第41話 2人作業とキンコン
家のお遣いで、隣の県の親戚に物を届けに行くため、初めて高速道路を走った。
高速って、やっぱ緊張するよね。なにせ、いつもとは、全く違うスピード域で走るからね。流れてる風景が違うっていうか、とにかく凄いのよ。
私は、初心者だからね、左の車線を走って行った訳なんだけどさ。ホントだよ! 私は、柚月や優子と違ってスピード狂じゃないからね。
まぁ、それでも、流れに乗って走らなきゃっていうのは心がけてたよ。教習所でも、『制限速度を守る事も大事だけど、道路の流れを乱さない事にも気を配ろう』って言われてたしね。
そんな流れに乗って走っていた時なんだけど、突然
“キコンッ、キンコ~ン、キンコ~ン、キンコ~ン”
って、変なチャイムが鳴り始めたのよ。
スマホの音じゃないし、この車の警告音にしては、アナログちっくな音過ぎるし、メーター類に異常も見られないから、分からないまま走らせてたら、そのうちに音がしなくなったから安心してたのさ。
そしたら、帰り道で、また鳴り始めるのよ。しかも、行きに鳴り始めたのと、ほぼ同じ場所でだよ、ちょっとこれって霊現象的なやつじゃね? って思ったのよ。
そんな話を、教室でみんなにしたらさ、優子がまた、はぁ~って、ため息つくのよ。なんでなのよ。
そう思ってると柚月が言った。
「マイ~、それは、速度警告チャイム。通称“キンコン”だね~」
ナニそれ?
柚月の話だと、昭和の年代の車には、105~110キロ(軽は85キロ)を超えると、車種によってオルゴールのようなチャイムや、電子音でのチャイムが鳴るように決められていたらしいが、外国のメーカーから非関税障壁だと、非難されたために、以後の新型車からは順次採用されなくなって、現在に至るらしい。
ちなみに軽自動車が85キロなのは、1998年以前、軽自動車の法定最高速度が80キロだったためらしい。
「日産は、廃止するのちょっと遅かったんだよね~。R32は、後期からはオプション扱いになるから~」
「私のには、ついてないぞ」
柚月が言って、結衣が答えた。
そうか、私と柚月が前期で、結衣のはGTS25だから後期か……。
後期が羨ましいな~。
「昔流行った、走り屋漫画が好きな人とかは、わざわざ付けてるみたいだけど、ハチロクのキンコンだって、現役当時の人たちは、外して捨ててたからね」
そうなの、結衣? え? お父さんが若い頃、ハチロクレビンに乗ってて、外して、そこの峠道の、ガードレールの外に投げてたって言ってた?
オイオイ、山にゴミ捨てちゃダメじゃん……でもって、結衣のお父さんって、営林局の人じゃなかったっけ?
そうか、外せるのか。だったら、いらないから外しちゃいたいな。
余分な物は外して、グラム単位の軽量化を図る。私って、ちょっと走り屋っぽくね?
まずはメーターを外すんだよ……って、柚月、前提条件がいきなりハードすぎるよ。
「そう? でも、マイってこの間、カー用品店の駐車場で、メーター周りの、サテライトスイッチまで外してたじゃん。あそこから、もう1アクションだよ~」
そうなの? だったら、できそうな気がしてきたな。なに? せっかく、そこまでやるんだから、メータの電球をLEDにするとか、この機会に一緒にできる事をやるのも、効率が良いよ? 確かにそうだね。後で、ネットで探してみよう。
◇◆◇◆◇
なんか、柚月も、やりたいって言うから、今日、うちに来ることになってるんだ。
通販でメーター用のLEDも買っちゃったしね。この機会に、一緒にやっておくと確かに良いよね。今の車っぽくなってさ。
そうそう、お母さんがさ
「最近、舞華宛てに、よく荷物が来るんだけど、何買ってるの?」
とか、訊くのさ。だから、あのボロい車が、よく壊れるせいで、部品買わなきゃならなくなるんだもんって、言ってやってるんだ。
でも、この車の物だって言うと、途端に、何も言わなくなるんだよね。きっと、あのボロい車を押し付けたのは、自分だって、罪悪感があるんじゃないの?
まったく、芙美香め、最初から、もっとまともな車、買わせてくれればいいんだよ……って、いつの間にか背後にいたよ。 なに? 別に何も言ってないでしょ?
あ、柚月、来るの遅いじゃん! 早速作業に入ろうよ。
まずは、柚月の作業を手伝って、それでイメージを掴んでから、私の方へと移ろう。
最初に、運転席足元の内装のネジを取って、ちょっと前にずらす感じで外すんだよ。
なんで前にずらすのかって? 運転席のエアコンの吹出口の奥が、ドーム型になってて、引っかかるのと、一番端が金属の爪で引っかかってるからだよ。
次に、内装の中に隠れてるネジ2本と、メーター上のネジを外して、サテライトスイッチのついてる場所を外す。
そこに繋がってるコネクターを全部外すと、スイッチとパネルが、ごっそりと外れるから、メーターが剥き出しになる……と。
へぇー、メーターって、ネジで留まってるんだ。意外だね。ネジを外して、真っ直ぐ引っ張ると、メーターがパネルごと出てくるから、裏にあるハーネスを外すと、メーターが外れてきた。
メーターパネルの裏側って、なんか迷路みたいなシートがくっついてるんだね。
分かってるよ、これが基盤の役割なんでしょ。この上にある、銀色の小さな箱みたいなのが、キンコンを鳴らしている機械ってことね。ネジでついてるから、これと配線を止めてるネジを外して、本体と配線だけを撤去して、ネジは元通り締めておく。
これだけで、キンコンと、おさらばできるって訳ね。
次にメーターの照明だけど、メーターパネル裏の、明るめの茶色のポッチみたいのを、反時計回りにちょっと回すと、外れてくるから、その台座の先についてる電球を抜いて、LEDに差し替えるだけなんだ。
外した電球って、真っ青になってるけど、青い電球使ってるってこと?
違うの? これはゴムのキャップで、外すと普通の電球だって? ホントだ。どういう事よ? こうしないと、まっ黄色の光になっちゃうから、白い光にするために被せてるんだって? へぇ~。
全部替えたら、ハーネスを繋いで、取り付ける前にすることがあるでしょ? それを答えろって? いちいちクイズにするなよ! スモールランプを点けて、全部点灯するかのチェックだろ?
「あったり~。マイも少しは成長したなぁ~」
うるさいやい! 頭を撫でるんじゃない。いい加減にしないと、胸揉むぞ!
さて、取り付ける際は、スピードメーターケーブルの場所を、しっかり合わせて取り付ける点だけ注意して、取り付ければ、作業は完了って訳ね。
私の車の方も、柚月と一緒に作業をして、あっさりと完成した。
しかし、ホントにこの銀色の箱のおかげで、私はこの間、オカルト現象に巻き込まれたのかと思って、本気で恐ろしかったんだからさ。
そうだ、サテライトスイッチで思い出したんだけど、この左下についてる
『AM/FM TUNE』
って書いてある2つのボタンってなに? これは、純正のオーディオがついていれば、そのスイッチで、選局をできるようになってたんだけど、オーディオを変えちゃうと、意味の無くなるボタンだって?
「でも、それを利用して、ワイパーのミスト機能に、転用してる人もいるよ~」
へぇ~、ちょっと便利かもね。今度、検討してみようかな。
さて、無事に作業も終了した私は、今日、ここに柚月を呼び出した、もう1つの目的のために、柚月を納屋に連れて行くと、納屋の戸を閉めた。
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