第186話 素直と抑揚

 このスープラについてるのは、ナルディだね。

 これが定番のナルディクラシックって言うんだよ。もう、50年以上もある定番の形で、ナルディといえば、コレって言うほどのイメージになってるんだ。


 これってボディは綺麗だけど、なんで廃車になったんだろう? あぁ、近所のお爺ちゃんが、東京に行った息子が置いて行ったきり、20年経っても、引き取りに来なくて、ようやく今年になって、いらないって言われたから、廃車したんだ。

 エンジンはかからないんだね。まぁ、当然か。


 握った感じはどう? 柚月


 「うん~、なんというか、癖が無いかな~? 握った感じが一定だから、安心できるし、変なうねりとか、出っ張りとかないから~、使い易いね~」


 そう、コレがナルディの特徴なんだよね。

 握り断面が一定だし、変に変形させてないから握りやすくて、純正品に近いし、回しやすいんだ。でも、純正品とは違って、しっかりしていながら、軽いから回しやすいし、変な癖が無いから、誰が使っても正確に操作できるのが強みだよね。


 「だけど~」


 だけど?


 「R32の純正と比べると、すんなりしすぎてて面白くない~」


 あぁ、そういうタイプか、でもって、柚月ならそう言うかもね。

 じゃぁ、柚月、こっち来て。

 私は、2台の車がある場所へと、柚月たちを連れて行った。


 「なに~? ここ~?」


 私たちの目の前には2台のライトバンがあった。

 先代型の日産ADバン、VY11型というらしいが、最近はもう見かける機会も少なくなった車だ。

 1台が白で、ドアに何か字が書いてあったのを、消した跡がある。そして、もう1台が、この間、結衣が借りていたサニーと同じ色だ。

 よく見ると、この2台、色以外にも違いがあって、白い方は、ライト脇のウインカーランプのレンズが、オレンジ色になっていたり、バックドアの形がちょっと違ってたりするので、恐らく、どちらかが前期で、どちらかが後期とかの違いだろう。


 中に乗ると、当たり前というか、純正の日産マーク付きのハンドルがついていた。


 「これを握るの~?」


 つべこべ言わずに握るの!

 それにしても、おじさんはどういう狙いで、こんなライトバンのハンドルを握らせたんだろ?

 柚月が白い方に乗ってる間に、私は青グレーの方に乗って、ハンドルを握って回してみた。

 そして、今度は交代して、白い方のハンドルを同じように握ってみた。そして、おじさんの狙いが何となく分かった。


 さぁ、柚月、どっちのハンドルが好みだった?


 「青い方のステアリングの握りの方が、好きだね~。起伏があって分かりやすいし~、何より、グリップが太くて、安心できるよ~」


 柚月は、ニコニコしながら言った。


 「え? マイ先輩、何が分かったんですか?」

 「ホント、一体何が違うの?」


 そうか、2人は触ってないか、だったら、それぞれに乗って握ってみて。

 2人をそれぞれに乗せて、交互に乗り比べて貰うと、2人は喜んで出てきて


 「まったく違ってました~!」

 「それぞれに、握りが全く違ってるんだね」


 と、それぞれに口にしていた。

 そうなんだよ。

 私も、おじさんに正確には聞いていないんだけど、この先代型ADバンは、どこかの変更時に、ハンドルが全く違うものに変更になったんだよ。

 白い方についてたハンドルは、結構太めのグリップなんだけど、癖が無い断面と形状だったのに対して、青グレーの方は、全体的なグリップは、白の方とほぼ同じだけど、10時10分の辺りが、グッと膨らんでいたりして、結構抑揚のあるハンドルなんだよ。


 「これで、何が分かるんですか?」


 うん、これで一般的な、モモ派とナルディ派が分かるんだよ。

 一般的って、言ってるのは、モモのモデナIIとか、ナルディのガラみたいに、敢えての特徴に寄せたモデルもあるから、一般的なそれらのブランドって意味で言ってるんだよ。


 となると、柚月は、モモ派だって事になるね。

 白い方は、グリップが太めなことを除くと、ナルディの特徴によく似てるんだよ。断面や形状に癖が無くて、どこからでも握りやすいっていうのを特徴にしてるんだ。

 対して青グレーの方は、逆に、握りに特徴をつけて、不意にハンドルが回っちゃったりした時にも、正確な位置を分かるようにしてあるんだ。


 なるほどね、柚月は、こっちが好きか。

 じゃぁ、おじさんに伝えて……と、いきなりおじさんが、柚月に何本かハンドルを出してきて、とにかく握ってみろって言って、握らせてるよ。

 柚月は、うんうん言って、真剣に悩んでるね。分かるよ分かるよ、やっぱり、これって大事なファクターだからね。


 「マイ先輩、握りが変わるのって、そんなに大事な事ですか?」


 そうか、七海ちゃんは、部車の一部を、練習場でしか運転したことがないから、分からないんだね。

 ちなみに燈梨は分かる?


 「うん、今までも、色々な人の車に、乗せて貰ってきたからね。でも、どれが合うかは、私もまだ全然分かってないかも?」


 だったら、柚月が終わったら、燈梨もやってくれば良いよ。

 うんうん、燈梨が真剣な面持ちで、ハンドルをあれこれ握ってる姿は、微笑ましいねぇ。

 あ、柚月だ。どうだった? へぇー、なるほどね。柚月の好みはやっぱりレースか、コルセだったんだね。


 この辺だったら、通販で2万弱くらいで新品買えるね。R32の純正や、ショップで作った純正のリバイバル版みたいなのは、おびただしく高いからさ、やっぱりこの辺で手を打っておいた方が良いよ。


◇◆◇◆◇


 それからしばらくして柚月が買ったのは、レースに形の似ているジェットだった。でもね、分かるんだよね。

 柚月は、結構見た目も重視するからさ。レースより、ちょっと見た目の派手さがあるジェットってのも、R32のインテリアと調和させるって意味的にもアリだと思うんだよね。


 そして、驚いたのは、燈梨もハンドル買ったんだね。

 燈梨はチューナーか、やっぱり、燈梨もモモ派だったんだね。

 なるほどね、今まで乗ってきた車についてたのが、モモだったから、馴染みがあるんだね。


 2人共、ボスは用意してあるね。

 じゃぁ、まずは柚月からはじめよう。

 ハンドルの外し方は、もうできるよね。よし、外れたね。

 外れたら、ボスの裏についてる舵角センサーの位置と、車側のセンサーの位置が合ってる事を確かめてから、取り付けるんだけど、ボスにもトップ位置ってのがあるから、そこにも注意しつつ、取り付けるんだよ。


 ボスを取り付けてしまえば、あとは皿ビスで、ボスとハンドルを6か所で留めるんだ。このネジの取付穴の位置も、モモとナルディで違っていて、他の社外品も、どちらかに合わせて作ってるんだ。

 そして、ボスから出ている、ホーンの配線と、ホーンボタンを繋いで、ボタンを取り付ければ完成だね。

 取り付けた後は、ホーンがきちんと鳴って止まるか、ウインカーを出して、ハンドルを切ると、きちんと消えるかをチェックしておくんだよ。

 特に、ウインカーのリターンピンがズレていると、ウインカーが自動で消えないから、かなりめんどくさいことになるよ。


 まぁ、柚月の用意したボスは、最初からリターンピンの突起がついてるタイプだったからいいけど、自分で打ち込むタイプのボスだと、結構起こりがちなトラブルなんだよね。打ち忘れとか、場所間違いとかね。


 ホーンボタンは、取り付ける前に、ガチガチと連打してみて、馴染みを出しておいた方が良いよ。

 ホーンの面倒なのは、鳴らないと車検に通らないし、いざという時に危ないけど、鳴りっぱなしになっちゃうのが一番厄介だからさ。

 大抵が、接触でそうなっちゃうんだけどさ、前に兄貴が買い物に行った先で、車から降りてドアを閉めた瞬間、鳴りっぱなしになって、大変だったんだよ。

 え? その時は、どうなったのかって? ハンドル側で調整しても、またドアを閉めたら鳴り始めるからさ、最後はボンネット開けて車側の配線を外して対応してたよ。


 「結局~、原因はなんだったの~?」


 確か、ボタンのバネの機能が、機能しなくなってて、縮みっぱなしになってたところに、ドアを閉めた振動が加わったんだと思うって、言ってた気がする。


 よし、問題はなさそうだね。


 ──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『ハンドル交換って、どのくらい難しいものなの?』など、少しでも思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。


 次回は 

 ようやく柚月のステアリング交換も終わり、みんなが安堵する中、次のステアリング交換が始まります。


 お楽しみに。

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