第168話 スポイラーと4ドア車
取り敢えず、キーをオンにして、スイッチでスポイラーを動かしてみると
“ウイン”
という音と共に、作動が確認できたので、オートスポイラーの移植はあっさり成功したね。
「オートスポイラーと、ECUもだよ~」
まぁ、厳密に言えばそうなるね。
そうこう言ってるうちに、結衣が、インナーとフロントサスを片方分、持って来て入れ替えているね。
やっぱり、インナーはオートスポイラーの作動分、ちょっと形状に変化があったみたいだね。
どうよ? 結衣こだわりの装備だよ。これだけでも、自分の車になったような気がしない?
「うんっ! そうだね」
結衣が、後ろで嬉しそうに言った。
正直、結衣と柚月って、車選びに『2ドア』って、付帯条件を付けていたくらい拘ってたからさ、正直、今回の話って、結衣的に気乗りしてないような気がしてたんだけどさ、どうなんだろ?
「いや、そんな事ないよ。最初は、水野が条件出せって、話がムカついたから、難しくしたのと、それと、そこの条件を抜いて、マークIIの2000グランデとか持って来られると困ったから、2ドアって言ったんだよ」
なるほどね。
確かにFRでマニュアル車でも、実は落とし穴があって、マークIIの2000グランデなどのようなおじさんセダンの、通常グレードにもマニュアルは一部設定が残ったのだ。
理由は、ウチの地区でもまだ見かけるんだけど、今の80代以上の人の中には、まだ『オートマは運転できない』って、人が根強くいるんだよ。
別に、車が好きな訳でもなく、実用の道具なんだけどね、新しいプラットフォームに対応しきれない人ってのが、一定数いるんだよ。未だに、スマホにできない人ってのと同じだよね。
それから、小学生の頃、自由研究で、昔の新聞を調べたことがあるんだけど、平成10年くらいまでの新聞って、事故が起こるたびに、記事の文末に『事故を起こした車は、オートマチック車だった』って、書いてあったし、時々特集で『止まらぬオートマチック車の暴走事故』みたいなのも、たびたび組まれてたんだよね。
今って、高齢者が事故起こすと、大きな記事になって、高齢者から免許を取り上げよう……みたいな風潮になってるけどさ、20年ちょっと前の日本では、AT車が同じ状況になってたんだよね。
そういう風潮の中で過ごした、真面目な人の中には、AT車を忌み嫌って乗らずに今まで過ごしてきた人もそれなりにいて、その人に向けてのMT仕様車ってのもあるんだよね。
ちなみに、廉価版じゃなくて、豪華仕様のグランデなのも、そういう人達は、安いグレードじゃなくて、それなりの仕様のものを求めてるから、なんだよね。
それで、2500ccじゃないのは、そういう人達の中で、2000ccは、ステイタスのトップで、それ以上は別世界の人の乗り物って、考え方が強いからなんだって。
話を戻すと、確かに、そういう車がきても、結衣の使い方の場合は、役立たずだろうねぇ、下手をすれば、やけくそになった結衣が、無闇とドリフト走行の練習とかして、もっと早い段階で、大事故起こしちゃったかもね……。
「でもね……」
どしたの結衣? やっぱりどこか4ドアだと懸念があるの?
「いや違うよ。むしろ4ドアの方が、みんなで乗りやすいでしょ。ただ、欲を言えばリアスポイラーが欲しいかな……って」
結衣は、申し訳なさそうに、ボソッと言った。
あぁ、なるほどね。
結衣の今まで乗ってた2ドアにはついてたもんね。この車には付いてないもんね。
今までのやつを取ってつけても、色が違うからなぁ……。
「それに~、2ドア用と4ドア用は、リアスポイラー違うんだよね~」
そうなの柚月?
2ドア用のリアスポイラーは2種類あって、2本足のと、3本足のがあって、ほとんどの2ドアオーナーは、3本足のをオプションで付けてるんだけど、4ドア用は2本足タイプしかないんだって?
「でも~、私は、4ドアは、リアスポ無し派なんだけどな~」
だって。
まぁ、私も、エアロパーツっての?
ああいうのは、あってもなくてもどっちでも良いんだよね。
確かにR32の2ドアは、リアスポが無いと妙に物足りないような感じのデザインになってるように見えるけど、4ドアはそんな事ないから、スッキリしてていいと思うんだよね。
「それより~、私は、エアロバンパーがついてればなぁ……って思うんだよね~」
エアロバンパーって、私とか柚月の車についてる、横に口が長いタイプのバンパーだよね。
「この4ドアさ、サイドステップと、リアサイドプロテクションとか、純正のエアロパーツがついてるからさ~、バンパーの物足りなさが目立っちゃうんだよね~」
そうなの?
え? あっちにある解体車の4ドア見てごらん……だって?
あ、ホントだ。結衣のR32の4ドア、ドアの下の部分とかに、明らかにエアロっぽいものがついてる。
確かに、ここまでサイド部分が低く構えてると、バンパーの顎上がり感が、気になるっちゃ、なるね。
でもさ、柚月、このR32には、今、私らがつけた
「そうなんだよね~、GTオートスポイラーがあるんだよね~」
柚月が言うには、一応、両立させることは可能なんだけど、どうしても、エアロバンパーが手前で低くなっているので、その状態でオートスポイラーが出ても、見え辛くなってしまうという欠点があるらしい。
正直、見ていて難しいよね。どちらを取るかってね。
私もエアロバンパーの外観は好きだけど、オートスポイラーのギミック性ってのも嫌いじゃないんだよね。
確かに、壊れるとか、重いとか、懸念すべき点はあるんだろうけどさ、そんな世知辛いこと言わなくても良いと思うんだよね。
そこまで軽さや重量配分に拘って、ストイックにしたところで、新しいモデルの方が速いんだしさ、だったら、こういう『らしさ』に拘るってのもアリだと思うんだよね。
「私は、今のオートスポイラーで良いと思うよ」
おおっ、優子から賛成意見が出たよ。
え? なに? わざわざ、買ってまでつけるものかって、言われると微妙だけど、せっかく、ついてた物なんだから、それを活かす方が良いって?
なんか、微妙に、良いことを言われていないような気分になるのは、何故だろう?
そうこう話してるうちに、結衣がサスペンションを一式付け替えたよ。
そう言えば、結衣の足回りって、この間買ったばかりで、勿体ないもんね。
まぁ、今日のところは、ほぼ作業完了ってことで良くね?
今度こそお昼に行こうよ。私、マジでお腹減っちゃったよ。
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
多数の評価、ブックマーク頂き、大変感謝です。
モチベーションのアップにつながり、創作の励みになります。
よろしくお願いします。
次回は
お昼に行って一息ついた一行。
午後の作業について考えるのだった。
お楽しみに。
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