第185話 うまい棒とステアリング
さて、今日の夕飯は、家でみんなで、すき焼きだったよ。
燈梨が引っ越してきたんだし、部にも入ってくれたからね。盛大にお祝いしないとね。
そう言えば、燈梨、オリオリさん達は?
あぁ、朝起きて、今日の手伝いの人数を聞いたら、自分たちの必要はないって言って、帰っちゃったって?
そうなんだね、昨日の人数で用意しちゃったから、みんな、しっかり食べてっちゃってね。 七海ちゃん、遠慮しなくていいからね、お肉余っても仕方ないんだからさ。
柚月は、食べなくていいよ。柚月が食べたって、味なんか分からないでしょ。
この間、柚月、うまい棒のめんたい味があれば何もいらないって、言ってたじゃん。3本買っといたから、それ持ってあっち行ってていいよ。
「イヤだい~!」
柚月め、昨日からわがまま放題でムカつくな~! 柚月なんて、離れで爺ちゃんたちと一緒に、うまい棒でも食ってればいいんだよ!
「なんで、マイのお爺ちゃんたちと、うまい棒パーティしなきゃならないんだよぉ~!」
柚月に肉なんか勿体ないんだよぉ~、このぉ~、柚月め、さっさと離れに消えてしまえ!
どうしたの燈梨、え? なんかいつも楽しそうだね、だって?
そんな事ないよ! 大いなる誤解だよ。私は柚月のひん曲がった根性を矯正してるだけで、そこに楽しみなんて無いんだよ。
なに? 向こうの県にいる、唯花さんって人達のグループを見てるみたいだって?
そうなの? って事は、私も、あの人みたいに、伝説のバイトとして、ポスターのモデルとかになるのかな?
「マイなんか、なる訳ないやい~、そもそも、バイトだって落ちるもんね~!」
この野郎、柚月! さっきから減らず口ばっかり叩きやがって、それより、なんでここにいるんだよ! お前はあっちで、うまい棒だろーが!
なんでか、燈梨がとても微笑ましい表情でこっちを見てるよ。不思議だね……えいっ! えいっ! 参ったか? 柚月め!
◇◆◇◆◇
昨日までは楽しかったね。
燈梨の引っ越しと、その後の宴会が楽しかったよ……その間に、柚月の車の作業なんていう不毛な時間が挟まったおかげで、私は不快指数が上がった上、イアンに履歴書を買いに行けなかったしね。
まぁ、いいや。
それで今日の部活なんだけど、私たちは、解体屋さんに行ってくるから、そして、七海ちゃんも来て。今後、慣れていって貰わないといけないからさ。
どしたの七海ちゃん? え? 燈梨も連れて行って良いかって? 別に、耐久レース後は、2年生メインだから、判断は任せるよ。
部のシルビアに4人乗って、解体屋さんへと向かう途中で、燈梨に言われたのは
「あ、このハンドルって……」
そうか、燈梨も同じS14の中期型だもんね、これは、後期型用なんだ。
この車も最初、ハンドルの革がガサガサになってたから、解体屋さんで探したんだぁ。
へぇ~、燈梨のシルビアも、同じ事してるんだぁ、あぁ、燈梨のところに来た段階で、やってあったって事なんだ。
さぁ、2人共、ここが解体屋さんだよ。
色々な部品も安く融通してくれるし、ほとんどの部車が、ここの出身なんだ。ちなみに今乗ってきたシルビアも、ここから回して貰った車なんだ。
で、事務所がここだよ。大体おじさんは、ここにいるか、そっちで作業してるかだから。
“カラカラカラカラカラ”
こんにちは~。
2人共、ここでは元気よくハキハキと、だよ。
おじさんはダレてるのが嫌いみたいだからさ、コレは約束だよ。分かった?
あ、これが今月分の領収書ですね。確かに頂きました。
それで、今後は、部の主力を2年生に譲って、私ら3年は隠居に入りますので、2年生の紹介と、大体の流れの説明に同行させてるんですよ。
おじさんと、2人が挨拶と自己紹介をしている間、様子を見てたけど、おじさんは、2人の事を気に入ったみたいだから安心だね。
ここのおじさんを押さえちゃえば、部活のサポート体制は保障されたも同じなんだよね。
あれ!? 柚月、どうしたの?
なんかいつもと違って、存在感が消えてたけど。
なに? 主役はあの2人だから、自分は脇に徹するんだって? アンタにそんなことできる訳ないじゃん!
柚月は学芸会で、白雪姫やった時に、木の役だったくせに、前に出よう出ようとして、みんなからクレームが出て、本番では、片足を柱に結び付けられてたじゃないか。
「私の話は、いいんだよ~!」
いーや、良くないね。
柚月は中学2年の夏休みに……
「そ、それよりも、おじさんに、ステアリングの話、してくれた~?」
まだしてないよ。最初に2人の紹介と挨拶からするのが、当然でしょ、当然!
2人の挨拶が終わったところで、いこうよ。
あ、私が呼ばれた。
「なんだって~?」
なんか、水野に例の車は、もう少し待ってくれって、伝えてくれってさ。
なんの車が来るんだろうね? 水野からは、4WDが1台入るみたいに言われてたけど……。
「水野は、秘密主義だからね~」
うーん、秘密主義というのもちょっと違うんだよね。
水野は私らに対してもそうだけど、口数が少なすぎるんだよ。だから、必要な事も寸前まで伝わらないし、こうやっておじさんとかから言われても、対応に困るんだよ。
よし、話が終わったみたいだから、柚月から話して。
その間に、2人共、あのね、柚月は中学1年のスキーの授業の時に……
「やめろ~!」
◇◆◇◆◇
「そうか~、ステアリングな! おじさんが若い頃は、モモ派だったぞ。中古で買ったモモステを、その後も3台使い継いだからな! だったら、ユズちゃんも、ここにある、色んな車の握って、どういうのが合うかを、見極めるのが良いよ!」
おじさんは、ガハハっと笑いながら、いくつかの車を教えてくれた。社外品のステアリングが付いている車だそうだ。
「マイ先輩、モモ派って、なんですか?」
七海ちゃん、良い質問だね。
社外品のハンドルってのは、大体MOMOとナルディの2大勢力に大分されるんだよ。どちらも、イタリアにあるメーカーなんだけど、大昔から、モータースポーツのフィードバックを得ながら、ハンドルづくりをしてきたファクトリーだからさ、哲学みたいなものがあって、今に至るんだよね。
社外品としての知名度もさることながら、スポーティな車のオプション品や、グレードによっては、標準装着されてたりもするんだよ。例えば、ランエボのGSRなんて、歴代モモだし、ロードスターの一部のバージョンには、ナルディが標準になっていた時期もあったからね。
「なるほど」
そして、その握り味っていうのかな? フィーリングには、各社違いがあってさ、更には、同じメーカーでも、ブランドによっての違いもあるから、ハンドルの世界は奥深いんだよ。
「マイ先輩のは、社外品ですよね。どっちなんですか?」
七海ちゃん、見てるねぇ、私の車の中まで、もしかしてストーカー? いやぁ、悪いんだけど、私には燈梨っていう心に決めた人が……なんちゃって、百合の気は無いからね。
脱線しちゃったけど、私のはモモだよ。兄貴がつけたものだから、なんていうブランドかは知らないけど、結構ガッチリした握りで私は好みだし、あと、一部がボディと同じ赤い革になってるのも、お気に入りのポイントかな?
なんか、握った断面の感じなんかは、部車のシルビアのハンドルも、似たような感じだったから、日産車の純正は、モモっぽい感じがあるのかなぁ……なんて、個人的には思ってるんだよね。
よし、先頭の柚月が、遂に最初の車の前に到着したね。
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『ハンドルって、そんなに違うものなの?』など、少しでも思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
次回は
柚月について、舞華のステアリング講釈が始まり、みんながステアリングについて勉強します。
お楽しみに。
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