第175話 若旦那とブレーキローター
「ゆぅっくり走ろぉぉ~、おぉう~ろぉれるぅぅ~」
だって、さっきイアンで行ったお洒落な和食レストランで、モニターに流れてた懐かしのCMなんだよね。マジで印象に残っちゃった。
ローレルって、2ドアがあったんだね。
え? なに優子? ローレルは初代の途中から、3代目一杯まで2ドアハードトップがあって、さっきのCM画像は、暴走族と走り屋に中古車で人気があった2代目のやつだって?
後の通称で“ブタケツ”っていって、優子のお爺ちゃんが若い頃に、新車で乗ってたって?
当時、この辺はもとより、県内でも、2ドアのSGXに乗ってたのは、優子のお爺ちゃんが一番乗りで、むこう3年はライバル不在だったって?
さっすが、優子のお爺ちゃんは、この辺の老舗の若旦那だよねぇ。
このCMに出てるイケメンは? え? 松たか子の父親の松本幸四郎だって?
なんで、優子、不愉快そうに言うの?
え? この10年後に、よりにもよって、ライバルのトヨタマークIIのCMに寝返ったからだって?
え? 優子の家庭では、松本幸四郎がテレビに出てると、強制的に違うチャンネルに変えられるって? それは息子の代になっても当然の如くだって?
「ローレルのCMキャラは、トヨタの車に寝返る率が高いの。7代目の本木雅弘もだし、8代目の佐藤浩市もだから」
ええ……と、本木雅弘は、7代目のモデルサイクルの途中で、コロナExivに寝返って、その後もアルファードのCMかぁ、しかも、その期間、当時日産系の携帯会社だったツーカーのCMにも出続けて、CMで日産ディーゼルのトラックに乗ってた厚顔無恥だって?
そんなことがあっての、8代目に出た佐藤浩市も、まさかのマークXのCMに出て、尚且つ、トヨタの創業者の役でドラマに出たから、お爺ちゃんがマジで怒って、ウチの街で、呼ぼうとした時に、町議会で強硬に反対して止めさせたんだ。
『国賊なんか、この街に呼ぶんじゃない!』って、言ったらしいよ。議事録に残ってるんだって。
そう言えば、優子の家って、伊右衛門茶、置いてないもんね。
「マイ~、この話、掘り下げるとマジでヤバいよ~」
柚月が小声で言った。
うん、分かるよ。分かるけど、どうやって話を逸らそうか。
あ、そうだそうだ。一緒に流れてたケンメリのCMも印象深かったね。
モデルの後半のバージョンのCMは、サビの『愛と風のように』の部分の歌詞が『愛のスカイライン』に替え歌されてるんだね。
「マイ、話を逸らそうとしてない? とにかくローレルの歴史は、裏切りとの闘いで……」
さぁ、優子もコーラでも飲んで、作業を再開しようよ。
すっかり、ミッションが載った結衣の4ドアは、ブレーキのオーバーホールとパッド交換、そしてローター交換だね。
まぁ、オーバーホールは、すっかり慣れたもんだよね、私ら、しかも、GTS25は片押しだしね、余裕っしょ。
でもって、こんなセリフを言ってるところが、既に私らがJKとして、どうかって事だよね。
普通のJKは、車のブレーキオーバーホールが余裕なんて言わないでしょ。
ダメだダメだ、暗くなっては。
早速、キャリパーは、結衣と優子に任せて、私らはローター交換に入ろう。
今まで、キャリパーの作業って、数多くやって来たけど、ローターの作業って改めて考えてみると、初めてなんだよね。
今回は、おじさんが、2ドアについてるローターを研磨してくれたから、ぶっちゃけ、外してつけるだけ、なんだよね。
ところで、キャリパーも外して改めて思うんだけどさ、このローターって、どうやってついてるの?
え? ただはめてあるだけだって? マジ?
でも、その割には、外れてこないよ?
長年ついている上に、毎回パッドを押し付けられたりしてたから、外れ辛くなっちゃってるんだろうって?
引っ張ってるのにビクともしないよ。どうしよう?
え? ローターの表面に、対角線上に穴が開いてる箇所があるから、そこに、ピッチの合う適当なネジを入れて、均等に締め込んでいくと外れてくるって?
よしっ、やっていってみよう!
少しずつ締め込んでいったら、突然
“パンッ”
って、いって飛び出してきたよぉ、ようやく外れたよ。
古いのって、表面が結構波打ってるんだね、これが、長年の走行でブレーキパッドについた癖の跡なんだって?
なるほどね、この状態のところに、新品の真っ直ぐなブレーキパッドを入れても、凹んだところに全く当たらないから、パッドを押し付けても、面積が少なくなって、性能が発揮できないって訳だね。
ふぅん、なるほど、原理は分かったぞ。
それで、今度は、外した後の、ローターがあった辺りをブレーキクリーナーで、よく洗浄して、元々ローターの被さっていた、ハブやナックルの周辺の錆を、紙やすりで磨いてから、研磨したスベスベのローターを、取り付けるんだね。
……なんか、すんなりついちゃったね。
あんなに外れにくかったから、てっきり、もっと大変なのかと思ったんだけど、そんな事なくって、拍子抜けしちゃったよ。
ホントに大丈夫なの? しばらく走ったら外れてくるんじゃね? 逆だって? しばらく走らせたら、馴染みが出たり、ハブやナックルに錆が出たりして、さっきみたいに、あっさり外れ無くなってくるって?
よし、ローターはあっさり終わったね。
今回はキャリパーのオーバーホールがあって、キャリパーが無かったけど、通常はキャリパーがあるから、外したキャリパーを逃がす作業とかも入ってくるんだって?
「キャリパーの逃がし自体は、そんなに難しくないけどね~」
そうなのか、でも、キャリパーは重たいから、面倒ではあるって?
これで、4輪分付けたよ。
これで、この4ドアのブレーキへの懸念は無くなったね。
「ホントは~、ホースもやっておくとベストだったね~」
それと、さっきおじさんが、ローターの研磨をしたら、限界値だったって言ってたけど、なんだろう?
「今度は~、ローター交換しないとダメって事だよ~」
そうなの?
ローターには、研磨できる限界値ってのがあって、それを超えると、ローター交換しないとローターが割れたりして危険なんだって?
「研磨って、削ってるって事だからね~、ネイルだって、研磨しすぎると、折れたり、割れやすくなるでしょ~」
そうだね。原理は理解できたよ。
前に爪の溝が気になって、爪やすりで磨いたら、大根掴んだ瞬間に、割れちゃったことがあったからね、それと同じことだね。
「だから~、次のパッド交換の時に、ローターも新品に交換だね~」
でもって高いんじゃね?
え? 今回は、色々やる事があるから、予算的に圧迫されてたけど、純正相当の社外品だったら、前側だけで7~8千円くらいからあるから、計画的に事前に買っておけば、何の問題もないんだよ。
なるほどね、これだったら、私のバイトの稼ぎでも、2ヶ月くらいあれば揃えられるね。
よし、私らのパートは終了だね。
あと、今ふと気付いたんだけど、メーター周りはどうするんだろ?
この4ドアはAT車だから、クラスターパネルの左下のところに、ATのシフトインジケーターがあるんだよね、さっき見たら、ギアを入れてない時は『N』レンジにランプが点いて、バックの時は『R』レンジにランプが点いてたけど、面白いから付けとくのかな?
MT用だと、そこ自体が埋まってるからね、よく考えてみると、オートスポイラーを移植した時に、スイッチ付けたから、そこも一緒に替えとけばよかったね。
結衣~、どうするの?
向こうで、キャリパーオーバーホールをしてる結衣に訊くと
「取り敢えず、2ドアからパネルは持って来て、しばらく様子を見た上で考えたいかな?」
だって、あのランプが点くのが目新しくて面白いのと、インジケーターの取り付けの空間を使って、ETCの車載器を入れてみたり……とかも、考えてるから、一応、現状維持なんだってさ。
よし、結衣のキャリパーオーバーホールも終わったし、コレが付いたら、遂に終了だね。
この作業も慣れてるから、あっという間に4人で分担してキャリパーは取りついて、そこに新品のパッドを入れるんだ。
新品って初めてで、ちょっと緊張しちゃったけど、キャリパーのオーバーホール直後なので、ピストンを押し戻す作業もなく、あっさりと終了して、最後は、ブレーキフルードを補充して循環させ、エア抜きが完了して、遂に、結衣の車の入れ替え作業は終了したよ。
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になる』『ブレーキの整備なんかして、ホントに大丈夫なの?』と、少しでも思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
次回は
遂に、移植作業が終了し、みんなでテスト走行へと繰り出します。
そして、週明けの学校では、怒涛の出来事が……。
お楽しみに。
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