第194話 絶景と困った虫
どうよ! もっと眺めの良いポイントはあるんだけど、ここからの景色も、捨てたもんじゃないんだからね。
私が眺めの良い場所から景色を指して言うと、燈梨は感動していたし、ななみんも
「そう言われてみると、私も、ここからの景色って、じっくり眺めた事無かったっス!」
と、やっぱり感動していた様子だった。
そうなんだよね、ななみん、分かるよ。
だって、さっきまでの私が、そうだったもん。
私たちって、子供の頃から当たり前すぎて、この辺の景勝地って、ホントに行った事無いんだよ。
小学校の遠足とかだって、さすがにこんな近場は……って感じで避けられてただろうし、家族でこんな場所まで出かけたりもしないしね。
そう考えると、私らにとっても、ここって新鮮な景色に見えてこない? ねぇ、優子、柚月?
なに、その薄い反応? それとも2人は、この辺に来過ぎていて、ここからの景色には一片の感動もないって訳?
「結構、バイクで来てたから~」
フン、バイク乗りどもめが、せっかくの感動を台無しにする発言、どうもありがとうございました~!
「マイだって~、バイク乗ってたじゃん」
私のバイクは通学と、近所の移動用だったの。スピード狂の、柚月たちと一緒にするなっ!
◇◆◇◆◇
休憩のつもりだったんだけど、かれこれ15分くらい、景色に見入っちゃったね。
燈梨、あやかん、この先に、もっと眺めの良い場所があるんだよ。そこでお昼にしようね。
車まで戻ろうと、駐車場に差し掛かった時、私らの車の周辺に人影があるのを発見したよ。……先に歩いてる柚月が、こっちを向いて、凄い嫌そうな表情をしたのを見て、私にも何となく先にいるものの正体が分かっちゃったよ。
たまに、R32止めてると、その周囲に湧いてくるんだよね。ああいう旧車廚みたいなの。しかも、大した知識もないのに知ったかする、若い子が結構多くて、私のレベルですら吐き気がするんだよ。
燈梨、あやかん。
私、リモコンでロック開けるから、私たちが惹きつけてる間に、助手席側からサッと中に入っちゃって。
もし、ドアとか開けてきても、手、挟んででもいいから無視してドア閉めちゃっていいからね。『警察呼びますよ!』って、言っちゃっていいから。
よし、行こう。
私と柚月、優子は、足早に歩きながら前面に出て行き、車に近づいた段階でリモコンを押して解錠した。
そこで、燈梨とあやかんは私の車の助手席側、ななみんは、優子の車の運転席側から室内に入ると、ドアを閉めた。
それを確認しながら私たちは、寄ってくる人影に対峙した。
その姿を一目見て、私の嫌な予感は当たっちゃったよ……マジ~? って感じだった。
見た目的に20代の前半から中盤くらいかな? 明らかにR32現役当時を知らなさそうな世代だ。これが一番始末に悪いんだよね。
大体、30代後半以上の世代だと、現役時とか、R32が底辺だった時代の事を知ってる世代だから、身になるアドバイスだとか、昔、乗ってて、こうだったよ……的な話だから良いんだよ。
言われるのも『この箇所が壊れたりで大変だけど、頑張って!』とか、『エアフロの予備あるかも?』とかだから、言われても爽やかだから良いの。
でもね、このくらいの世代が言う事って、大抵が『今の車はつまらない』とか、『V35以降はスカイラインじゃない』とか、挙句、昔の外国人社長の悪口とかだよね。
私はね、あの社長、お金をちょろまかして逃げたのは、とんでもない!と思うけど、車作りと、日産の経営の立て直しについては評価してるよ。
あの人のセンスと決断力がなければ、今、フェアレディZも、GT-Rも、スカイラインも存在しないからね。旧の日産陣営は、この3車は終了させようとしてたからね。
ついで言うとエクストレイルも、あの社長じゃなければ、企画潰されて、登場しなかったし、ムラーノも登場しなかったから、一時ヒットして屋台骨を支えた車の大半が登場しない事になっちゃうんだよね。
よく、来てから、日産はダメになったっていう人がいるけど。完全な勘違いで、もし、いなかったら、10年以上前に、日産は無くなっちゃったと思うよ。
スカイラインだって、国内では売れなくても海外で売れてたし、エクストレイルは登場から9年連続で国内SUVの販売台数No1を堅持してたし、そういう車たちが、日産の暗黒期を支えた中の1つだったんだからさ。
日産は、10年ほど前、異様にSUVの車種が多かったんだ。ジューク、デュアリス、エクストレイル、スカイラインクロスオーバー、ムラーノって、当時国内ではあまり売れてないのに……って思われたけど、当時海外で売れていて、日産はその波に乗ってたんだよね。
それで、国内から『SUVが多すぎる』って言われて、車種削減したら、今、国内は空前のSUVブームで車種が足らなさすぎて、販売逃してるでしょ。
先が見通せてる人がいないんだよね。
さぁ、脱線しちゃったけど、柚月、優子、いっちょ、やっちゃいますか!
私らが車に近づくにつれて、相手の全貌も分かってきたよ。
私と優子の車のさらに奥に、もう1台、R32が止まってるよ。
なるほど、私たちの車に引き寄せられたって訳ね。別に、私らは、呼んだつもりはないんだけど、なんか勝手にフラフラ近づいて来るんだよね。
そのR32に乗っていた2人が、私らの車の周りをブンブンと飛び回ってるんだ。
私らは、素知らぬ顔で、それぞれの車へと向かって行ったところで、私ら3人に声をかけてきたよ。
「こんにちは~」
あぁ、フレンドリーに話しかけて、仲間に引き入れようってか?
柚月が挨拶返してるけど、明らかに気のない感じだね。人当たりの良い柚月が、ここまで気がないってのは、柚月が生理的に受け付けないタイプだね。つまりは、私とも合わないタイプだよ~。
うんうん、私らが、こんな古い車に乗ってるから、明らかにギャップに驚いてるけど、まぁ、若い女の子だって分かった後の対応ってので、大体、相手して良いのか否かが分かるよね。
「この車、珍しいよね~。探したの?」
あぁ、やっぱりか、見た目で明らかに歳が下の女子だからって、初対面の人間にタメ語、使うなよな。しかもさ、声かけてきたの、そっちでしょうが、私らじゃないからね。
いや、別に、こっちは兄貴が置いて行った車だし、そっちのは伯父さんの形見だし、探してないよね~。
私は、当然のごとくタメ語で、しかも、力一杯関心なく返したんだ。
すると、もう1人の、最初に話しかけた方よりは、メカに強そうに見える方が、ニヤニヤしながら話してきた。
「それじゃぁ、何も分からないよね~。このR32って車は、あちこち壊れやすいから、生半可な気持ちじゃ、乗れないんだよ」
あぁ、出たよ。
自分でも大した場数、踏んでない癖に、自分より下にマウント取りたがる、しょーもないヒエラルキー小僧か。
「こっちの赤いのはターボだから、それはもう、あちこち壊れてくるだろうね。前期だし、こっちはノンターボで後期だから、比較的丈夫だけど、でも、今の車みたいに乗っちゃダメなんだよね~」
もうさ、お調子に乗り過ぎだよね~。
じゃぁ、自分になにが出来るんだっての? コイツの手とか見てるけど、せいぜいオイル交換したことがある程度じゃね?
車を自分でメンテしてる人って、身綺麗にしてても、独特の雰囲気ってのがあるのよ。見た感じ、コイツからは、何の雰囲気も出てなくて、あるのは薄っぺらくて、不愉快な、知ったかの雰囲気なんだよね。
「この白い方って、60thアニバーサリーですよね! 初めて見ました~」
最初に声かけてきた方の男が言った。
なるほど、こっちは知識先行の頭でっかちか、でも、口のきき方とかは、もう1人よりなってるから、まだマシだよね。
まぁ、それでも、都合のいい知識しか持ってないタイプに見えるよ。R32が、その後のスカイラインの歴史を混乱に陥れたA級戦犯だって事は、知らなさそうだし、まずにして『売れてない』っていう事実も知らなさそうだしね。
よし、ここで担当分けしようか。
頭でっかち君は、優子の担当ね。優子、ああいうタイプの揚げ足取るの、得意でしょ? だからって、あまりボキボキに心、折っちゃダメだよ。
じゃぁ、私と柚月は、こっちの半端マウント小僧の相手ね。
いくよ!
──────────────────────────────────────
■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『古い車って、そんなに人を引き寄せるの?』など、少しでも思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
次回は
湧いて出てきたにわかに困惑する舞華一行。
役割分担も決まったところで、本格的に対峙します。
お楽しみに。
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