第181話 引っ越しと謎のお願い
土曜日。
私と柚月、優子は、燈梨の引っ越しを手伝いに行ったんだ。
家の中に関しては、早速、燈梨と七海ちゃんが仲良くなった、ってのもあって、同じクラスの娘たちが2~3人来てたのもあるし、綾香が来てたのもあるし、オリオリさんと、もう1人雰囲気の怖そうな女の人が来てた事もあって、人手はいらなかったんだ。
私のイメージする引っ越しってのは、こう、トラックから家具や荷物を、わさわさと運び出す班、ひたすらその荷物を部屋ごとに仕分けて運ぶ班、部屋で荷解きをしてひたすらに詰め込む班、って感じに、殺伐としたものだと思ってたんだ。
だけど、このアパートって、家電ついてるし、燈梨も、コンさんっていう、おじさんと暮らし始めてからの衣類と、本が何冊かしか荷物が無いから、お父さんのエルグランド借りてきたんだけど、引っ越し本番では役に立たなかったね。
でもって、やっぱり小さめのタンスとか、テーブルとかが無くて、買い出しに行くことになったし、家電付きって言っても、前の人のそのまま……とかなので、買い直すものとかがあって、やっぱりお父さんの車、借りてきて良かったとしみじみ思っちゃったよ。
ここで、燈梨の役に立てば、燈梨の心は私の物だよ!
炊飯ジャーは、さすがに、そのまま使うのは気持ち悪いし、掃除機もない、その上、洗濯機のコードの被覆が剥けてて危ないから、管理会社に文句を言ったら、買って来て精算してくれって事で、色々大物を買うことになったから、エルグランドが活躍したんだ。
洗濯機は、配送するって言ったんだけど、自分で持って行くって言ってまけて貰った分で、1つ上のグレードのにしちゃったよ。
まさか、お店の人もJKが自分で持って帰れる、なんて思ってなかったみたいだけど、なにせこっちには、柚月と七海ちゃんがいるからね、このくらいはお手のもんだよ。
ついでに古い洗濯機も、その日のうちに運んで引き取って貰っちゃったよ。
改めて、戻ってみると、このアパート自体は築10年未満の結構新しい建物だから、結構住みやすそうだね。
確か、このアパートって、私らが小学校3年生の秋に出来たんだよね。確か、梅雨くらいまでは……。
「お墓だったんだよ~、だから、夜にトイレに行ったりすると、出るらしいよ~!」
“ゴチン”
柚月のやつ、しょーもないウソついて、燈梨を怖がらせようだなんて、万死に値するぞ! まったく。
え? なに燈梨? じゃぁ、ここは一体何だったんだって? ホラ見ろ柚月、燈梨に変なこと言うから、気になっちゃったじゃないか!
ここは、昔、文房具屋さんがあったんだよ。そこが小学校だからね、文房具と、駄菓子と上履きとか売ってたんだけど、やってたお婆ちゃんがもう歳だからって言って、やめちゃったんだよ。
この野郎、柚月! お前のような迷惑者は、トイレに流してやる。浄化槽の中で心まで洗われて来い!
なに? 浄化槽に入ったら、出てこられないだって? いいんだよ、柚月なんか出てこないで、事故物件になってしまえ……と、ここを事故物件にすると燈梨が迷惑だな。
改めて、中も綺麗で、建物も新しいし、言う事ないよね。
なんか、前は牧場の先の方の、観光ホテルの従業員寮として使ってたんだけど、最近、お客が減って、かなり事業を縮小してるみたいだから、寮を手放したみたいだよ。
タンスも、蛍光灯の交換もOKだし、布団も買ってきてから一応干しておいたから、今夜は大丈夫かな?
電気機器も、ガス器具も、全部動くかどうかチェックして……と、OKだね。
トースターもトレイと、受け皿を外して漂白剤につけて、綺麗にして、電子レンジも、蒸気で綺麗にする洗浄剤を使った後に、拭いて、更にアルコールを使って綺麗にした上で、扉を開け放って換気する。
折角の家電付きだから、活用するんだけど、こういう食べ物が載るところは徹底的に除菌と洗浄するんだよ。
前の人が独身の男の人で、ただ寝に帰ってるだけ……しかも綺麗好きでなくて、アクアあたりに乗ってるような人だと、カビとか生えてたりするからね。
「マイは、なんでそんなにチェックが厳しいの?」
優子、それはね、兄貴が東京に行って、引っ越しを手伝いに行った時に、芙美香がしつこいくらいにやってたんだよね。
うっかりこれを忘れると、初日の夜に、真っ暗な部屋でご飯を食べなきゃならなくなったり、水シャワーを浴びるハメになったり、電子レンジ使ったら食べ物に異臭が移っちゃったり、キーが見つからなくて、仕方なくお隣さんのレクサスを借りてファミレスにご飯を食べに行ったら、いい若者がレクサスなんか乗っちゃって、きっと悪徳商法の元締めに違いないよって、後ろ指をさされたりするらしいよ。
「なんで、マイの一家は、言う事が極端なんだろうね?」
そうなの?
「でも、私も引っ越しって、初めてだから、色々チェックして貰えると、有難いかな……」
でしょ、燈梨。
そうなんだよ、引っ越し初心者の身になって考えられる、私は役に立ってるんだよ! 別に極端なんかじゃないぞ。
鍋とかフライパンとかも揃えたし、来週から自炊できるね。
優子の家って凄いね、引っ越しのお祝いに調味料セットなんて、ウチなんてさ、芙美香がケチだから、ウチのお米しかくれなくてさ、私がイアンに行って、このちょっとお洒落な食器の水切りラックを買ってきたのさ。
「えっ!? 来週って? 今日から自炊するつもりだけど……」
と、燈梨が言い出したので
そんなつれないこと言わないでよ。
折角、部員になってくれた燈梨の引っ越し祝いもしないなんてさ、今日と明日の夕飯は、是非、ご馳走させてよ。
「でも、お祝いなら、さっきみんなに貰ったし……」
と、必死に遠慮する燈梨を柚月がグイッと捕まえて
「だから~、それだけじゃなくて~、晩御飯をご馳走したいって、言ってるんだって~、ちなみに今晩はウチだからね~」
と言った。
ときに柚月、まさかとは思うけど、その歓迎会って、道場の模様替えがセットで含まれたりしてないよね?
「そ・そんな事、ないよ~」
ホントだろうね。万が一にも、そんなことだったりしたら、全裸で簀巻きにして柚月の家の池に沈めるからね。
「無いってば~!」
よし、信用してやろう。
ちなみに、明日は私の家だよ。
え? 柚月に、なんでそんなに厳しいのかって? コイツは、つい最近、前科があるからだよ、ねぇ、優子?
「そうだね。テストお疲れ様会だって、みんなを呼び出して、食べるだけ食べさせてから、食べた分働けって、みんなを奴隷のようにこき使ったよね」
ねぇ、優子って、もしかして、あの時の事、結構マジで怒ってる? なんかさ、物凄くあの話をしてる時の優子の目、据わってるんだよね。
◇◆◇◆◇
柚月の家の広間で行われた歓迎会は、大いに盛り上がったんだよ。
元々、柚月のおじさんもおばさんも、賑やかなのが好きで、弟子を住み込みで取っていたくらいなので、凄く喜んでいたよ。
みんなでお寿司を食べて、鍋をつついて解散になったんだけど、オリオリさんと、もう1人のマインって人が、結構飲める口で、柚月のおじさんと、談笑しながら飲みまくっていたよ。
燈梨、どうしたの?
なに? オリオリさん達が、帰れなくなっちゃった?
元々、前に会った隣の県の別荘に、燈梨の引っ越しの手伝いと、シルビアを運びに2人で泊まりに来たって事なんだね。
今日は、燈梨の引っ越しが終わって、シルビアを渡したら、夕食後にオリオリさんのパオで、2人は別荘に戻るつもりだったのに、飲んじゃったから、帰れないって? 燈梨の部屋に雑魚寝するしかないか……だって?
だったら、あの2人は、柚月の家で泊めて貰えば良くね?
柚月の家って、30人くらいだったら、泊まりに来ても余裕で泊まれる場所も布団もあるよ。
それに、おじさんもおばさんも、そう遠くない将来、道場閉めるからって、弟子も取らなくなっちゃったし、柚月のお兄さんも東京に行っちゃったし、寂しいんだよ。だから、泊まってっちゃえばいいんだよ。ねぇ、柚月。
「そうだよ、そうだよ~。ウチの親は、むしろ嬉しいくらいだからさ~。遠慮しないでさ~」
柚月の軽い感じの言葉を聞いて、表情を明るくした燈梨と私に向かって、突然柚月が言った。
「その代わり……って、訳じゃないんだけどさ~、ちょっとお願いが~」
──────────────────────────────────────
■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『柚月のお願いってなんだよっ!』など、少しでも思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
次回は
唐突に言われた柚月のお願いに戸惑う舞華。
そのお願いとは?
お楽しみに。
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