第92話 夏の活動とキャンセルロッド
エアコンの作業が終わり、翌週には、ジムカーナ大会も終了したよ。
結果は、3位になったんだけどね。ウチは女子しか部員がいないから、女子の部扱いになっちゃって、出場校が7校しかいなかったんだよ。
他の学校は、男子と車両が共用とかで、先に男子が壊しちゃって、調子が悪くなっちゃった学校が1校あったりとかでさ、結構悲惨な状況だったんだけど、ウチは万全のコンディションだったからね。
ただ、車がハンデあるからさ、ノートなんてウチだけで、他はスイフトスポーツかシビックだもん、しかも、ウチはLSDなしだからね。健闘したと思うよ。
それにしても、FFでLSD無しってのは、走らせるの大変だよね。
いや、別に通常走行は問題ないんだけどね。ジムカーナだとか、サーキットみたいなスポーツ走行だと、如実に分かるね。
なんか、悠梨のR33の最初より酷いよね。車が曲がってても、アクセルが開けられないからさ、待ち時間が長くてさ……。
1本目の走行の時さ、私、サイドブレーキで180度ターンしたのは良いんだけど、アクセル踏んだら、タイヤから白煙が出てくるだけで、前に進まないんだもん……マジ参っちゃった。
どうも、初代ノート用のLSDって、設定がないみたいだからさ、もう、諦めるしかないみたいだよ。
こういうマイナーな車を引き当てた、自らの不運さを呪うしかないよね。まったく。
さて、もう夏休みまで残り少ないけど、それまでの間に、どんな整備を片付けておこうかな。
あ、先に下級生のみんなに言っておくけど、ウチの部は、夏休みの活動とか、合宿とかは無いからね。2年生の大半は、元々、格闘技系の部からの移籍組だから、強化合宿とかやってそうなイメージだからさ、言っておかないとね。
え? ホントに、夏休みに何もしないのかって? みんなは、したいの? あ、そうか、1、2年生は、車に乗る機会が無くなるのかぁ、それは、可哀想だねぇ……。
分かった。水野に相談して、来週までにもう1回知らせるね。
で、今週は特にやるような作業って、無いんだよね。 どうしようかな?
ハイ、2年のチーフの
「部車に、ハイキャス付きは、ないんですか?」
あぁ、確かに、今ある中にはないね。4気筒と、GTEには設定自体が無いし、あのタイプMは、キャンセルされちゃってるからね。なんで?
昔の雑誌記事をネットで見たら、ハイキャスの効果について、かなり変わるって書かれてたし、お父さんが、若い頃に、ハイキャスの付いたシルビアに乗っていて、随分違うって、言っていたから、乗ってみたくなったんだって?
だったら、あのタイプMのハイキャスキャンセルを、キャンセルできるか調べてみようか?
それにしても、ハイキャスキャンセルを、キャンセルするって、訊いたことがない作業だね。
どれ、実際のモノを見て判断してみようか。
じゃぁ、ガレージの地下に潜って見てみよう。どう、柚月?
「見た感じ~、ロッドで固定してるだけっぽいね~」
ホントだ。
配管関係が、みんな残ってるね。
なんか、ググってみたところ、モノによっては、配管まで殺してしまうタイプもあるみたいだけど、これは、そのまま繋がってるから、間違いないね。
なんか、ネットを見ると『グニャグニャする』っていう理由で、みんな外してるイメージがあるんだけど、私は別に何とも思わないんだよね。
「あれって~、ドリフトしてる人達の情報が多いからね~」
柚月が言うところによると、ハイキャス自体は、高速走行時、車線変更なんかをする時なんかの安定性を狙ったもので、ハイパフォーマンスなスカイラインには不可欠という考えで、R32には、GTSタイプS以上の、上級グレードに標準でついたんだって。
ちなみに、R32に搭載されたのは第3世代に当たるものらしいよ。
「開発責任者が~、もし、削るグレードがあったら、存在が半端なGTS-tと、ハイキャス無しのGTSと言っていたほど、自信持ってたみたいだよ~」
ふーん、そうなんだ。
でも、私は、そんな話をしていて思い出したのは、優子の伯父さんの話だった。
優子の伯父さんは、R32に惚れ込んで、平成元年にGTSタイプSを買ったけど、途中で、ハイキャスに違和感を感じて、最終のGTSタイプJ、60周年記念車に乗り換えた、って話だったなぁ。
「優子の伯父さんは~、根っからのバイク乗りだったからだよ~」
柚月は言った。
なるほどね、バイク乗りだったから、暴れた後輪を立て直すのが愉しみだったのに、それを車側で打ち消すような動きをされてしまうことに、違和感を感じたって訳ね。
数年前までは、ハイキャスのキャンセルは、構造変更を出さないと車検に通らなかったけど、最近は、そこが撤廃されたから、ハイキャスキャンセルへの垣根が下がったんだって。
しかも、経年劣化でハイキャスが故障すると、修理費が高いから、っていう理由でも、キャンセルする人がいるらしい。
しかし、それだけを訊くと、別に元に戻さなくてもよくね? と思っちゃうんだけどね。
「でもさ~、それは、体験した人だから、言えるんだよ~。あの娘たちは、ハイキャス付きなんて~乗った事ないんだからさ、だから~、戻したいんだよ~」
そうだよね、正直、体験してないと、ネット情報では、ただのクソな装備の代表格みたいに言われてるけどさ、別に私らがそう思わないように、彼女たちもそう思わないかもしれないしね、何事も体験だよね。
このロッドを外して、元に戻せば良い、ってのは分かったけど、これを外した後に、入れるものがないよね。
「そうだね~、この車の中には、無かったしね~」
そう言われちゃうと困っちゃったね。
そうだ、夏休みの活動の件とあわせて、水野に訊いて来よう。
◇◆◇◆◇
どうも、水野のところにも、夏休みの活動の要望が上がってたみたいで、一応、夏休み中、お盆を除いて、週1回の活動で学校のOKが取れたらしい。
ただ、3年生については、受験もあるし、ほとんどの運動部とかでは、夏休み後に引退っていうのが一般的だから、活動の強制はしないって。
どうする? って、言われても、私と柚月は部長と副部長な上、もう進学も決まっちゃってるから、出るでしょ。
そう、今月に入って結果が出たんだけど、私たちのグループは、全員推薦合格して、進学が決定したんだよ。だから、残りは部活にあてられるんだよね。
とは言ってもさ、いつまでも私らが、好き放題やってると、下級生に迷惑だからさ、2学期には、次の部長を決めて引き継がなきゃね。
それと、やっぱり部車のタイプMは、あの状態で置いてあったものだから、純正のロッドが無いんだって、だから、明日、私と柚月で解体所に行って、捥いでくるしかないってさ。
だから、明日は、放課後、解体屋さんに行くからね。
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■あとがき■
★、♥評価、多数のブックマーク頂き、大変感謝です。
毎回の、創作の励みになりますので、今後も、よろしくお願いします。
次回は
遂に、解体屋に行ってあの装備の復活なるか?
お楽しみに。
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