第40話 奴隷とサンバイザー
今日は、部車のうち、競技に出る予定のノートとエッセ、そして、競技には出ないけどタイプMに、ロールバーなるものをつける作業をした。
このロールバーって、レースに出る車とか、スタントに出てくる車が、室内にジャングルジムみたいな、鉄パイプ? 的なものを張り巡らせてるやつのことね。
効果的には、クラッシュや横転時に、室内を保護するのと、ゴウセイってやつが上がるらしいよ。
取り付けには、床に穴をあけたりとか、色々大変そうだし、サンバイザーも、邪魔で外しちゃうから、私的につけるかって言ったら、ありえねーですけど。
なんでも、マイナー車のために、ノートのロールバーは、特注したんだって。だから、新品なんだって。
でも、なんで、あのボロいタイプMの分なんて買ってきたの? と思ったら、水野が、この間、たまたま出先のアウトレットにあった、中古パーツ屋のオープニングセールで、抽選に当たって商品券貰って、有効期間があったからって、その場で買ってきたんだって。
……水野め、あの中古パーツ屋に行ってたのか、鉢合わせなくて良かった。
「まさか、水野も来てたとはね~」
柚月、いきなり現れないでよ……って、さっきから、ずっといたって?
危ないところだったよね……って、あそこにR32用のロールバーなんて売ってたっけ?
恐らく、私らより、前に来てたんじゃないかって? 売約済みだから、私らが来た時には、店頭から撤去されてて、私らの目に入らなかったんだって。
あ~あ、元々ボロボロだった、部車のタイプMが、もっと使い辛くなっちゃったよ。乗り降りするのに、ただでさえ狭苦しいのに、もっと狭苦しい思いをしなくちゃならないのか。
それにしても、外された内装部品が結構多いんだね。サンバイザーも使えなくなっちゃうから、ゴミなのか……。
私の車のやつ、動きが緩いから貰って行っちゃお。良いでしょ? どうせ放っとけばゴミだから、良いと思うよだって。
◇◆◇◆◇
家に持ち帰ったサンバイザーを見比べてみる。
まずは、表面が布なので、中性洗剤を染み込ませた雑巾で、何度か拭いてみる……結構綺麗になるね。
この茶色っぽいの、日焼けかと思ってたら、汚れだったのね。もしかしたら、このR32、煙草吸ってたのかもね。よし、こうなったら繰り返しゴシゴシ拭いていこう。
ふぅ、あらかた綺麗になったね。
よく両側を見比べて、綺麗さにムラがないかを確認していた時だった。
1つの事実に気がついたよ。このサンバイザー、助手席側にだけ、鏡がついてる。
でもさ、普通は、運転席についてるものじゃない? エルグランドだって、マーチだって、運転席側についてるよ。
それにさ、今の環境だと、圧倒的に運転席に座る、私に必要なのよ。正直、女子に優しくない車だよね。
ふと思いついて、助手席側のサンバイザーについてる鏡を、マイナスドライバーで、グイグイと、こじってみた。
「えいっ!」
“バキッ”
取れた……って、鏡の枠のプラスチックが劣化してて、鏡を枠に固定していた爪が、4つ中、3つ折れちゃったよ。
まずは構造を見てみよう。サンバイザーの内部って、こうなってたんだね。
中心が、コルクボード的な、硬い板で、周りにスポンジが詰めてあって、周囲を布で覆ってるのか。
よし、そうだったら、運転席側を、この寸法で、くり抜いてあげれば、この鏡を、運転席側に移植できるんじゃね?
そうなれば、早速、ざっくりとした大きさに印をして……少し大きめくらいの方が収まりが良いはずだから……と。
そしたら、今度はカッターで、ざくざくと切り込みを入れていこう。表面のスポンジは、いらないから、捨てちゃって、表皮の布は、少し余分に見ておいて、余ったら折り返しておけばいいんだよ。
大体の形は出来たぞ。では、現物の鏡と枠を当てがって……と。うん、こんなもんでOKだよ。
それで、鏡なんだけどさ、サンバイザーに、両面テープでくっつけてあるんだよね。……コレで大丈夫なのかなぁ? でもって、これで30年近く、くっついてたんだから、大丈夫ってことだよね。
あと、枠の爪、折っちゃったんだけど、これって、枠ごと両面テープで、くっつけちゃえばよくない? そうだよね。
車の内装用の両面テープを用意して、大きさに合わせてサンバイザーに貼り付けて、その間に枠と鏡を綺麗にしよう。
さて、それじゃぁ、両面テープを貼った窪みの中に、鏡と枠をセットにして……と、その前に、鏡の蓋を止める磁石も、枠にセットしておかないと。この磁石、テープで留まってたっぽいんだよね……ちょっと、作りが雑な気がするわ~。
よし、これでひとまずは完了だ。
まずは、テープがしっかり貼りつくまで、一晩は置いておこう。
あ、夕飯だって、その後、今日は見たいテレビがあったんだよね。
◇◆◇◆◇
登校前に、サンバイザーを付け替えてから来ちゃった。結構、ガッチリと、取り付けてあるのかと思いきや、プラスネジ2本だけで留まってるのには、拍子抜けしちゃったけどね。
まだ、固定されてるのかが、不安だったから、降ろしてないんだけど、放課後になれば大丈夫かな? ちょっと楽しみだね。
今日の部活は、1、2年生の運転練習と、ノートとエッセの製作という、いつものメニューだった。 水野がエッセとノートのハンドルを買ってきたけど、ボス? とかいう物が揃ってないからって、お預けになっちゃった。
あと、納屋から持ってきた、兄貴の置いていったバケットシートを、どの車につけようかという議題の打ち合わせもやって、ノートに決定したけど、シートレールを入手するっていう、新たな課題が出てきて、活動がなかなかに停滞してきた感が出てきた。
水野に上申すると、最終的には渋い顔をされながら
「学校側とは折衝してるんだが、予算がな……」
で終わっちゃうんだよね。
競技用のタイヤとか、色々確保しておかないと、いけない予算があるみたいでね、水野も自腹切ってるし、あまり強く言えないんだよね……。
あ、みんな待っててくれたんだ。
え? まぁね。予算がね、結構厳しいみたいなんだよね。
それよりちょっと見て、ほらほら、昨日貰って行ったサンバイザー加工してさ、運転席にもミラーつけてみちゃった。どうどう? 結構よくない?
「ああー! マイのくせに生意気だぞー! 」
なんだと柚月、私のくせにって、どういう意味だよぉ~。
この野郎、柚月め、やる気かぁ~! このこのこの……くそぉ~、こうなったらぁ!
「スキあり!」
私は叫ぶと、私の拳を、両手で防御している柚月の胸を、右手で思い切り掴んだ。
「あああ~!」
私は車から降りると、柚月の後ろに回り込み、両胸を揉みながら言った。
「柚月! 参ったか? 参ったって言え! 言って、明日1日、私の奴隷になりますって、言うんだ!」
「参りました~……ゴメンなさい」
「続きは?」
私は、柚月の胸を、もっと激しく揉みながら迫ると
「明日は1日、マイの奴隷になりますぅ~」
と、泣きそうな顔になりながら言った。
まったく、柚月は、調子に乗るからダメなんだ。明日1日は、存分にこき使ってやるぞ!
すると、私の車の中から、結衣が顔を出して言った。
「マイ、これってさ、加工って、結構難しかった?」
「いや、カッターと両面テープだけあれば、結構サクサクとできたよ」
「そうなんだ。……実は、私も結構困っててさ。余った手鏡を、マジックテープで貼ってたんだけど、重さで落ちてきちゃってさ」
それを訊いて、私はみんなも不満だったんだなと、いう事に気付いた。
「シルビア系は、ほとんどが、運転席に、バニティミラーあるんだけどね~。スカイラインは、無いんだよね~」
柚月が言って、結衣も頷いていた。
翌週の週末、私はお遣いに行った解体屋さんで、柚月と結衣が、それぞれ別の日に単独でやって来て、R32のサンバイザー両側を、剥ぎ取って買っていったことを、訊かされたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます