第195話 駆逐とシンフォニーL
よし、柚月、いこうかぁ~。
ヒエラル小僧は、得意がって、今後起こるであろうトラブルについて
エアフロ、クラセン、パワトラに、イグニッションコイル……定番すぎて、もう耳にタコだっての!
「どう? ちょっとや、そっとの覚悟じゃ、乗れないんだよ~」
だって。で? もしそれで、私らが『怖~い、もうこんな車、乗れないよ~』とでも言ったら、どうするつもりなんだろ? 買ってくれるのかな? でもって、こういう奴だから、これ幸いに買い叩くつもりだよ、30万以下とかで。
絶対『程度が悪いけど、個体の保存のために、これだけ出したんだ』とか、何も知らないと思って恩着せがましく言ってくるに決まってるよ。
どうするかな、と思って柚月を見たら、柚月がウインクして、任せてくれって訴えてくるから、任せてみたんだ。
「コレって、いつも整備とか、何処に出してるの? まさか、ノーメンテじゃないよね?」
いちいちムカつく言い方。誰がお前の講釈を訊かせてくださいって、頼んだんだよっての!
大体、そんなこと言うお前こそ、どこに出してるんだっての! どうせ、どっかのミーティングかなんかに出て、参加してる人達に取り入って、紹介して貰った店だろ? 隣の県とかにあるお店まで、1時間以上かかっちゃって、ホントに車壊れたら、お手上げなパターンじゃん。
「まっさか~♪ 近所のディーラーで、キッチリと整備して貰ってるよ~」
柚月が、ご機嫌に答えてるけど、私には分かるよ。柚月、相当コイツにムカついてるね。柚月の出してる空気が、物凄く、柚月のイライラを表しちゃってるよ。もうね、空気のエッジが立ってるって、いうのかな? そんな感じでさ。
すると、奴が、凄くバカにしたように、ニヤッとした笑みを浮かべながら
「ダメダメ、ディーラーなんかに出してちゃさぁ、あそこは、部品交換するしか能がないところだからさ」
ハイ、出た。
ディーラーが、部品交換するしかできない場所だって、決めてかかって、役立たず認定してる段階で、キミはバカ認定だから。
まぁ、恐らく、その個人売買で買っただろう改造R32で、ネットで買った中古の社外部品か流用部品でも取り付けて貰おうと、近所のディーラーに飛び込みで入って頼んだら、断られたかなんかで、ディーラーを逆恨みでもしてるんだろうね。
ディーラーの対応も、付き合いの度合いとか、担当や店舗の熱量によっても変わってくるからさ、自分のダメさ加減を基準に一概にダメだって言ってる段階で、世間を知らねぇな~って思う訳よね。
「あそこはさぁ、すぐ部品交換させようとするし、すぐ新品の部品取ろうとするからね。それに、専門のショップとじゃぁ、ノウハウの差があるんだよねぇ」
あぁ、やっぱりダメな奴の考えだね。
新品の部品取るのは当たり前だろ? そんな30年前の車の部品なんだから、いつ壊れるかも分からないんだし、予防安全的に交換するだろうし、不調の当該箇所なら、無論、交換するでしょ。
それに、お前みたいに、何でもかんでも中古部品とかで直すのがいるから、補修部品の製造廃止が相次ぐんだよ。
R31みたいに、とてつもない好き者のショップが、中止部品に数百単位で受注入れてくれたりすれば、再生産もあり得るけど、R32には、そういった力のある後ろ盾もないんだから、1人1人の行動が大切になってくるんだよ!
それなのに、こんなのがいるからね。同じR32乗りなのに、マウント取ろうとか、マジ分からね。だから民度が低いって、言われちゃうんだよ。
柚月を見ると、目が鋭いものに変わってるから、そろそろ始める気だね。
そして、相手をニヤッとして見据えると、言った。
「そうなんだぁ~、でもぉ、ウチらのディーラーは、N1耐久レースに出てたし、そのノウハウをフィードバックしてるって、言ってたからスカイラインのプロショップだって、言ってたよぉ。しかも、メカニックのおじさん達は、みんなR32乗ってたらしいし、壊れそうなところはみ~んな、インプットされてるって」
「で、でも、ディーラーは、所詮ディーラーだし……」
思わぬ柚月の的を射た返しに、狼狽えたが、男はそれでも喰い下がってきたよ。すると、柚月は
「うん、だから、社外品の調整とか、不調にはショップ紹介してくれたし、掛け持ちで、点検整備だけは、ディーラーに持ち込んでくれて良いよって、言ってくれてるよぉ。それに、ショップのおじさんも、基本新品での修理推奨だよ~『新品買わないと、製造廃止になっちゃうからね』って、言ってるしね~」
柚月の返しが鋭すぎて、相手はぐうの音も出なくなっちゃったよ。
よし、ここで、最後のあおりを入れちゃおうよ。
やっぱり、古い車維持するには、部品供給が大事でしょ。
新品部品は買わない、ディーラーにも行かない、メーカーにお金落とさないで、メーカーの文句だとか、今の車はつまらないとか、言っちゃダメだよね~。
それって、外野の騒音だからさ、メーカーは聞いてくれないよねぇ~。
よし、ウザいマウント男は撃破したね。
でも、最後のダメ押しに、エンジンルームと、トランク見せておいた方が良いって?
私が、ボンネットを開けて、ピカピカのエンジンルームを見せると、もう、顔面蒼白になってたよ。
やっぱりタービンが変わってるらしくて、それを見ても愕然としてたけど、トドメにトランクの中にある予備のエアフロと、パワトラを見せたら、完全に黙り込んじゃったよね。
ここでやめとけば良いのに、柚月、よっぽどムカついてたんだね、奴に向けて
「こっちのGTSは、私ら3人でエンジン積み替えたからね~、燃料タンクも、エアコンも総入れ替えしたんだからね~!」
と言っちゃったもんだから、もう、完全にギブアップしちゃって、意気消沈しちゃったよ。
さて、優子先生の方も、勝負あったりだね。
優子先生ったら、なんでケンメリの話とかしてるの?
しかも、『シンフォニーL作戦』ってなに?
え? バブル絶頂期の日産が、当時このクラスのシェアトップに躍り出た、トヨタのマークII/クレスタ/チェイサーの3兄弟からシェアを奪還すべく、4車種によって実行されたマークII3兄弟包囲作戦だって?
1988年登場のマキシマ、セフィーロと1989年1月にモデルチェンジのC33型ローレル、そして5月モデルチェンジのR32を加えた4車種が対象だったのか。
結果は、ローレルだけが安定してヒットしたけど、他は、セフィーロが最初の1年間ヒットしただけで、あとはみんなド失敗して、1年後には、作戦名すら消えていた、悲しい作戦の事だって?
そんなの、マジ知らないよ。
それで、こっちも、心ボッキボキに折られた?
え? 優子の博識ぶりに感心して、すっかり、話し込んでしまっただって?
それで、その彼の車は、ちょっと珍しいタイプMRだって?
え? 隣に止まってたの、優子と話してた方の人のR32なの?
じゃぁ、あの偉そうに語ってたアイツは、車にも乗ってないってワケ? よく、自分の車も持ってないくせに、偉そうに私らに講釈垂れられたもんだね。
あぁ、タイプMRって、R32の最末期に、関東の方のディーラーで作った、タイプMにGT-Rの顔に見える社外グリルや、ボンネットつけて、GT-Rのリアスポイラーつけた仕様のやつでしょ。
結局、ディーラー側で作る特別仕様だから、バンパーだけは、本物を使うと違反になるから、どうにもならずに、標準のバンパーだから、妙に口角が上がった印象のやつだね。
なんで知ってるのかって? 兄貴が昔乗ってたからだよ。そして、兄貴は、タイプMRでドリフトしながら電柱に勢いよくぶつかって、その電柱が車目がけて倒れてきてさ、兄貴のタイプMRは真正面から見たら天井がMの字みたいになっちゃって、そのまま廃車になったんだ。
あぁ、この話は失言だったかな? もう1人も顔面蒼白になっちゃったよ。
いやぁ、それにしても、ムカつく奴らも撃退できて、これでスッキリとドライブが楽しめるね。
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『R32って、そんな特別仕様もあったの?』など、少しでも思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
次回は
ドライブを再開して、みんなで眺めの良い場所を目指します。
お楽しみに。
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