第203話 役員とスイスイ
燈梨の運転で、紅葉を楽しみながら、話す話題は、今後の部の話が中心となってしまった。
燈梨は、妙に張り切っていて、他の役職もいくつか兼任すると、言ってくれたのだけど、さすがに部長との兼任は、難しいのが多いんだよね。
例えば、競技担当と兼任しちゃうと、出場する競技の説明会の日に、学校内での部活動の役職会議だとかがぶつかる事が多くてさ、その上でどっちも休むって訳にはいかないから兼任はしない方向で居た方が良いよ。
「そう……なの?」
うん。
燈梨、ひょっとして、私が暇そうにしてるから、これくらいならできそうかも? とか思った? だとしたら、それは誤解ってやつだし、そんな風に思ってるなんて、サイテーなんですけど……だよ。
「そ、そんなこと……ないよ?」
本当? なんか、噓くさいんだけどなぁ……まぁ、いいや。
だから、取り敢えず、燈梨は部長兼、整備責任者くらいが負担にならなくて良いよ。
あとの役職は、後ろの席に転がってる置物に、全部やらせちゃえばいいんだから。大丈夫、大丈夫。現部長の権限で、水野にゴリ押しして、やらせちゃうからさ。
「ううううう~~!!」
ええい! 静かにするねい! ガタガタ騒ぐと、このまま柚月にプレゼントしちゃうからな。
あとは、個人の特性に合わせて役職につけていってあげるのがベストなんだよね。いき方として、全員野球ならぬ、全員役職ってのもアリだけどね。そうすることによって、活動に対してシラケる娘が出てこなくなってくるよ。
「そうかぁ」
うんうん、燈梨は、学校行事の経験値が無いだけで、いざ、マネジメントの基礎だけを教えてあげると、結構バリバリ動かしていけそうな雰囲気を感じるねぇ。
実はこれって、柚月も持ってる素養なんだ。柚月ってさ、人の相関関係とかを一瞬で見抜くのに
ただ、柚月は、あまりそれを表に出さないで、ほわ~んとした感じで、やらせちゃうんだよ、そして、なんとなく、みんながやらされてる感なく、適材適所で能力を発揮できてるんだ。
「うむーー! むううーー!!」
ええい! 後ろから雑音がするなぁ。
仕方ない、今から後ろの車を止めて、コイツを渡してきちゃおう。
「可哀想だから、解放してあげようよ」
燈梨ったら、自分を利用して、私腹を肥やそうとしていた人間に対してまで優しいね。でも、時に優しさは、人のためにならないんだよ。だから、私は心を鬼にして、長谷川平蔵だよ。
「じゃぁ、せめて、喋らせてあげようよ。それならいいでしょ?」
燈梨に、そうやってニコッとして言われちゃうと、私はちょっと弱いね。
いい? ななみん。喋らせてあげるけど、余計な事を喋ったりしたら、どうなるか分かってるだろうね?
凄く高速で首を縦に振り続けてるけど、なんか、柚月と反応が似てますなぁ……。
えいっ!
“べりっ”
さぁ、優しい燈梨の提案に応じて、悪辣三昧な、ななみんにも、最後のチャンスをあげよう。
誰が、どのポジションにつけば良いのかを、考えるんだよぉ、きちんと考えないと、このまま獄門台に上がって貰うからね。
◇◆◇◆◇
ふぅ、なんとかなったよ。
しかし、思いもかけず、夏休み前からずっと懸念懸案だった次期役員の件が、こんなにもあっさり解決するとは思わなかったよ。
取り敢えず、3年生でもう1回打ち合わせてから修正は入るだろうけど、部長は燈梨が立候補したからほぼ確定で、沙綾っちは、車の外装担当兼、文化祭担当が良いみたいだって、写真とか、グラフィックが好きだから、そういうのに造詣が深いんだって。
あとは、個々の2年生の特性に合わせた担当を割り振っていくって事で、曽於の場で結構サクサク決まっていったよ。
そして、後ろの席の置物……じゃなかった、ななみんの担当は、副部長兼、会計、更にはマゾヒスト部の副部長にしちゃったよ。
よし、これで人事の件は、スッキリ解決だね。
それで、今後の部のことについて話しておかないといけないんだけど、部員も増えたから、さっきも言った通り、今後、他校との大会とか、学生大会でない、対外的なレースに参加ってのが、期待されてくると思うよ。
ただ、私ら3年の活動が終了しちゃうのと、冬場は、山の中だから移動が危険ってのもあって、実質来年の春からの活動になるけどね。
それに、いくら免許があるからって言っても、燈梨1人だけに対外的なものを全て任せるのは、負担が大きすぎるし、耐久レースみたいなのには、1人じゃ無理だしね。
あ、でも、マゾヒスト部は、冬場も関係なく対外的な活動できるからさ、ななみんの頑張りに期待だよ。
「私は、マゾヒスト部員じゃないです~!」
ええっ!?
だって、今だって、ドライブ中なのに、1人だけぐるぐる巻きになって、マゾヒスト部の活動に余念がないじゃん。
部長の柚月だって、今日は活動してないよ……って、アイツはメンタル的に責められる方の活動してたのか、バックミラー越しに、向こうの車の中で、目が死んだ魚みたいになってるよ……。
そして、話を戻すと、前にも言ったように、ジムカーナに加えて、学生ダート大会への参加は必須だよね。
「ダートって、アメリカ車のですか?」
違うよ! あんなバカでかい車の話じゃなくて、ダートトライアルって言って、簡単に言うと、舗装されてないデコボコのコースを走って、タイムを競うんだよ。
「すると、パジェロみたいなのが必要って、事っすか?」
それも違うよ! デコボコとは言っても、小山みたいのを越えたりするわけじゃないから、普通の乗用車でエントリーするんだけど、さすがに部に余ってるスカイラインじゃどうにもならないから、ダート専用マシンの導入は必須になってくるね。
その話自体は水野とずっと進めてるから、燈梨とななみんには、そこを引き続きお願いしていく事になるね。
「ちなみに、ダート向きの車って、どんなの?」
良い質問だね。
昔は、色々あったみたいだけど、今、手に入りやすいのは、初代のスイフトスポーツとかかな?
あ、ななみんが、にへらって顔になったから言っておくけど、ななみんの想像してるのは、2代目のスイスポだと思うよ。
5ドアで、今のモデルにも通じるお尻がスパッと切り落とされたの。でも、違うから、初代のスイフトは、今のスイフトとは似ても似つかないSUVもどきな車だから。
最初は『スイフトス~イスイ、走りもス~イスイ』とか、女の人が都内を歌って泳ぎながらCMしてたんだけど、全然売れなくて、途中から安売りに走り、泣いてる子供を使って『泣く子も黙る79万円』って、やったら売れるようになったから、エスカレートさせて、赤ちゃん使って『泣く子も笑う79万円』にして、更に『泣く子も欲しがる79万円』とかやって、とにかく子供を使って安売り強調する方策で最後は売ったんだよ。
ちなみに、初期の都内を泳ぐCMの最後の方のカットには、今は亡き、某化粧品メーカーの当時の本社ビルが映ってるんだよ。
「79万円って、凄く安くない?」
そうなんだよ、燈梨。
当時、軽でも通常のモデルは、120万くらいしてたから、この79万円旋風は、結構当たったんだけど、この安売りモデルが出回り過ぎたおかげで、スイフトは安っぽい車って、イメージが付いちゃったんだよね。
この79万円のグレードって、エアコンやラジオみたいな、見た目の装備品の質を落とさない代わりに、遮音材とか、内装の一部を削って安くしてたから、そこから音やガタが出たんだよね。
そして、安売り前の初代スイフトが余っていたエピソードとしては、交番のパトカーに大量導入されてた事からも、明らかだったらしいよ。全国の交番や駐在所に配備されて、駅前交番にも、私らが中学生になるまであったって、優子が言ってたよ。
でも、スポーツに関しては、マジで作り込まれてたから、ラリー系を中心として、結構熱い注目を集めたんだよね。
でも、2代目以降の人気で、すっかり忘れ去られちゃった感も強いから、狙うならコレかな? とは話してるんだ。
ななみんは、どうやら興味があるみたいで、調べようとしてるけど、縛られてるからジタバタもがいてるよ。
「解いてあげようよ~」
燈梨、ダメだよ。
ここで手を貸しちゃ、ななみんが立派なマゾヒスト部の次期部長になれないよ。
「マゾヒスト部じゃないですーー!」
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『これ以上、部車が増えて大丈夫なの?』など、少しでも思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
次回は
運営に迷う2人に舞華が、今後の参加競技のヒントと、それに必要な物資についてアドバイスをします。
お楽しみに。
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