第93話 肝試しの思い出とハイキャスロッド

 翌日の放課後、1、2年生への伝達事項を優子に頼んで、柚月と一緒にシルビアで解体所に向かった。

 入って来たシルビアを見ると、おじさんはすぐにやって来て言った。


 「おおっ、今日は、スカGのハイキャスユニットだって? もう外したのが、たくさん置いてあるから、倉庫から持って行ってよぉ」


 と、事務所の脇にある、4トントラックから外したパネルを使った倉庫を指さした。

 なるほど、解体屋さんらしい倉庫だな……と思っちゃったよ。

 パネルの脇には、私らもよく知ってる、宅配便の会社のロゴが描かれていて、元々は、そこのトラックに使われていたのが分かっちゃうものだったよね。


 中に入ると、両脇には、びっちりスチール棚が置いてあって、そこに、色々な部品が置かれていたが、どうやら、このパネル倉庫は日産用らしく、私が最近覚えてきた車の型式がナンバリングされていた。


 やっぱり、スカイラインやシルビアの物が多いね。恐らく、需要が多いんだろうね。

 他に数が多いこの型式は何だか分かる、柚月? ティーダとノートだって? なるほど、需要は多そうだね。


 えーっと、R32のハイキャスユニットは……と、これかな? なんか、ハイキャスロッドだけが置かれてる一角があるね。

 いろんな車に設定されてたんだね。

 おじさんって、見かけによらず几帳面で、それぞれのロッドに、テープ貼ってあって、その上に型式書いてあるんだよ。


 C23って、何? 初代のセレナだって?

 意外だなぁ、セレナにもハイキャスがあったんだ。なに? 初代のセレナは、FRで、エンジンはシルビアなんかと共通のSR20のもあるから、上級グレードに、オプションで設定されてたんだって? 当時は、ミニバンの中でズバ抜けたハンドリング性能で、『ミニバンのスカイライン』という異名を持っていたんだって?


 HCC33って? R32と同時期のローレルか、CS14? 柚月、これって、もしかして、あの、部のシルビアの? そうだけど、シルビアのハイキャスは、オプション扱いだから、部車のシルビアには付いてないって?


 ようやくあったぞ、R32……と、BNR32はGT-Rだから違う、HNR32はGTS-4だね、HCR32……ようやく出てきたよ、ここにあったよ。

 どうしたの柚月、床に置いてグリグリしてみて、え? ガタが出てないかの確認だって? ロッドにガタが出てたら、何の意味もないから、ちゃんと確認しておくに越したことはない……か、なるほど、柚月のわりには役に立つな。


 痛っ! この野郎、この汚れた手で襲われたいのかぁ~、いい度胸だよ、柚月、制服のブラウスを、使い物にならないほど真っ黒にしてやるよぉ!


 「ゴメンなさい~、参りました~!」


 毎度毎度、先に謝れば良いってもんじゃないんだよ! ゴメンで済めば、警察はいらないんだよ。

 よ~し、特別に、今、ホールドアップしてる両手で、自分の胸をしっかり揉んで見せたら、許してやるよぉ。


 「そんな事したら、結局、マイに襲われるのと、変わらないじゃん~!」


 そう、さっき、ハイキャスロッドの点検をしたから、柚月の手も、しっかりと油で汚れてるんだよね。

 だから、自分で揉んでも、私に揉まれても同じって事なんだよね。当然、分かっていて言ってるんだよ。私ってさ、柚月と違って、Sだからさ。


 「ホントにゴメンなさい~、許してよ~!」


 あっ! 柚月、逃げやがった。待てぇ~。

 外の出た私は、先に洗面所を借りて手を洗った後で、柚月を捕獲すると、さっきの倉庫の中に引きずり込んでお仕置きしたんだよ。

 柚月は抵抗しようとするんだけど


 「イイの~? 私の手は綺麗だけど、柚月の汚れた手で抵抗されちゃうと、うっかり、汚れがついちゃうかもね~」


 と言うと、大人しくなったので、いつもより、きつめにお仕置きしておいたよ。

 

 あ、それから、柚月、そのハイキャスユニットも持って来て積んじゃおうよ。私は、手を洗っちゃったからね。

 言っておくけど、もし、事故を装って、私に汚れをつけようとしたら、山の上にあるホテルの廃墟行って、もう1回、608号室に入って貰うからね。

 すると、柚月は顔面蒼白になって、ガタガタ震え出した。


 1年生の夏休みに、この解体所より山の上にある、廃業ホテルの機械警備が解除になった、って噂を聞きつけた柚月が、私らの制止を振り切って、肝試しとか言って、入ってっちゃったんだよ。

 みんなが外で待ってる中、1階から順調に上って行った柚月は、6階の客室で、ドアが開いていた部屋に入ったら、オートロックのドアが閉まって、閉じ込められちゃったんだよね。

 

 悠梨と結衣が助けを呼びに行ってる間、私と優子が部屋の前まで行ってドアを蹴ったりしてたら、中で柚月が、わんわん泣きながら


 「この部屋、誰かいるよぉ~!」


 って、半狂乱になってて、柚月ったら、6階なのに窓から出ようとして、大変だったんだからさ。

 柚月は、思いっきり怒られて、1年の夏休みは、柚月だけ外出禁止になっちゃったんだよね。


 でも、レスキューの人がドアを開けた後、室内をくまなく見たけど、誰もいなかったんだよね。

 柚月は、誰を見たんだろって、当時みんな謎だったんだよね。

 いや、ウチの向かいの家のおばさんが、潰れるまで、そのホテルで働いてたから訊いたんだけどさ、別に誰かが死んだとか、608号室で、なんか見たとかいう話は訊いたことがなかったんだって、不思議な話だよね。


 よしよし、この話をしたら、柚月は大人しくなったな。

 この調子でトランクに積んじゃって……と。


 こういう時、シルビアのトランクスルーは重宝するよね。

 ハイキャスユニットみたいに横向きに積めない物も、リアシートを倒してあげると、積めちゃうんだもんね。

 なに? メーカーでは、きっと、サーフボードや、スキー板みたいなものを積むことを想定したんだと思うって?

 だろうね。まさか、ハイキャスユニットを運搬するとは夢にも思ってないだろうよ。


 よし、おじさんに挨拶して学校に戻ろう。


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■


 ★、♥評価、多数のブックマーク頂き、大変感謝です。

 毎回、創作の励みになりますので、今後も、よろしくお願いします。


 次回は

 遂にハイキャスロッドを手に入れた舞華と柚月。果たしてハイキャス復活の行方は?


 お楽しみに。

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