第53話 放課後と後期型ECU

 あれから、毎日のように減衰力を調整してみてるんだけど、確かに色々と変わって面白いかな。

 一番は、乗り心地が変わってくるんだよね。街中で乗ってるとさ、乗り心地って、大切じゃない? 

 

 前に柚月がやってた、悠梨のR33みたいな、前後バラバラの減衰力ってのも、試しに何回かやってみたんだけど、違いは分かって面白いけど、常日頃、それで走るっていうものでもないな……って思ったよ。

 逆に、バランスを崩して乗ってみて分かる、バランスの取れた乗り心地の良さってのを感じるね。


 そんなある日、昼休みになると、悠梨が凄くニコニコしてたのよ。

 何があったのかと思ってたら


 「遂に、ノートの塗装が完了したんだ。乾燥も充分にやったから、今日には、お披露目できるよ」


 そうか、遂にノートの塗装ができたのか。

 今までが今までで、目立たない色だからね、これを機会にビシッと見た目が変わると、みんなのやる気が違ってくるよね。

 そろそろ水野からも、参加要件とかについての話があると思うからさ、あ、思い出した。柚月、アンタは、しばらく1、2年生の運転練習同乗禁止ね。


 「なんでさ~? マイの意地悪」


 意地悪とかの問題じゃなくて、1、2年生の練習走行は、あくまで運転を覚えてスムーズな免許取得をさせる事が目的なの。柚月、私がお遣いに行って目を離した隙に、1、2年生の運転に同乗して、サイドターンさせてたでしょ。

 ちゃんとネタはあがってるの、そうやって、下級生巻き込んで好き勝手やってたら、部活停止になるでしょ! 柚月は反省してよ。

 何、その反応は? じゃぁ、柚月は部活中は、部室の椅子に縛りつけるので良いのね? 嫌だったら反省! 分かった? 返事が聞こえないよ!


 「分かったよ~!」


 よし、たまには厳しい部長っぷりを見せておかないと、部内の統制が取れなくなるからね。

 え? いつも厳しい姿勢を見せてるのは、柚月に対してだけに見えるって? 仕方ないじゃん、問題行動起こしてるのが、柚月ばっかりなんだもん。

 なに、柚月? さっきの内容に文句があるの? だったら、やっぱり縛る? 違うの?


 「マイに、あとで見てもらいたいものがあるんだ~」


 なに、私に見てもらいたい物って? どうせ、いつかみたいに、箱を開けたらヘビのおもちゃが飛び出してくるような、しょーもないイタズラなんでしょ?


◇◆◇◆◇


 遂に、ノートのお披露目だよ。

 正直、この競技に出てくるほとんどが、スイフトとかで、ノートはウチ1台だけの可能性もある中で、冴えないカラーリングだと、埋もれちゃうからね。

 ここは悠梨のセンスの見せ所だよね。


 おぉー! いいね、いいねぇ~。

 赤と黒の組み合わせがカッコ良いよね! 2色使いって、間違えると最悪だけどさ、悠梨のセンスが光って、凄く攻撃性と、知性が滲み出てるって感じだよぉ。

 どうしたの、優子? え? 悠梨は、自分の車は白なのに、センス良いよね? なんか辛口だねぇ……。


 よし! ちょっとテスト走行してみよう……って、いきなり飛び石とかで傷ついても、って気が引けちゃうんだけどさ、悠梨も


 「ギリギリまで厚塗りしてあるし、最後クリアも吹いてるから大丈夫だって!」


 じゃぁ、悠梨と一緒に出発だ! 

 うんうん、前に乗った時はノーマルだったけど、今は、車高調とマフラーがついているから、走りが違って小気味良いよね。

 なんか、久しぶりに前輪駆動に乗るけど、やっぱり動きが違うなって、思うよ。


 「マイ、そんなに分かるものなの?」


 え? あぁ、最初の頃は、分からなかったと思うけど、今、ほとんどスカイラインしか乗ってないから、やっぱり違うなって分かるよ。

 悠梨は、ホントにそんなもんなのかな? といった表情になっているが、そんなものだと思う。

 私自身、認めたくは無いけど、あのスカイラインに乗ってなかったら、きっと、こういう違いに、興味なんかなかったと思うし、違和感を感じても、スルーしてたと思うかな。


 ノートの走りは、安定しながら、小回りがきくので、結構楽しめる。

 小回りが大半となるジムカーナ? とかいう競技に出るらしいので、小回りがきくのは有難いよね。

 ただ、R33と似て、ダックスフント体型なので、クルクルと、向きを連続で変えていくような動きには適さないから、曲がりのアプローチは、R33と似てくるかもしれないかな。

 あとは、R33のセッティングを崩してた時と同じで、向きを変えてから、アクセルを開けられるまでのタイムラグがあるのが、ちょっとネックかなぁ……と、思っちゃうんだよね。


 サイドターンのしやすさなんかは、スカイラインよりも、こっちだなって、思わせるものがあるよね。

 スカイラインは、リアがスライドした後の立て直しが、結構デリケートだけど、こっちはFFだから、アクセル踏んでけば、そのまま立ち直っていくからさ。


 よし、テスト走行は終わり。

 あとは、1、2年生の練習走行を始めよっか、じゃぁ、柚月は謹慎中だから、結衣と悠梨でお願いね。


 ノートを洗車していると、柚月が寄ってきた。


 「マイ~、解体屋に、GTS-4無かった?」


 さっきの件はこういう事か、それにしても、なんで、私があの解体屋の主みたいになってるねん! 別に、私はあそこの関係者じゃないから!


 「知る訳ないじゃん! 私は、あそこの主じゃないし、あそこでバイトもしてないから」


 私が素っ気なく答えると、柚月は私の肩をさすりながら


 「そんなこと言わないでさ~、一緒に解体屋に行こうよ~」


 と言ってきた。

 なんで花のJKが2人で、放課後に行く場所が解体屋なんだよ! 根本から間違ってるだろ。


 「1人で行けばいいじゃん! 私は、イアンに行って、久しぶりにクレープでも、食べたいんだよ」


 と言うと、柚月は私の肩を揺すりながら


 「クレープなんて、いつでも食べられるじゃん~! 解体屋は、1日1日が勝負なんだよぉ」


 と訳の分からないことを言ってきた。


 「だから、1人で行ってくれば? 私は、特に勝負をかけるような用事はないから」


 と、冷たく突き放した。

 すると、柚月は、私の腕を掴んで揺すると、言った。


 「行ってよ、行ってよ、行ってったら~! なんで行ってくれないのさ」

 「言ったでしょ。用事がないから」


◇◆◇◆◇


 翌日、結局、柚月と解体屋に来るハメになった。

 あの後、柚月に土下座して頼まれたので、断れなかったんだよね……。

 柚月って、ああいうところがズルいんだよ。人前で、平気でプライドの無い行動がとれるんだもん。まるで、こっちが、悪い事してるみたいに見えちゃうからさ、諦めざるを得ないよね……。


 目指すGTS-4は4台あった。

 まぁ、この辺は降雪地帯だから、4駆率は高いんだよね。

 柚月は、その中から、濃いグレーの4ドアに狙いをつけたようだ。

 何故か、柚月は助手席のドアを開けると、何やらまさぐり始めた。


 「何が欲しいの?」

 「コンピューターだよ」


 私が訊くと、柚月は答えた。

 

 「後期型のコンピューターが、欲しいんだよ~」


 なるほど、だから後期型だけに狙いを絞ってたのね。それでMT仕様車で絞ると、4台中でコレしかなかったもんね。


 柚月はまず、助手席側のキッキングプレートという、乗り込む時に、靴とかが当たっても、ボディに傷がつかないようになってる樹脂のプレートを外してから、ネジを2本外して助手席の足元の内装を外した。

 すると、その奥に、銀色の薄い箱状の物があるので、それをボルトを何本か外して、そして、最後はそれに刺さっているハーネスを、締め付けてあるボルトを緩めて外した。

 柚月は、その箱の表面に貼られている、ラベルシールを、スマホの画面と見比べて確認すると、満足そうな顔で言った。


 「あったよぉ~」

 

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