第47話 謎の人と新たなECR

 「結衣と、私のことを追い回してたでしょ~!」


 柚月は、続けて言った。


 「ねえ、悠梨」


 結衣は、その姿を見た時から驚いていたが、私と優子は、ここに来た段階から分かっていたんだよ。

 柚月は、見かけによらず、負けず嫌いなので、見知らぬ人間に、一方的に攻撃されて、逃げられたなんて事は、絶対に我慢が出来ないのだ。

 恐らく、外部犯だったとしたら、家に来た段階で、柚月の機嫌は、メッチャ悪かったはずだし、口もきこうとしないのが、いつもの柚月なんだよ。


 あんな饒舌に、しかも、バーストを自分のミスだなんて言って、話を大袈裟にしようとしない段階で、相手は身内だな……と、分かってしまったのだ。

 そして、私らの中で、最近、唯一、怪しい行動が目立つのが悠梨なので、消去法で、悠梨が犯人確定、ってなったんだと思うよ。


 「いつから、気付いてたの?」


 悠梨が悟ったように言った。


 「ん~……おかしいと思ったのは、別荘に行く少し前かな? 優子が、悠梨を教習所で見かけない、って言ってるのに、悠梨が、部を休んでたところとかね~」

 「う……」

 「次は、別荘に行った時、悠梨だけが、マイと私の車に、行き帰り、交互に乗ったでしょ。私とマイのR32の違いを探ってたのかな~?」

 「……」

 「一番最初は、限定免許から、普通免許に、コース変えたのを黙ってた事かな?」


 柚月が、悠梨に言った言葉を訊いて、私は思わず


 「ええっ!?」


 と言ったつもりだったが、気がつくと、結衣と優子も驚いて、ハモっていた。

 悠梨は、私らの中で、唯一、限定免許を取ろうとしていた。

 悠梨の家は、共働きでなく、お父さんも、車通勤をしていないため、お母さんが使っているフォレスターを、そのまま貰うつもりで、それに伴ってのAT限定免許取得だったはずだ。

 何故、コースを変えたんだろう? 疑問は尽きない。


 「悠梨のお母さんのフォレスター、廃車になってるよね~」


 柚月が言うと、悠梨が無言で頷いた。


 「この間、解体屋さんに、部品買いに行った時に、見たんだ~。悠梨の家のフォレスターって、悠梨のお母さんが編んだ、ティッシュカバーがお洒落だったからさ、覚えてるんだよね~。屋根が潰れてたから、恐らく横転かな~」

 「そうだよ。今月の初めにさ、一時停止無視の車に、横から突っ込まれてさ、そのままひっくり返ったんだよ」


 なるほど、だから、急にコースを変更したわけか。

 ……でもって、悠梨は、そもそも、そんなに車が好きな訳じゃなかった、だからこそAT限定免許でいいや……と思って、そっちのコースを選んだはずなのだ。


 「部に入って、影響されたってところかな~」

 「そうだよ。名義貸しのつもりだったけど、みんなが入り浸って、楽しそうだから行くようになった。でも、私には運転できない車が多いから」


 柚月が言って、悠梨が答えた。

 なら、何故、隠す必要があったのだろう? 私ら、友達じゃん? そして、結衣や柚月を追い回した理由は何? そして、悠梨の車は何だったんだろう?

 どれから訊こうかと、纏まらないながら、口を開いたところ、柚月が言った。


 「私らに隠して、サプライズで、カミングアウトするつもりだったんでしょ~、恐らく、その車にしたのは、私らよりも速いのが欲しい、って言ったんじゃね? そして、私らにアタックして、速さを試したかったから……ってところかな~?」

 「うぅ……」


 図星を突かれたのか、悠梨は黙ってしまった。

 それを見た柚月は、畳みかけるように言った。


 「だったらぁ、最初から、素直に言えば良かったんだよ~。勿体つけて、『謎の車』なんて設定作るから、引っ込みがつかなくなるんでしょ~」


 柚月は、更に続けて言った。


 「それで、最後はマイを倒してから、現れるつもりだったんでしょ~」

 「ええ~っ!!」


 私は、驚いて思わず言ってしまった。

 しかし、謎の車の主が悠梨なら、結衣、柚月ときたら、確かに次のターゲットは、私でもおかしくない。いや、順序的には妥当だろう。

 すると、悠梨は


 「そうだよ。最後のターゲットはマイって、最初から決めてたんだ。こんな部を作って、みんなを混乱させた張本人をね」


 と、私の方を向いて言った。

 すると、柚月が


 「悠梨、それは違うな~。あの部を乗っ取ったのは、私だし~、それに、今の悠梨だと、マイのR32には、歯が立たないから~」


 と、ニヤニヤしながら言った。

 そして、柚月は続けて


 「ちょっと、実際のモノ、見てみよっかぁ~」


 と言うと、玄関の方へと、みんなを押していった。

 玄関先に止まっている、私と結衣のR32の更に向こう側に、白い車が止まっていた。


 2ドアで、見た目的に、私たちの車に似ている気がするが、何かが決定的に違う。

 テールランプは丸4灯で、間違いなくスカイラインなんだけど、何か違う車のような、でも、似ていて、これは、私らの乗るスカイラインと同じような、そんな感じを受けてしまうんだけど、これって、一体ナニ?

 その様子を見た優子が、私に言った。


 「これ、R33型のタイプMだよ」

 「えっ!?」


 車に詳しくない私でも、何となく分かる。私らのがR32型だから、R33型って事は、次の型ってことだよね。

 全体のフォルム? ってやつは、R32型のそれに似てるけど、全体的に角が取れて丸みを帯びているという点が違うのと、あと、決定的に違うのが『大きくて長い』んだよ。


 横から見比べると、ハッキリするんだけどさ、R32に対して、明らかに一回り長くて、真横から見ると、ホントに大きく感じる。そして、真横から見ると、ダックスフントに見えてしまう……。

 斜めから見るとカッコいいんだよね、だから基本のデザインは悪くないんだろうね。

 そして、後ろからのデザインはカッコいい。私的には、後ろ姿のカッコよさは、R32など、遥かに凌駕してるよ。正直、R32の2ドアの後ろ姿って、下窄まりすぼまりで、痩せっぽち過ぎるんだよ。それに対して、このR33の後ろ姿は、適度にどっしりとしていて、イイ感じだよね。ヒップラインは重要なんだよ。


 トランクにはGTS25tって書いてあるよ。

 えっ!? 今までの法則から、GTS-tはターボで、GTS25は2500ccだから、これって、2500ccのターボってこと? それって、ズルくない?


 「R33タイプMで追い回してればねぇ……そりゃぁ、直線で詰めてくるわけだよなぁ……」


 結衣が、悠梨のスカイラインを隅々まで見回してから、苦虫を噛み潰したような表情で、悠梨に言ってるよ。

 柚月がR33のエンジンをかけて、音を聞きながら、ボンネットを開けて中を覗き込んで見てるよ。

 その上で、ボソッと言った


 「うん、これじゃぁ、やっぱりマイには勝てないね」

 「なんでよ!」


 悠梨が、柚月に喰ってかかった。


 「だってさ、このR33、マフラーとエアクリだけでしょ? だからブーストが、ほんの心持ち上がった程度、ってとこでしょ。 マイのは、ECUで、抑え込んでるけど、タービン交換されてるから、走る場所によるけど、高回転まで回ったら、負け確定だよ~」

 「ええっ!?」


 柚月が説明して、私が、驚いて答えた。

 すると、柚月が、へへへと、笑いながら言った。


 「やっぱりなぁ~、絶対、マイは気付いてないと思ってた。でもって、コレ、分からないようにセッティングされてるから、よっぽど、敏感じゃないと気付かないけどね~」


 そして、引き戸になっている玄関を開けると


 「な~んか、ちょっと暑いよね~。中で、話そうよ~」


 と言って、私たちを中に招き入れた。




 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る