第84話 リニューアルと機械式LSD
まぁ、さっきの優子の話は、取り敢えず、今のところは保留、って事にしておこうよ。
とにかく、先に作業を終わらせちゃおうよ。
さっきと、逆の流れでいけばいいから、まずは新しいデフケースを、ジャッキで運んできて、場所を合わせよう。
柚月ー、ここでいい?
「それにしても、なんであっちの教習所に、今頃できる訳? ズルくない~?」
オイ、柚月、いつまでも、さっきの話を引きずってるんじゃないの! あの話は保留中! 今は、作業に没頭しなさいよ。
まったく、柚月ったら、重量物を扱ってるんだからね。余計な事に気を取られて失敗したら、怪我するからね。
「どうもね、東京の方の会社が買ったらしくて、あそこを、近隣の需要以外に、都会の人の合宿免許を狙って、流行りをふんだんに取り入れたらしいよ」
ちょっと、優子も! 柚月に調子に乗らせないの。
作業が終わってから、その件は、みんなでじっくり話し合おうよ。
もう、そんな話ばっかりしてるから、GTEの作業に回ってる1、2年生まで、そっちの話題で、もちきりになっちゃったじゃん。
みんなで、パンフを手に取っちゃって、私、来年、そっちの教習所に行こう、ってみんなで言い始めちゃったし、挙句、駅前まで送迎バスが来てる、なんてわかっちゃったから、もう1、2年生が大騒ぎになっちゃったよ。
コラ、柚月、全部、柚月のせいだからな。
作業が滞った分は、柚月が責任もって、私に殴られろよ。
「ヤダよ~」
じゃぁ、さっさとやるんだよ。
早く終わらせないと、パンツ脱がすぞ!
さて、1、2年生の収集は優子と結衣に任せて、私らは、取り付けだけになったデフ交換を再開するよ。
結衣がいなくなったせいで、私が床下に入ることになっちゃったじゃん。
作業で、車の下に潜るのは当たり前だって? これは、私や部の作業じゃないからね。しかも、私、昨日、美容室行ったばっかなんだよ。
なに? だったら汚してやるだと? この野郎! やれるもんなら、やってみろ! 柚月、こうしてやる! このっ! このっ!
「参りました~、ゴメンなさい~!」
いや、許さないぞ! 柚月の乳首を、地面に擦り付けてやる! このっ! このっ!
まったく、いつもいつも、調子に乗ってばかりで、油断も隙も無いな。
さぁ、再開再開。
場所を合わせたら、さっきと逆の要領で、デフケースを取り付ける。デフキャリアと、メンバーの取り付け部は、仮締めで、少し自由度を与えておかないと、ドライブシャフトや、プロペラシャフトが取りつかなくなる可能性があるからね。
その状態で、ドライブシャフトと、デフのサイドフランジを結合する……と。
サイドフランジってのは、デフから車輪側に出てる回転部で、このサイドフランジとドライブシャフトの接合部が同じ形になっていることによって、接合できるんだよ。
よし、OK。今度は、プロペラシャフトとの接合だ。
さっきの要領で、サイドブレーキを引いたり戻したりして、OKっと。
今度は、デフケースの増し締めだね。
よし、再びジャッキ部隊の登場だ。ちょっとだけ持ち上げてみて……OK、もう1度、少しだけ上げて……OK。
「じゃぁ~、今度はデフオイルを、いってみよっかぁ~」
え? 私は嫌だよ柚月、だってミッション系のオイルって臭いじゃん。あんなものが、美容室行ったばかりの、私の髪にかかったら、マジでサイテーなんですけどー。
「そもそもさ~、この車って、誰のだっけ~?」
そうだ! 悠梨の車だった。なのに、アイツは、今日の作業に、ほとんど参加してないじゃん! 捕まえてやる。
コラッ、悠梨ぃ~! 自分の車の作業なのに、あわよくば、何もしないで終わろうとするなぁ!
よ~し、悠梨を捕まえて来たぞぉ……早くっ、デフオイルくらい入れろぉ。
そうそう、そのオイルガンに取ってから、溢れてくるまで入れるんだよ。
デフオイル注入も完了したから、これでOKだね。
車を降ろす前に、LSDが入っているかどうかを、実践で試してみるって?
駆動輪をジャッキアップして、タイヤをどちらかに回して、反対側のタイヤが、同じ方向に回れば、LSD付きで、逆回転したら、LSDは入ってないって事だね。……おぉっ! 同じ方向に回ったよぉ、これは、LSDがついてるって事なんだね。
よし、これで作業は完了したねぇ。どんなもんなんだろう?
早速、悠梨に、R33を走らせてもらおう。
……ハンドルを切ると、“ガッガッガッガッ”って、いいながら走ってるねぇ、これがおじさんの言う『バッキバキに効く』って事なのかな?
「まずは~、試しにテスト走行だよ~」
あっ!コラ、柚月、勝手に私を助手席に乗せて走り出すんじゃない、これは柚月の車でもなきゃ、この練習場も柚月の私有地じゃないだろ……って、勝手に8の字、始めちゃったよ。
でも、横に乗ってても、なんとなく分かるんだけど、後ろのタイヤが、しっかり路面を掴んでるって、感じはするよ。
だから、恐らく、この車の最大のネックになってる、クイックな曲がりが、かなり出来るようになってるんじゃないかな?
え? 私が運転しろって? 無茶苦茶だなぁ……。
自分で運転してみると、やっぱり違いは分かった。
確かに、ワンテンポ早い運転操作は、必須なんだけど、でも、曲がってからの巻き込みが、圧倒的に早くなったから、すぐ、アクセルを開けられるんだよね。
取り付けには骨が折れたけど、文句なく、面白い車になったよね。
……ただ、そうなると、最速は、悠梨の車って事じゃね? 柚月、それで良いのかなぁ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます