第172話 お蕎麦とシフトロックと新入部員
案外、落ち着いたところでのお昼ってのも良いよね。
この辺って、お蕎麦では有名だからね。
でもって、あんまり地元だと名産物って食べないからね。
蕎麦のアレンジレシピって、結構新鮮だよね。柚月が頼んでいたような揚げたりとかするのって、見た事ないし、普通の茹でたやつでも、トッピングを変えたりして、結構お蕎麦にありがちな、おじさん臭さを消してるのが良いよね。
まぁ、私らには蕎麦アレルギーがいないのも、ここに来られる大きな要因か。
え? 結衣どしたの? 私の知り合いに蕎麦アレルギーって、居たっけ? だって?
あれ? 柚月と悠梨、どうしたの? 結衣を羽交い絞めにして、何処に連れてくの?
え? 優子もどうしたの?
「マイ、大丈夫? 気分悪くない?」
だって?
何の話……って、軽音楽部の事? 今更そんなこと、どうでも良いよ。そう言えば、軽音楽部のメンバーの中に、蕎麦アレルギーがいたね。思い出しちゃったよ。
別に、気を遣わなくても、気分悪くなって吐いたりしないって。むしろ、みんなに気を遣わせてると思うと、そっちの方が気になっちゃうよ。
別に、軽音楽部の事は、積極的に思い出したくはないけどさ、だからって言って、思い出すだけで吐いちゃうとか、そんなんじゃないからさ。
変に気を遣わないでよ。
なんか、変な事思い出しちゃったなぁ……。
◇◆◇◆◇
また、解体屋さんに戻ってきたけど、まだなんかできる作業ってあるの?
ミッションと、クラッチが無くてもできる作業って?
エンジンルームなんだけど、なにこの配線?
え? ATの電子制御用の配線だって? なるほどね、あんまり見覚えが無い訳だね。
優子ったら、何やら本を片手に配線を調べ始めた……と思ったら、ニッパーで、何本かを切断しちゃったよ! 何やってるのよ!
え? この辺りの線を短絡させておかないと、シフトロックが働いて、MTにした時にキーがロックできなくて抜けなくなるんだって?
そう言われてみれば、ATって、『P』レンジに入れてないと、キーが抜けない仕組みになってたよね。
「日本人が~、ヘタクソすぎて、国内だけ、そういう仕組みになってたんだよね~。ちなみに、2000年くらい以降のMT車が、クラッチ踏まないとエンジンかからないのも、国内だけだからね~」
柚月が言った。
うん、MTの話は訊いたことあるよ。
確か寒冷地で、サイドブレーキ掛けずにギア入れて車を止めてる人が、リモコンエンジンスタータ使って、車内を温めようとして、スイッチ入れたら車が飛び出した、とか、ギア入れて止めてた車を、他の人に貸したら、そういう止め方の習慣の無い人で……っていう例があって、そういう事にならないように、クラッチ踏まないとエンジンかからないようになってるって。
だって、R32なんて普通にクラッチなんて踏まないし、しかも説明書に『エンストした時は1速又は2速に入れて、クラッチを繋いだまま、キースイッチをスタートにすると、短距離であれば車を動かせる』って、書いてあるしね。
そうか、アレは国内だけなのか、え? ちなみに、国内向けでも、ランドクルーザーみたいに、それが使えないと命にかかわるような車種に限っては、スイッチで1回だけキャンセルできるようになってるって?
ふーん、めんどくさいね。
ATも1988年以前の車は、ブレーキを踏まなくても、チェンジボタンを押してP-R-N-D-2-1のどのレンジにも入れられたんだって?
あれ? そう言えば、お母さんが、昔のATはボタンを押すだけで動いたって、言ってたような気がするなぁ。
要は、車は使い辛くなってるって事だね。
そのために、ATは配線がややこしいのか、でもって、キーが抜けなくなるのは困るもんね。
「配線の入れ替えって、手もあるけど~、凄くめんどくさいから~、今の優子のやり方がベターだよ~」
なるほどね。
さて、あとは来週に部品が揃ってからかなぁ……。
もう、本丸のミッションとクラッチ以外は、ブレーキだけだから、来週の土日で終わっちゃうよね。
よし、これで結衣の2代目の車も、走り出せるね。
◇◆◇◆◇
昨日までの結衣の車の作業が嘘のように日常が戻ってきたよ。
っていうか、私らの日常に、車の妙な作業が割り込みすぎじゃね? 普通のJKはさ、スカイラインのAT→MT入れ替え作業を週末にやったりしないよ。
最近、私の手からさ、軍手の臭いがするような気がするんだけど、え? それは気のせいだから、あまり気に病まなくて良いって?
凄く嘘くさいんですけど~、絶対そう思ってないよね? 柚月は、なんで目線を外しながら『そんな事ないよ~』って言うんだよ。
よし、じゃぁ柚月は、部室に行ったら、良いって言うまでスクワットね。
「マイはなんで、私に対してそんなこと言うんだよ~、横暴だよ~!」
横暴じゃないよ、自動車部員に必要な体力づくりの一環だよ。それとも柚月は、パンツ脱ぐ?
「マイはすぐそうやって、私にパンツ脱げとか言って~、セクハラだよ~!」
柚月をイジっていると、優子がやって来て言った。
「マイ、部活の前に、顔を出すようにって水野が言ってたよ」
え、あぁ、優子は、日直で職員室に行ったんだね。
そうか、じゃぁ、職員室に行ってから部活に行くか……柚月は、どうせ来ないだろうから、先に部室に行ってスクワットね。私が行くまでに100回はやっておいてよね!
「私も行くんだもん~!」
え、いいよ、無理して来なくて。それよりも、体力増進につとめて、部員の鏡として頑張ってよ。
「イヤだい!」
柚月の、普段見せない様子に、ちょっとだけ教室内の空気が止まりかかったが、すぐさま通常の動きに戻っていった。
職員室に行くと、水野が既に待ち構えていた。
「すまないね。いつも2人に来て貰って」
いえ、柚月には、部室でスクワットをするよう指示したんですが、無視してここまでついて来ただけです。
「しないもん!」
水野は、苦笑しながらも、その掛け合いには興味を示さずに、言った。
「まずは、例の耐久レースの走行順については、あとの2人に、水曜日、タイム計測をして貰うことにした。会場を借りてあるので、私と2人は、そちらに向かうため、残りのメンバーで通常活動をお願いしたい」
そうか、もう、耐久レースまで1ヶ月を切ってるんだもんね。
ここで本番の走行順を決めて、作戦会議しないとね。
私らの、半年足らずだけど、自動車部の活動の集大成になるんだからね。とは言え、ジムカーナの3位があるから、正直、ここで失敗しても、部としては結果残してるけどね、私らの最後の晴れ舞台だからさ。
そして、水野は続けて言った。
「それから、新入部員がまた入って来る。今度は6名だ」
え? また増えるの? ウチの部って、なにげに人数がかなり多いよね。これで、部員50人くらいになってない?
私ら5人が実質、耐久レースで引退だから、その入れ替わりとしても、プラス1人だしね。
「凄いよね~、運動部としても、もう第二勢力だよ~。既に、女子サッカー部と、女子バレー部より多いからね~」
まぁ、活動内容的には、何にもない時は、気が向いた時に部車いじって、そうじゃない時は、部室でDVD見たりしてるだけなんだけどね。最近、優子が持ってきた、自動車でサッカーするやつが、マジ面白くてね、結構、時間が潰せるよね。
「入部希望は、1年生が5人の、2年生が1人だ。1年生の案内に関しては、2年生にやって貰うかどうかは任せるが、2年生の1人に関しては、舞華君が案内を頼むよ」
2年生の秋に、部活に入っても、普通の部なら意味ないんだけどさ、ウチの部は、3年生が本番的な感じだからね、2年生の入部も充分アリだよね。
しかしさ、別に、部の案内なんて、1年も2年も変わらなくね? それとも、2年生になって、1年と同じ扱いだとマズいって事かな?
正直、あまり深く受け止めずに、その場はさらっと流したんだけど、まさか、この時の話が、その後に、あんな事になるなんて、その時は思わなかったんだ。
──────────────────────────────────────
■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になる』『R32のミッション載せ替えが見てみたい』と、少しでも思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
次回は
水野の話を2人に伝えに行った舞華、果たしてその反応は?
お楽しみに。
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