第192話 少数精鋭とダムカレー

 目の前に止まった車のドアが開き、勢いよく飛び出してきたのは柚月だった。


 「いたぁ! 裏切り者めぇ~!」


 と言うと、私に飛び掛かってきたので、ツッコミの要領で払い除けて言った。

 おはよ、柚月いい天気だね。


 「今は午後だよ~!」


 まぁ、そんな細かい事、こだわらなくても、よろしくなくて?

 それじゃぁ、私ら上級国民は、お買い物があるので、ご機嫌よう。


 「待てぇ~い! 行かすかぁ~!」


 柚月は、アパートの入口の、車で塞がれてないスペースに立ちはだかって、行く手を遮った。

 邪魔だよ柚月、アパートの他の住民の迷惑だろ。


 「ズッキー先輩、なんか、お怒りモードですね」


 七海ちゃん、アレだよ。柚月は上級国民の仲間に入れなかったから、僻んでひがんでるんだよ。よくある逆恨みってやつだよね。


 「マイ~、デタラメ言うな~! よくも私を騙したな~!」


 あら柚月、大変、どうしたの? 誰かに騙されたの? お金取られたの? 

 私が言うと、柚月はぷるぷると震えながら


 「マイが騙したんだろ~! 今日、解体屋さん、やってないじゃないか~!」


 と、私の肩を掴んでガクガク揺らしながら叫んだ。

 私は、柚月を引き剥がすと、ちょっと鋭い目つきになって言った。

 知らないよ。私が帰った後で、おじさんが閉めちゃったんでしょ。あそこ、定休日なんて、あってないようなものだし、引き取りとかになって、おじさんがいないと、閉めちゃったりするじゃん!


 「ウソばっかり~、どうせ、GTS-4だって、無いに決まってるもん~!」


 あそ、そんなに言うんだったら、あとで解体屋さんに行って、もし、GTS-4があったら、柚月はそれなりの覚悟があるって事だよね。私の事をそこまで嘘つき呼ばわりした以上はさ。


 「ううっ……」


 噓つきは、閻魔大王に舌を抜かれるんだから、私の事を嘘つきだなんて、嘘をついた柚月には、その場で舌抜いて貰おうかな?


 「イヤだい!」


 舌が嫌だってんなら、小指で責任取る? 私は、どっちでもいいよ。

 私は、優子の方をチラッと見ると、優子はニヤリとしながら


 「私も、解体屋さんでGTS-4の2ドアが入ってるの、見たんだよね。昨日だけど」


 と言い放った。

 すると、柚月の顔が見る見る青ざめていき、後ろを向いて逃げようとした柚月を私と七海ちゃんで、ガッチリと捕まえた。


 「はなせ~!」

 「ズッキー先輩、いざとなったら逃げるなんて、格闘家の恥っすよ!」


 ジタバタ暴れる柚月に、顔をピッタリとつけて訊いた。

 さぁ、柚月、指詰めと舌抜き、どっちが良いの? 選ばせてあげるよ~。


 「イヤだイヤだイヤだ~~!」


 すると、優子が刺すような静かな声で


 「ここで暴れてると近所迷惑だよ、だから、後でゆっくり、やっちゃおうよ」


 聞いてる私ですら、ぞおっとするようなトーンで言われて、柚月はすっかり消沈してしまった。


 さて、コイツが来ちゃったら、車1台じゃダメだね、どうしようか?


 「柚月は、燈梨ちゃんの部屋で待たせたら?」


 優子、そんなことしたら、柚月の事だから、燈梨の下着盗んだり、部屋のHDDレコーダーの中に、えっちなDVDとか入れておくかもしれないよ。


 「そんな事しないやい!」


 いーや、コイツならやりかねないね。

 柚月は中学2年の時、優子の家のリビングにあるレコーダーにえっちなDVDを入れたおかげで、優子の家のおじさんとおばさんが、ケンカになったことがあるんだから。


 「そんな事、してたんですね~」


 七海ちゃん達が、感心して聞いちゃってるよ。

 すっかり、柚月の本性が露わあらわになって、七海ちゃんの柚月を見る目が変わってきたね。


 え? すぐそこにあるから、もう1台は柚月の車で良くね? だって?


◇◆◇◆◇


 スーパー3軒をはしごして、色々買い込んじゃったよ。

 土曜日が楽しみだね。

 え? 柚月どうしたの? なんで燈梨が、こんなに食材を買い込んでるのかって? 柚月には教えられないな~、なにせ、神聖な行事だからさ、柚月みたいに汚れ切った人間は、知らなくていい事だよ。


 あ、燈梨、言っちゃったよ。

 燈梨ぃ、良かったのに、コイツになんて話さなくて。コイツに知られると、何されるか分からないからね。

 朝起きたら、車のタイヤがパンクさせられてたり、玄関の外が、汚物まみれになってたりするかもだよ。


 「そんなこと、しないやい!」


 まぁ、なんにしても良かったね、柚月。本来なら、知らない世界の事が知れたんだからさ。


 「私も行く~!」


 来なくていいよ。

 柚月が来ると、3人分厄介だからさ、その日はホラ、解体屋さんでGTS-4をバラさないとさ、脂ぎった人に、フンスーって言われながら、根こそぎ持ってかれちゃうよ。


 「行くんだ~!」


 だから、来なくていいよ!

 柚月、その日って、マゾヒスト部の県大会じゃなかったっけ?

 今回が、最後の大会なんだから、3年間の集大成を、こんな行事のために棒に振る必要なんて無いよ。


 「そんな大会、無いもん~!」


 ふーん、でも、マゾヒスト部員であることは認めるんだね、柚月。


 「認めない~!」


 まぁ、そういう事だから、柚月も土曜日は、プラモデル作るなり、ミニ四駆で遊ぶなり、充実した1日を過ごしてね~。

 私らは、秋の爽やかな空気を満喫してくるからさ。


 「私も行くんだもん~!」


 だから、来るなって言ってるでしょ!

 それに、少数精鋭で、車も2台で行くんだから、もう柚月が乗るスペースなんて無いよ。


 「5人しかいないんだから~、2台あれば余裕だろ~!」


 そんな事ないよ、1人で2人分のスペースとして見てるんだよ。私ら、上級国民だからさ。

 それに、柚月は、出先で騒ぎを起こすからダメだよ。

 地元の不良と揉めたり、宿の部屋の中からロケット花火を発射したり、借りたトイレ詰まらせたり、優子のバイクのメットインスペースに、ヘビ入れたりしただろーが!

 

 「ええっ!」


 燈梨と七海ちゃんが、驚きの声を上げたので言った。

 そうなんだよ、コイツは前科にしたら軽く10を超えるとんでもない所業の持ち主でね、他にも電車止めちゃったりとか、ダムカレーでパイ投げして、出禁になったりとか、とんでもない奴なんだから。


 「そうなんだ……」


 燈梨が口を押さえて言った。

 そうなんだよ、だから、連れて行ったらとんでもないことになるから、ここで英断なんだって。


 「もうしません~!」


 信用できませ~ん!

 柚月、その台詞、何回言ったんだよ! その言葉を信用したら、ダムの食堂でバイカーと揉めて、カレーでパイ投げして、ダムの職員の人からメチャクチャ怒られたじゃないか!


 「参りました~!」


 ダメ~!

 いいか、今回は秋の爽やかな空気と、景色を燈梨に楽しんでもらうのが、目的なの。柚月の出入り禁止場所を増やすためのツアーじゃないんだよ!

 ホラ見ろ! 優子だって言ってるだろ、柚月なんか一緒に連れてっちゃダメって。


 「お願いします~!」


 ダメったら、ダメなの!

 柚月の過去の行いからこうなってるんだから、柚月は街に残って反省文でも書いてなさい。

 無理矢理ついてきたりしないように、おじさんとおばさんに電話しとくからね。


 「ううう~~~~~~!!」


 泣いたって無駄だからね。

 やーい、泣き虫柚月~。そこで一生泣いてろ!

 燈梨たちは、焦ってるけど、私と優子は慣れてるから、柚月を放っておいて、車の方へと向かって歩いた。

 すると


 「可哀想だから、連れて行ってあげようよ」


 と、あやかんと燈梨が同時に言ってきた。

 良い? コイツを甘やかすと、あとで本当に後悔することになるよ。

 私と優子が同時に反論した。


 ……あぁ、頭が痛くなってきちゃった。


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『他に柚月は旅先でどんなことをやらかしちゃったの?』など、少しでも思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。


 次回は

 遂にメンバーも決まって、秋のドライブに出発します。


 お楽しみに。

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