裂特急な薄い本的展開を、真に受ける、ななみんもどうかしてるぞ!


 ななみんはバカか? 妄想と現実の区別もつかない優子のホラ話を真に受けやがってー! そもそも縛られたのは、そうやって走行中の車の中で暴れるからだろーが!

 ホラ燈梨、やっぱり解かなくて良かったでしょ? もし解いてたら大変な事になってたよ。


 「……うん」


 あぁ、燈梨がななみんの変態っぷりに、ちょっと引いちゃってるよ。

 もう、ななみん、いい加減にしないと、足も縛るよ!


 「足も縛って、ホテルに入ったら、自分をトランクの中に閉じ込めるっスね? いや、もしかしたら、私を担いで3人で部屋に入って行って、燈梨さんと自分を毒牙に……イヤーー! マイ先輩の変態サディストー!」


 もう! 優子のせいで、せっかくのドライブがメチャクチャになっちゃったじゃないか!

 


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『こんなので、今後の部の運営は大丈夫なの?』など、少しでも思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。


 次回は 

 ドライブ編も終わり、日常へと戻る中、冬支度が始まります。


 お楽しみに。

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