第198話 インスタントラーメンと希望の車

 燈梨の唐揚げとミートボールも美味しいよね。

 私はね、とっても満足だよぉ~、ありがとう、燈梨。やっぱり燈梨を誘って良かったよぉ~。


 「あ、ありがと……なんか、改めてお礼言われるのって、ちょっとこそばゆいっていうのかな?」


 そうなの? 

 私だって、結構自分で作ったりしてるけどさ、燈梨ほど美味しく作れてる自信は無いんだよね。


 「そんな事無いよ……って、言いたいけど、私、舞華の作ったものを食べてないから、それは言い切れないかな……」


 だよね。

 まぁ、柚月みたいに残飯未満の物作ってるのは、別としてさ。燈梨も、私の作ったものとか、食べた事、ないもんね。


 「なんで、私の作ったのは、残飯未満なんだよ~!」


 当たり前だろーが、サンドイッチや、卵焼きすら失敗してる柚月が作ったものなんて、残飯未満に決まってるだろー。

 柚月なんて、カップラーメンしか作れないじゃん!


 「そうだね、柚月はからね」


 優子、マジ?


 「うん、柚月のおばさんが入院してる頃、私は帰宅部だったから、柚月の面倒見に行ってたんだけどさ、ある日、ちょっと用事があって遅れて行ったら、柚月が、鍋の底を抜かして、シンクに、真っ黒に焦げた物体があったんだよ。よく見たら、インスタントラーメンの麵だったの」

 「ええっ!!」


 優子の言葉に、私だけでなく、あやかんも、燈梨もハモって驚いていた。


 「インスタントラーメン失敗する人って、いるんだね」


 燈梨、そうだね。それは正常な反応だよ。


 「私、小学2年の頃から中学まで週3くらいで食べてたけど、うっかりして伸ばした以外の失敗は知らないな」


 だよね、あやかん。

 普通は、そうなんだけど、柚月はそこまでやっちゃうんだよ。

 私は、インスタントラーメンの件は知らないけど、柚月だったら、そのくらいやりかねないって事は、同感だね。


 まぁ、そんなことはいいじゃん、柚月がどんなものを作ろうと、今度、燈梨たちの前で腕前を披露するんだからさ。

 ねぇ、あやかん?


 「舞華っち、私は行かないよ! 勘違いしないでよ」


 そうだっけ? じゃぁ、今度行くのは、ななみんか。


 「いや、マイ先輩。私は、実はお腹が痛くて……」


 そうなの?

 でも、大丈夫だよ。なにせ、時の総理大臣すらも直した特効薬が存在するらしいからさ。


 「私、薬疹やくしんが出るので~~」


 お薬手帳見た事あるけど、そんなこと、書いてなかったじゃん。


◇◆◇◆◇


 午後は、来た道を帰っても面白くないので、ルートを変えて大回りになるけど、山々の中を抜けていく道を選んで行ってみた。


 ここからは、せっかくなので、燈梨に運転して貰っていく事にしたんだ。ホラ、色々な車に乗っておけば、自分の車との違いも分かって面白くなるしね。

 どう? 燈梨は、R32に乗るのは初めて?


 「いや、実は、車を選ぶ際に、色々な候補車を運転させて貰って、その中にR32もあったんだ。恐らく同じグレードだと思うけど、それよりも、この車の方が軽く走る感じがするね」


 でも、私も部車でS14があるから、何度も乗った事があるけどさ、あっちの方が軽快に走るって意味では、R32よりも上に感じない?


 「う~ん、まぁ、実際エンジンの重量とかがあるから、R32も、突き詰めて言うと鼻先が重い感じはするけど、エンジンの音のリズムの良さとか、滑らかさなんかを合わせると、単純にどっちが上って感じはしないかな……」


 そうか、確かにどちらにも持ち味があるからね。

 私も、スカイラインのエンジンのリズムや音のビートなんかは、好きなんだよね。


 そう言えば、あやかんは、どんな車が好みなの?


 「特にないかな~」


 そうか、となると、あやかんは軽トラでも可……と。


 「それは、さすがに嫌だよ」


 やっぱり希望があるじゃん。

 水野は変人さんだから、きちんとある程度の幅での希望を言わないと、気を悪くして、あやかんの気に入らないものを押し付けてくるかもしれないぞ。

 たとえば今時S-MXとかね。


 あやかんは、何を言われたのかが分からずに、スマホを出して検索したようで、しばらくしてから、凄く嫌そうな表情をして


 「こんなの、正直困るよ。微妙にデカくて、使い勝手も悪ければ、人も大して乗れないし……」


 と、吐き捨てるように言った。

 そして、ふと思い出すような仕草で言った。


 「せっかく、普通免許を取るんだから、最初はオートマじゃない方が良いよね。そして、できれば……だけど、若々しい感じがするのが良いな」


 ふむふむ、あやかんは、若々しさを感じるマニュアル車で、15万以下……と、なかなかに、難しいハードルを並べますねぇ……。


 「だからっ! 無理だって言われたって、さっき言ったじゃん!」


 だけど、水野は、前に、柚月の車探してた時も『困難な条件で、あればあるほど燃える』とか、変態的なこと言ってたから、ある程度の幅がある、今回の場合は、何かしら見つけてくるんじゃね?

 正直、水野って、自動車部より、マゾヒスト部の顧問の方が、合ってそうな気がするんだよね。


 しかし、あやかん。私、何人かの車探しの仲介してて、困ったタイプの人の特徴って、何となくだけど分かっちゃったよ。


 「どんな人なの?」


 1つ目のパターンは、車種、年式、程度や価格をピシッと決めてくるタイプね。

 そんなんだったら、代行業者に頼んで、業販オークションで引っ張ってくればいいじゃん……って、レベルの拘りのくせに、価格が相場よりはるかに安めで、どの条件も譲歩できないって言ってくるんだよ。


 2つ目のパターンは、さっきのあやかんみたいに、『価格内ならなんでも良い』って言うから、予算に合った車持ってくると『これじゃない』って、突然条件を追加してくるタイプね。


 思い出したんだけど、前に兄貴がそれでキレてた。

 知り合いに『安くて程度の良いオートマ車、車種不問』って、言われたから、年式も新しくて、程度極上のデミオを紹介したら『なんでも良いけど、トヨタの車』とか、言い出したから『トヨタの中古車センターで探せ!』って、怒鳴りつけてた。


 「お昼は何でもいいって言うから、作ったのに、文句言われるのと同じパターンだよね」


 燈梨、ナイスな例えだよ。実際にあったの?

 え? コンさんは、そんなことは言わないって? たとえそうだったとしても、燈梨の作ったものは美味しいって言いながら食べるって?


 あぁ、あぁ、ご馳走さま、ご馳走さま。

 いや、別に怒ってないよ。ただ、体が痒くかゆくなっただけで。


 さて、それじゃぁ、この条件で訊いてみるか。

 月曜日に3人で水野の所に行こうよ。

 なんか、あやかん嫌そうな顔してるけど、まさか、水野に会わずして車だけ探して貰おうとか思ってた?

 それは無理ってもんだよぉ~。その期間だけでも、あやかんが、水野のかばん持ちとかして過ごして、ようやく手に入るものなんだよぉ。


 「水野って、鞄なんか持ってないでしょ」


 そうだっけ? ぶっちゃけ、通勤してるところとか見た事無いから、全く知らないよ。アイツが、どんなカッコしてるか、含めてさ。


 「1~2度見た事あるけど、あのカッコのままだよ。荷物は巾着に入れてた」


 そうなのかぁ、それにしても、アイツさ、服、あれしか持ってないんじゃね? って思っちゃうよね。

 色々謎が多い奴だけど、知りたいと、全く思わないところがまた凄いんだよね。


 「うん、それは言えてる」


 でしょ?


 「でも、私は、まだ来年も関わってかないといけないんだよ~、不安にさせないでよ」


 いや、燈梨。

 大丈夫だよ。アイツは確かに得体の知れない奴だけど、動きのパターンは、そのうち読めるようになってくるから。

 第六感で、『今日は、来るかもな~』とかピンとくると、大抵、その日に会うからさ。


 「スゲェな~」


 あのさ、あやかん。

 別に身につけてても、何の役にも立たないスキルの筆頭だからね。別の何かと交換できるなら、そっちと替えてもらいたいもんだよ。テストの山が当たるスキルとかとさ。


 「だな~」

 「あはははは」


 燈梨は、笑い事じゃないんだけどな~。


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『綾香の出した条件で、ホントに何か見つかるの?』など、少しでも思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。


 次回は

 燈梨、綾香と楽しい時間を過ごす舞華、綾香の車の希望で盛り上がります。

 そして、休憩にした後、初のメンバーチェンジが行われます。


 お楽しみに。

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