第167話 スポイラーと多数決

 あのね、本当はやっておきたいメニューに、ブレーキってのがあるんだよ。

 この車、パワーは上がってるし、今回、軽量フライホイール貰ったりしてるんだからさ、尚のこと、ブレーキがノーマルって訳にいかないの。

 なのにさ、結衣ったら、何の部品も用意してないじゃん。


 正直、結衣が何を考えてるのか分からないんだけどさ、今って、社外品のブレーキパッドでも、1台分で1万円くらいのリーズナブルなのってあるじゃん。

 そういうのを使って、自分の腕が上がるまで過ごすって、なんで出来ないの?


 ついでだからさ、結衣、おじさんにブレーキのローター研磨して欲しいって相談してきなよ。

 どうせ、新品なんて高くて買えないんだから、今あるやつを研磨して貰おうよ。


 なんで反応が渋いの? 嫌なの? だったら新品買うの?

 どっちがガタでてるんだろうね。

 ガタがより少ない方を研磨して貰った方がいいから、考えてるんだ。

 4ドアの方が走行距離が少ないけど、ATだから、エンジンブレーキをあまり使わなかっただろうってことで、一概に言えないからね。


 実際に両方のタイヤを外して見てみよう。

 ……でもって、4ドアの方が、ガタが少なそうだね。じゃぁ、4ドアの方でいこうよ。


◇◆◇◆◇


 お昼に行って戻って来ると、おじさんから、『研磨なんて半日で終わっちゃうから、ローター外しちゃったよ』って言われちゃったよ。

 いつもながら仕事が早いな、おじさんは。

 外されたキャリパーを見て思うんだけど、折角だから、キャリパーオーバーホールもしちゃわない?

 だって、ここまで外したんだよ。勿体無くない?


 今日はどのみち、クラッチと、ブレーキ系が揃わないから、そっちの作業は後回しにして、他の移植作業を進めようよ。

 スポイラーと、ライトが大きなところかな?


 まずは、フロントバンパー外しちゃった方が早いでしょ。

 ネジ2本に対して、殆どが樹脂のクリップで留まってるんだね。バンパーって、結構ガッチリついてるのかと思ったら、案外、弱いんだね。


 それで、ライトを外すには、まず脇についてるウインカーを外してと、そこからまぁ、ライトを外すのに苦労したんだよ。

 R32のライトって、ボルトで留まってるのは他の車と同じなんだけど、そのボルトの位置が、メチャクチャに手や工具が入り辛くって、外すのに一苦労なんてレベルじゃない大変さなんだよ。


 特に運転席側が大変だったけど、なんとか両方とも外して、プロジェクターライトと入れ替えたよ。

 結衣たちの班も、プロジェクターライト外すのに、かなり苦労してたみたいだね。

 え? なに柚月? こんなに苦労するなら、そのまま角目で良くない? だって?


 誰か、角目で良いと思う人? ……誰も手挙げないよ……ってか、柚月も挙げないじゃん!


 「だって~、超絶カッコ悪いんだもん~! オヤジセダンみたいで~」


 だったら、なんで結衣に対しては、それで良いんだよ!

 そうか、柚月は、そういう友達甲斐のない、エゴイスト野郎かぁ……。

 エゴイストの上で、マゾヒストって、どうしようもないなぁ……柚月は、だから、部員が1人しかいない、マゾヒスト部の部長なんだよなぁ。


 「私は、マゾヒスト部じゃない~!」


 暴れる柚月を制して、とにかく、作業を続行させた。

 ちなみに、私らの周囲では、角目派は誰一人いない。

 まぁ、悠梨はR33だから選びようが無いけど、本人は『私はR32ならプロ派だね~』って、言ってたしね。

 優子は、バイクに乗ってた頃に、山道でHIDを入れたR32角目の改造車に幻惑されて、崖から落ちそうになって以降、R32の角目を凄く嫌っている。

 柚月も、最初の頃から言ってたな『GT-Rのロードバージョン(一般公道用)は、プロジェクターなんだからさ~、当然、ロードバージョンの最高位は、プロジェクターライトだよ~」


 って、言ってたっけ。


 さて、結衣の拘りのオートスポイラーを取り付けるよ~。

 まずは、レインホースごと、ユニットを取り外しちゃって、結衣、タイヤハウス内のインナーを取ってきて。

 私の調べた限りだと、オートスポイラーの有無で、インナーの長さが違うと思うんだよね。


 よし柚月、スポイラーの片方持って4ドアにつけるよ~。

 あらかじめレインホース外しておいたから、オートスポイラーごと取り付ける。

 元々動いてたからね、動作の確認は必要ないっしょ。


 チャチャっと固定……なんだけど、スポイラーって、あのクーペの色と同じ黒だけど、柚月、どうなんだろ?


 「でもって~、スポイラーって、車種によっては、黒だったりするケースが多いからさ、違和感はないよ~」


 そうか、そう言われてみれば、初期型のR32GT-Rもフロントスポイラーだけ黒だったような気がするね。


 「でもさ、マイ、このボディの色に合わせるのって、結構難しいぞ」


 そうなの悠梨?

 こういう中間色って、経年や、保管状況によって、色の褪せ方が千差万別だから、調色をしっかりしないと、スポイラーだけ、妙に色が濃くなったりするんだって?

 そうか、まぁ、外装に関してはプロ級の悠梨の言う事なら、間違いなさそうだね。


 取り敢えず、スポイラーを固定して、インナーも交換しちゃおう。

 インナーも、ほとんどがピンで留まってるから、大きさが大きくて、めんどくさいって点を除けば、サクッと交換できちゃうからね。

 結衣さ、どうせなら、サスごと外してきて、交換しちゃっても良いと思うよ。


 インナーの作業は結衣に任せるとして、あとは、室内の作業だね。

 私調べだと、コンピューターの奥に、オートスポイラー用のコンピューターと、リレーがあるんだって。


 「マイ~、ついでだから、車側のECUも持って行っちゃおう~」


 なんで?

 一応、AT用とMT用で、コンピューターの品番が違ってるんだって?

 そのままでも、走行には支障は無いんだけど、一部制御が違ったりもするらしいし、それに、目の前にMT用があるんだから、替えておくに越したことはないって?


 確かにその通りだね。

 よし、車のコンピューターと、オートスポイラーの制御系を全摘出した……って、柚月、ボーっと見てないでスイッチを摘出して来てよ。


 「あれ~? 忘れてたよぉ~」


 忘れてた。じゃないんだよ。

 こういう肝心なところが抜けてるから、柚月はダメなんだよ! ダメ柚月!


 「ダメって言うなよぉ~」


 うるさいやい! 肝心なところが抜けてるから言われるんだよ。

 柚月は小学生の頃、水泳の授業に一番乗りしたいからって、家から水着着てきたのは良いんだけど、着替えのパンツ持ってくるの忘れて、おばさんが学校にパンツ持ってきたじゃないか。

 あの時、柚月は、おばさんに怒られるのが怖いからって、ノーパンで授業に出ようとしたから、私と優子で両脇捕まえて、職員室に無理矢理連れて行ったんだから。  


 さて、じゃぁ、まずは4ドアの車内に入って、助手席の足元のコンピューターをまずは取り外しちゃおう。

 そしてその奥の隔壁についてるステーとリレーを外して、その隙間から、上を覗いてみる……結構身体には辛い体勢だねぇ……。でも、その甲斐あって、カプラーが見つかったよぉ。

 え? 柚月なんだって? さっき外したんだから、その通りにやればいいだろうって?

 何言ってるのよ! 新車の時からついてる車のと、新車時に取り付けてなかった車では、配線を隠してあったりして、分かり辛いようにされてるんだよ。

 つけてもないオプションパーツ用のカプラーが、乗ってるうちに、だらーんと垂れてきたら、普通みっともないと思うでしょうが。


 だから、ノーパン柚月は困るなぁ、だらしなくて。


 「うぅ~……」


 ところで、柚月、スイッチの設置は終わったのね。

 こっちの設置も完了したから、動作テストしてみようか。



──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 多数の評価、ブックマーク頂き、大変感謝です。

 モチベーションのアップにつながり、創作の励みになります。

 よろしくお願いします。


 次回は

 スポイラーの移植作業もほぼ終盤、まだまだ小物の移植が続きます。


 お楽しみに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る