第197話 七不思議と電源タップ
いやぁ~、楽しみだったんだよねぇ、燈梨のお昼食べるのがさ。
そりゃぁ、私が言い出しっぺだからね、当然のごとく景色が目的なのは言うまでもないんだけどさ……ペロッ。
「なんだよ~! マイだって、お昼が目当てだったんじゃん~!」
バカ抜かせ! 柚月と違って、私は、ドライブが目的で、お昼はそれに付随する楽しみだったの。
私たちは、ちょっと奥に行った広場の茂みの中にレジャーシートを広げてお昼にしたんだ。
ここからなら、いい眺めも一望できるし、駐車場の騒音や排気ガスも気にならないから、うってつけの場所なんだ。
え? なんで、こんな穴場を知ってるのかって? それは、私らが地元民だからだよ。
雑誌やネットで調べた都会人たちは、駐車場脇の広場とかに陣取りたがるけど、あそこはアウトね。
自販機コーナーがあって、ひっきりなしに人が来るから慌ただしいし、レストハウスを挟むから景色が見え辛いんだよ。
しかも駐車場から近いから、下手に車が出入りしたり、アイドリングなんかしてると、排気ガス食べてるみたいだし、それよりなにより、人が多くて、せせこましい上に、落ち着かないんだよね。
そこいくと、ここは奥まって見えないし、そのくせ景色はバッチリだし、私ら以外には2グループいるだけだし、最高だね。
ここって、小学校の遠足で1回だけ来た事あるんだよ。その時の休憩とお弁当の場所がここだったってわけ。
よし! 落ち着いてゆっくりできる場所も見つけたところで、いただきま~す!
「どう? まだアパートのキッチンの勝手に慣れないから、上手にできたとは言えないけど……」
そんな事無いよ! 美味しいよ燈梨、卵焼きは甘くない派だね。お弁当の卵焼きは甘くないのに限るよね。
「一応、両方作ってきたんだ。もし、良かったら……」
え? そうなの? それじゃぁ、甘い方も貰おうかなぁ? うん! こっちも美味しいよ! 甘い方も美味しいよね。
「マイ~! どっちでも良いんじゃん~!」
違わい! 柚月、どっちも美味しいって言ってるんだよ。柚月なんか、何にも作れないくせに、私の行動にケチつけるんじゃないやい!
「ううっ! なにも作れないのと、何も言うなってのは関係ないだろ~!」
そんな事無いね。
作れないくせに、口だけ一丁前なのはダサいって言ってるんだよ。
柚月は高1の頃、おばさんが入院して、お昼にサンドイッチ作って来た時、サンドイッチ用のパンを使わずに、普通の食パンを使って作ってきたから、分厚くてパサパサのサンドイッチになって、半泣きになりながら食べてたじゃないか!
しかも、ツナは和えて作るって事を知らないで、ツナ缶から出したまんまのツナをパンに乗せてきたから、タッパーの中が油まみれになってたじゃん。
それを聞いた燈梨とあやかんは、口を押えて哀れんだ目つきで柚月を見つめた。
大体、柚月は卵焼き作れないくせに、私の卵焼き論にケチをつける資格なんて無いんだい!
柚月は、料理が滅法苦手だ。
子供の頃から、何を作っても天才的に不味くなったり、調理器具を破壊したりするんだよね。
ちなみに、柚月のおばさんは、料理上手で、手作りのお菓子とかをよく、振舞っていて、その娘である柚月は、おばさんの手解きを受けているはずなのに、子供の頃から全く変わらずに、私も優子も不思議になってしまうのだ。
そりゃぁ、私も優子も、そんな柚月を見かねて、一緒に何かを作ろうと誘ってみるんだけど、何故か柚月は、同じ材料を同じ分量使ってるのに、全く違ったものが出来上がってくるのだ。
何度やっても、こんな調子だから、終いには、私は柚月におちょくられてるんじゃないかと思えてきて、イラっとし、ケンカになって終了してしまうのだ。
「もし、良かったら、一緒に何か作ってみる?」
燈梨がおずおずと言った。
ダメだよ燈梨、こんな奴と一緒に料理しても、ド失敗するだけだから。
コイツにはね、私も、優子も何度も一緒に教えながら、色々な料理にチャレンジしたんだよ。
だけど柚月は、何を作っても失敗するんだから、ある意味才能だよ。味付け無しの卵焼きでも、トーストでも、何故か失敗して、とんでもない状態の物になってくるんだから。
それを聞いて、優子も頷いて言った。
「そうだよね、どうやったら、こうなっちゃうのか訊いてみても、『真面目にやってるもん~!』の一点張りだしね。私は、何度やっても、目玉焼きの黄身が行方不明になるのだけは、柚月七不思議の1つだよね」
まぁ、柚月七不思議の残り6つは一体何なのか、気にならない事はないけど、確かに優子が言う現象は、私と一緒にやってる時も起こったね。
何故か、蓋を閉める前にはあったはずの黄身が綺麗に消えて、白身だけの焼きが出来上がってるんだよ。
目玉焼きの失敗で、黄身が爆発しちゃったり、崩れちゃったりすることはあるんだけど、綺麗さっぱり消えるなんて事は、まずあり得ないんだよ。
「そうなの? でも、今度七海ちゃんとも一緒にやる約束したし、一緒にさ」
燈梨はイイ娘だねぇ~。
こんな奴、放っておけばいいのに、手を差し伸べてくれるなんてさ。
それとも、もしかして柚月に何か弱味を握られてるの? 部屋に盗聴器とか仕掛けられて、会話を録音されたりとかしたの? それとも、パンツを人質に取られたの? だったら、私に言ってくれれば、コイツなんか、『成敗』して、そこら辺の木に串刺しにして置いて帰ってやるからさ。
「パンツを人質なんて、マイじゃあるまいし~、誰がやるかっ!」
柚月ならやりかねないからね。
『コレ、便利だから~』とか言って、盗聴器仕込んだ三又ソケットとか、引っ越しのお祝いに渡してそうだからな。
そして、盗聴器で留守のタイミングを見計らって、部屋に忍び込んでパンツを……このっ、人でなし!
「痛いっ、痛いよ~、なにするんだよぉ!」
その様子を見ていた燈梨が
「大丈夫だよ。引っ越しの日に盗聴器が無いことは、確認済みだからさ」
と言った。
でも、コイツの事だから、三又ソケットとかを勝手に置いて行ってるかもしれないよ。
「それも大丈夫だよ。部屋のコンセントは、今のところ、タップ使ってないから」
そうなの?
まぁ、柚月の料理は、超弩級に信じられない事が起こるから、心してかかった方が良いよ。
「それに関しては、同意だね」
でしょ、優子もそう言ってるからね。
どうせだったら、柚月の家でやったら良くない? あそこのキッチンなら広いから3人いても動けるよ。
「それは良いね~」
だろ、柚月、すべて私のお陰だぞ。
一生感謝しろよ、奴隷1号。
「うるさいやい~! どっこもマイのお陰じゃないじゃんか~!」
なんだと! 燈梨がここに来たのも、今回の料理に誘われたのも、全部私が声をかけたから実現したんだろーが!
それをまるで自分がやったみたいに、いけしゃあしゃあと、このっ! このっ! こいつめっ!
秋の良く晴れた爽やかな空の下、私が悪の柚月を必死に抑え込んでいる様子を、みんながお昼を食べながら、にこやかに見守っていた。
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『優子の蘊蓄には、他にどんなバージョンがあるの?』など、少しでも思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
次回は
お昼を堪能する一行。
まだまだ旅は続きます。
お楽しみに。
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