第85話 再びの高原と異次元の教習所
テストが明けた週末、優子が持ってきたパンフを持って、例の教習所に行くことになっちゃったよ。
柚月の車が点検中なのと、優子の車が新規登録で、共にディーラー預かり中なので、悠梨R33と、結衣のGTS25の2台の2.5リッターで出かける事になったよ。
しかも、行きは、結衣が悠梨の車を運転したいって、言い出すもんだから、私と柚月と優子で、結衣のGTS25に乗っていく事になっちゃったよ。
まぁ、やっぱり思うけど、遠乗りは2.5リッターの方が良いよね。
私らのターボはさ、確かに速いんだけど、瞬発的に速いもんだからさ、長い上り坂とかで、アクセルの調整が必要になってくるんだよね。
そこいくと、2.5リッターは、全回転域で、余裕があるからさ、乗りやすいんだよね。燃費も良いんだろうし。
それにしてもさ、教習所に行って、カフェと、ファストファッションの店に入って来るだけって、できるの?
「でも、ちゃんと、割引券貰ったよ?」
と優子が言った。
でもさ、優子、これって、教習所全体の、パンフと招待券じゃん。
これで、周辺施設だけの割引とかって、できるの?
「いや……分からないけどさ、でも、お店の割引にも使えるって、言ってたし、貰ったから、使えるんじゃない?」
でもって、もし、入口で文句言われたら、どうするの? あのバーコード呼んで、説明を頼むなんて、私ら、絶対嫌だからね。
「じゃぁ、私がやるよ」
「そうだね~、優子の責任だからね~。もし、ダメだったらぁ……」
柚月は、この機に、と思ったのか、凄く嫌らしい顔をして、優子を見ると、言った。
「分かってるよ! 何とかするから……」
「そう~、もし、ダメだったらぁ、優子には、パンツ脱いでもらうからね~」
「ううっ……」
自分の言った言葉で、優子が徐々に追い込まれていっていた。
柚月の調子乗りは、昔からだから、しょうがないとして、今回の話は、完全に優子のゴリ押しだった。
デフ交換の話の中で、不意に優子が提案したことで、みんなが色めきたってしまって、結果、1、2年生に焚き付けられるような形で、私らが見に行くことになってしまったのだ。
その上で、悠梨の伯父さんの別荘が、あっさりと借りられてしまったのも、それを後押しする要因になってしまった。
悠梨の伯父さんの別荘から、車で15分くらいの場所にある教習所らしい。
悠梨の伯父さんの話では、この辺って、元々、別荘地だったので、あの教習所は、この周辺の住民というよりも、合宿免許をメインで稼いでいて、周辺の観光資源を売りに、バブル期には、荒稼ぎをしていたらしいよ。
教習車を、みんなBMWにして、芸能人が教習受けたとか、宿泊のペンションがお洒落だとか、雑誌に記事を書かせては、東京とかの人を大量に受け入れてたみたい。
でも、バブル崩壊で、提携してたペンションとホテルが倒産し、合宿が思ったほど、振るわなくなって、地元の教習生を重視したけど、少子化と、過疎化の影響で、経営が立ち行かなくなったらしい。
最後は、料金を割引して、また合宿生を取り込むために、価格破壊の波ってやつに乗ろうとしたんだけど、結局、ここらって、冬場は、雪が降って、合宿免許の需要が、カッツリ減るから、最後は、どうにもならなかったらしいよ。
私らの街の教習所が潰れて、ちょっとだけ息を吹き返したんだけど、でもって、私らの街から、山を越えて教習所に行くよりも、山を下って行った先の街の教習所に行く方が楽だから、その後は、かなり悲惨な経営状況で、去年頃に潰れたらしいよ。
ネットで調べたんだけど、それを、東京の方の財閥っぽい会社が、買い取ったんだって、なんか、そこってさ、経営が立ち行かなくなった温泉旅館とか、テーマパークとかを買い取っては、再生させたり、ダメな所は、温泉付き介護施設だとか、公園とか、ショッピングモールにして、地域の再生に繋げたりしてるんだって。
その教習所も、そこを無くすと、周辺の集落の若い人たちが大変だからって、秋までの合宿だけで、稼げるように、作り替えたんだって、冬場も、実家が積雪地帯の都会人を、冬の講習のカリキュラムをアピールすることで、合宿に取り込めるように、宣伝してるんだってよ。
で、そこの会社の社長が、趣味で、悠梨の家の近くのスーパーにあった、ゲームの躯体を買い取ったらしいよ。なんか、ネットニュースの記事に出てるよ。
そうこう言っているうちに、目的の教習所に到着した。
外は、建物全体を建て直すわけにはいかなかったのか、私らの通っていた教習所と似た作りではあったが、壁の色は、暖色系の落ち着いた色で、シックな雰囲気の物になっていた。
そして、屋根の上には、教習所以外にも、カフェや、ファストファッションのロゴの看板もあり、明らかに、雰囲気を異にしていた。
ロビーの感じも、凄くカジュアル系で、落ち着いた雰囲気だし、超良くない? なんか、教習所というより、新しくできた大学の、キャンパスみたいな感じじゃね?
ウチらの教習所なんてさ、どこかの事務所みたいな殺伐とした感じでさ、飲み物の自販機は、聞いたことないような飲み物しか入ってないし、極めつけにトイレは和式だしさ、和式だよ、信じられないんですけどー。
それとは反対サイドに歩いてくと、カフェと、ファストファッションの店、更には雑貨屋さんもあって、まるで教習所じゃないよね、って感じになってたよ。
どれも、ウチらが住んでる街には、出店してきてない系列のばっかりだし、マジでズルくね?
そもそもなんで、教習所に来て、服とか買う訳? 意味分からないんですけど。え? それこそが、狙いなんだって? この辺の地区と、近隣の地区の免許取得予備軍を引き寄せて、ここに免許を取りに通わせよう、っていう戦略だって?
確かに、ウチの1、2年生もコロッと釣られて、行きたいって言い出してたしなぁ……。
しかも、免許需要が減少する時期にも、テナント目当てに遊びに来る人達が多ければ、そのテナント料で、経営が安定するからだって?
まったく、羨まし……いや、けしからん話だよね。
◇◆◇◆◇
ふぅ、まったく、トイレまで、シックで綺麗な感じにリニューアルされてて、超羨ましいよ。ウチらの地区のイアンモールよりも綺麗でイケてる感じなんてさ……。
でも、折角来たんだからさ、ファストファッションの店で、買い物していきたくね?
しかも、優子が入口で、招待券と引き換えてもらった割引券まで持ってるじゃん!
みんなで行こうよぉ~!
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