第174話 無駄な動きとプロペラシャフト

 週末がやって来た。

 遂に結衣の車のミッション換装の作業が再開できるね。


 最初に、ようやくのお出ましとなったクラッチの交換といこうかぁ~。

 よし、リフトで揚げて揚げて……と。


 「ちょっと思い切って、前期GT-Rクラッチにしちゃった」


 あぁ、みんなやるよね、前期型GT-Rクラッチね。

 お手軽で、純正の品質を持つ強化クラッチだもんね。

 よし、まずは結衣、センター出しだよ。私らの作ったセンター出し工具があるでしょ、それを使ってね。


 「センター出し工具って、単に出なくなったマジックの軸に、ガムテを巻き付けて、シャフトを太くしただけじゃん!」


 なに、結衣、文句あるの? だったら、結衣がセンター出し工具買ってくればいいじゃん。

 それを言うと、結衣はうな垂れて、作業を始めようとした。


 そこにおじさんがやって来て


 「おぉ~、クラッチのセンター出しかぁ~。いつも作業を頑張るみんなには、これをプレゼントしちゃうぞ~」


 なんですかコレ? え? ミッションブローしたR32から外したセンターシャフトを切ったものだって?

 うわぁ、ありがとうございます~。え? ほとんど大丈夫だけど、FRの日産車がメインの場合だから、他の場合は、マジックにガムテで凌いでね、だって。

 しかも部にも貰っちゃったよ。


 しかし、こんなものをいくつも持ってるなんて、いつもながら、おじさんは謎だね。一体いつも何してるんだろう? うん、私も夏休みにかけてちょっとバイトしたんだけど、いつも解体車の作業してるか、外した部品の画像撮って、ネットに出品してるか、だったんだよね。


 まぁ、いいや、まずはセンター出しをして、クラッチをつけるんだけど、裏表があるから、間違えないようにね。

 裏表間違えると、しばらくしてからクラッチが切れなくなって、ミッション降ろしたら、中でクラッチがバラバラになって、再利用不可になっちゃうこともあるからね。

 よぉ~く見ると、印がついてるんだよ。そっちをフライホイール側に……と。


 よし、センター出し工具をセットしてから、クラッチを取り付けて……と、それから、クラッチカバーを締め付けていくんだよ。

 脅かすわけじゃないけど、クラッチカバーもトルクレンチでしっかり取り付けようね。……じゃないと、走行中に外れた場合、足が切断されちゃうからね。


 遂にクラッチまでついたから、今度は、本丸のミッションを搭載しちゃえば、これで、大物作業は終わっちゃうね。

 え? タコ足とマフラーがあるって? あれはさ、ここまでの作業に比べれば、ずっと楽じゃん。だって、先週4ドアの純正マフラーとかは、外しといたんだからさ。後はつけるだけじゃん。

 外す時、大変だったんだからさ。純正のエキゾーストマニホールドについてる排気温センサーのネジが全っ然回らなくてさ、柚月と2人でうんうん唸りながら、ようやく外したんだから。


 「ゴメン、そこまでして、外してくれたのに悪いんだけどさ、タコ足の方も外れないから、根元のカプラーで外しちゃった」


 え~、マジかよ結衣。わざわざ、センサー単体で外さなくて良かったって訳? 私ら、骨折り損のくたびれ儲けって訳?

 え? なに優子、車の作業を複数人でやると、往々にして、こういう無駄な事とかが起こるから面白いんだって?

 全然、面白くないよ。それは、優子は傍観者で、当事者じゃないから、そんな達観したことが言えるんだよ。


 まぁ、まずは作業を前に進めていっちゃおう。出来れば、今日中に走り出すところまで行っちゃいたいじゃん。


 この間、プロペラシャフトの前軸を取り外したでしょ、それとマニュアルミッション側の前軸を入れ替えるんだよ。

 これを忘れると、ミッションにプロペラシャフトが刺さらなくて、車が走れないからね。

 そう言えば、なんかおじさんが、センターベアリングとかいうところを交換しといたって言ってたよ。これがダメになると車がガタつくんだって。

 もう、既にミッション外す時に外してあるから、あとは付けるだけなんだよね。


 そして、ミッションだよ。

 ここは、ミッションジャッキが借りられるから、ミッションの付け外しも、楽々だよね。


 せぇ~のぉ~


 よし、シャフトが入って、結衣たちが、エンジン側とドッキングさせてる間に、私と優子は、マウントの準備だよ。

 MTとATでは、ミッションマウントの形も違うから、こうやって載せ替える時は、MT用にしないとね。それにマウントのゴムなんてどうせ交換してないんだろうから、この機会に新品にしちゃうんだよ。


 よし、ミッション側が結合したから、こっちも締めつけるよ。

 これで、取り付けは終わったね。

 あとはオペレーティングシリンダーの取り付けだね。結衣は、外してる間にオペレーティングシリンダーもオーバーホールしたんだって。

 ホントだ、なんかピカピカになってるよ……え? それは、この機会だから色塗ったんだって? あそ。


 これが、クラッチの動きをミッションに伝えるんだね。

 そうか、これがレリーズから繋がっていて、ミッションの中に入って行くんだね。ペダルを踏んだ動きが、こうやって伝わるんだと、分かっただけでも、車に対して凄く愛着が湧いてこない?


 そして、まずはレリーズにフルードを入れてエア抜きをしなくちゃ……だね。

 そうか、オペレーティングシリンダーも外してたから、こっちもエア抜きしなくちゃいけないのか。

 じゃぁ、私がフルード補充係ね。


◇◆◇◆◇


 よし、車の下に入る結衣から、完了の合図が来たね。

 どう? クラッチ踏み係の悠梨?


 「最初はフニャフニャだったけど、今はガッチリしていて、踏みごたえあるぞ~」


 よし、これで、ハード面の載せ替え作業は、排気をやったら完了だね。

 じゃぁ、ちゃちゃっと、タコ足とマフラー交換と行こっかぁ!


 この作業も、1回やってるから、もう慣れた感じだよね。

 まずはエンジンルームから、タコ足を入れていって、サクッとエンジン側の出口に取り付け、その後でリフトを揚げて、床側に回って触媒にタコ足のもう片側を固定して、車が上に揚がっている間に、マフラーの取り付けも一緒にやっちゃおう。

 今度は、触媒の後ろ側からマフラーを取り付けて、同時に出口側を、取り付けブッシュで床に固定……と。

 そして、リフトを下げて、エンジン側の出口とのネジを本締めして、完成だね。


 よし、まずはエンジンをかけて、排気漏れしてないかをチェックしてみよう。

 “キュルルルルルル……ヴオオオオオオ”


 吹かしてみても、漏っていないね。

 排気漏れもないから、問題ないね。これで、排気系に問題なしだね。

 動くようになれば、ミッションとクラッチのテストもできる訳だね。まずは、前後に少しずつ動いてみて、異常が無いか確認しようよ。


 「うん、クラッチのフィーリングには問題ないよ」


 そっかぁ、車もちゃんと動いてるみたいだし、これで、クラッチやミッション系の取り付けに問題なさそうだね。

 どう? え? クラッチやミッションオイルが新しいおかげで、凄くシフトの入りが良いって?

 ただ、クラッチが、ちょっとだけ重いって? それは、GT-Rのだからね、仕方ないよね。慣れれば全然問題なくなるって。


 ちょっと私に変わってもらって良い? 別に全然重くなんて無いよ。私のR32の方が重いくらいだよ。結衣って、どれだけ軟弱なのさ?

 じゃぁ、ちょうど、キリの良いところでお昼にしようか? 午後は、ブレーキと室内の入れ替えとかやって、今日中に終われそうだね。


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になる』『ホントに次で作業終われるの?』と、少しでも思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。


 次回は

 遂に、ミッションの載せ替えと、車両の入れ替え作業のラスト(?)です。

 お楽しみに。

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