第173話 大激闘の水曜日

 あ、いたー。

 あのね結衣と優子、明後日の部活は、耐久レースのタイム計測のやり直しだから、水野と一緒に出掛けて貰うからね。


 「え~!?」

 「えー!?」


 結衣と優子は同時に言った。

 でもね、夏休みに測ったタイムは、あまりにも話にならないんだよ。

 結衣は精神が乱れて散々だし、優子は、それを見て敢えて手抜いてたし。


 「マイ、知ってたの?」


 知ってるに決まってるじゃん! 優子が、あんな守りの走りに徹するわけないじゃん。

 分かってるよ。柚月と優子は、揃いも揃って負けず嫌いだからね。

 特にこういう事に関しての優子の執念は、並大抵じゃないんだからね。

 小学生の頃、優子は、あっちの集落へと抜ける下り坂での自転車の速さに絶対の自信を持ってたのに、私が新しい自転車買って貰った時に負けちゃって、それから、半年間、毎回毎回死に物狂いで追っかけてきたじゃん。そういう娘なんだよ、優子は。


 って、痛っ! なにすんのさ! 事実なんだから、しょうがないじゃん。


 あ、七海ちゃんだ。

 なんか、水野が、今度新入部員が6人入って来るって、話をしてたんだよ。

 それで、その案内なんだけどね。


 「ハイ、聞いてます。マイ先輩が、2年生の娘を担当してくれるって」

 

 え? なんで知ってるの? 先に七海ちゃん呼んだのかな?

 七海ちゃんのところの化学って、水野が教えてるんだ。なるほどね、可哀想に、七海ちゃんも。

 あ、いや、それで、その2年生も、七海ちゃんの方で引き受けて欲しいんだ。今後の運営は七海ちゃんたちなんだし、2年生同士だしさ。


 「でも、先生から『2年生の生徒は、舞華君に任せる』って、言われてるんですよ。色々と問題がある生徒だそうで」


 え? ナニソレ? いや、そんな問題のある生徒の相手を私にやらせるって、ちょっとおかしくない?

 でも、命令なんで逆らえない、だって? いや、こっちも命令だよぉ、なに? 先生と話し合ってくれだって?


 ちょっと、なんで柚月と優子は、私のことを押さえるのよ!

 なに? 部内での傷害事件は、色々とまずいんだ、だって? そんな事になる訳ないでしょ!

 ちょっと、七海ちゃーん、なんで、いなくなっちゃうのさ!


 なんか、みんなさ、私が部長だってこと、忘れてない?


 「マイは、横暴部長だよ~」


 うるさい! 柚月、パンツ脱ぐ?


 「またそれ~? いつもいつも、同じ事ばっかり言ってて飽きない~?」


 この野郎! 柚月め、なんだ、そのバカにした態度は! よぉ~し、こうしてやるっ! このっ! このっ!

 まったく、今日はピンクか。いいか! 今度バカにしたら燃やすからな~! 取り敢えず今日は帰りまで没収だ!


 「参りました~、ゴメンなさい~」


 まったく、いつもいつも、同じ結果になるんだから、生意気な態度取るんじゃない!

 

 あれ? なんか、第二体育館で吹奏楽部が演奏してる。

 今日は、西棟って何かやってるの? いつも、吹奏楽部って、西棟の第二音楽室で活動してるんじゃない?


 「マイ~、もう少し学校行事に関心持とうよ~。今日は、編入試験の結果発表の日だよ~」


 柚月め、あまり調子に乗ると、パンツの命は無いよ。


 「うぅ~……。とにかく、先生方に訊いた話だけど、1年生が3人に、2年生が2人入学するんだって」


 今年は、随分変な時期にいっぺんに入って来るね。

 例年は、年度初めにまとまるか、バラバラに1人ずつ入って来るかのどっちかなんだけどね。


 「なんかね、この近くに、新しく会社の支社が開設されるから、それで人の動きがあるみたいだよ」


 そうなんだ結衣。

 なるほどね、だから、今年はまとまって入るのか。

 すると、今年はもう編入試験、やらないのかな?


 「どうだろうね~? 今年の枠が埋まっちゃったら~、特に2年生はやらないかもね~」


 なんだって? そんな事になったら、燈梨が入って来られないじゃないか! どうしてくれるんだ、柚月、このっ! このっ!


 「そんなの~、私じゃ、どうにもできないだろ~!」


 こうなったら、柚月のパンツ燃やしてやる~!


 「やめろ~!」

 

◇◆◇◆◇


 水曜日は、色々な行事がいっぺんに重なっちゃたんだよね。

 結衣と優子は、午後の授業を潰して、水野とタイム計測に行っちゃったし、その、ただでさえ人が足りない中で、例の山向こうの教習所の体験授業の日が重なって、第1回っていう事で、私と柚月も、行かなくちゃならなくなったから、通常の活動は、悠梨と七海ちゃんで、切り盛りして貰うことになっちゃったんだよね。


 「でもって~、これからは、2年生で切り盛りして貰わないと、ダメじゃない~?」


 教習所が送迎で迎えに来た、10人乗りのキャラバンの後席で、柚月は口走った。

 そうだね柚月、柚月にしては珍しく建設的な意見じゃん。

 いつも私がこの話題を出すと、妙に下級生を庇ってたけどさ。


 「だって~、もう私たちも、半年しか残ってないからね~。部のオペレーションはしっかり回して貰えるようになってもらわないとね~」


 それを、私は、休み前からずっと言ってたんだけどね。

 え? まだあの段階では早かったんだって? 機は今、熟したんだって? 


◇◆◇◆◇


 あぁ~、ここの抹茶ラテは、マジで美味いね~。

 そして、ここの良いところは、カフェからコースを見渡せるって事なんだよね~。

 今日の1、2年生は、一応、練習車を走らせたことのある娘達なんだけど、やっぱり、私らが教えるのと、教官が教えるのだと、違うんだよね。

 ホラ、あの3号車運転してる、1年の美桜みおって娘、私らが教えても、クラッチの繋ぎが上手くいかなくて、ガクガク走ってたけど、今日は、凄くスムーズに走ってるよ。


 今日は初回だったって事もあって、社長の織戸さんも来てたから、ちょっと挨拶したんだ。

 相変わらず気さくな人だったんだけど、やっぱり仕事できる人が出すピリピリした雰囲気ってのが出てて、ちょっと緊張しちゃったね。

 なんか、ここのところ、用事があってこっちに詰めてたって、言ってたけど、この教習所にそんなに入れ込んでるのかなぁ?


 「なんか、凄く緊張したんですけどぉ、超上手くなっちゃいましたよぉ」


 美桜ちゃん、分かったから、今日求められているのは、教習所に対する、忌憚のない感想だからね、きちんと書けた?


 「ハイ、教え方が丁寧だったので、すっごく分かりやすかったって事と、設備が充実してて、凄く良かったんですけど、ちょっと建物の中の照明が暗いかな……って」


 良いんじゃない? 忌憚ない意見だからね。忖度しない姿勢が必要だけど、あんまりバカっぽい事書かれちゃうと困るんだ。柚月みたいにさ。


 「私のどこがバカっぽいんだよ~!」


 行動の全てがバカっぽいだろうが、マックに入って、注文する前に必ず『スマイル』って言うし、バイクに乗って最初にした事が、バックするとメーターが巻き戻るかを調べるために、坂道を後ろ向きに下りたりとか、エレベーターを階段で追い越そうとか、やってる事がいちいちバカっぽいんだ。

 思い出したぞ、柚月は中2の頃、柚月のお父さんが買った凄いラジコンのボートを勝手に持ち出して、川の急流を上ろうとしたら、当然のごとく流されちゃって、柚月は、半年お小遣い抜きにされたんだ。


 「柚月先輩、マジ引きます~」

 「私たちの伝説の人だった、ズッキー先輩がー」


 1、2年生にマジで引かれてしまっている柚月を眺めながら、私は、行きの車の中で、柚月に言われたことについて考えていた。

 そろそろ本気で、部の引継ぎをするにあたって、後継者を誰にするのかを。


 

 

 ──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になる』『ところで、R32のミッション載せ替えは?』と、少しでも思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。


 次回は

 週末になり、遂に結衣のR32の作業の終盤に入ります。

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