第19話 プラグとしばしのお別れ

 翌日の活動は、私のR32のオイル交換と、部車のコンディションチェックの要の1つである、プラグチェックだ。

 今日は、家からまた1つ凄い書物を見つけてきたんだ。


 なんと、編集部員が、1年半放置していたR32のGTS-tタイプMの復活と、その後を追った特集が全て載った総集編の本なんだよ。

 え!? もう少し早く見つかってれば、もっと役立ったのにね……って、まだこれからも役立つでしょ。

 『DIY整備の基本'95』と共に部の蔵書にしておこう。


 さて、じゃあみんなが揃ったところで、ガレージ作業に入ろうか……って、結衣、悠梨に対して言いたいことがたくさんあるのは分かったけど、今ここで2人抜けると作業が滞るからさ。ソイツには、罰として強制労働させとけばいいんだよ。


 今日のガレージは、R32が2台も入ってて、見栄えが良いですね~。

 じゃあ、私はチャチャっとオイル交換終わらせちゃうから、みんなは、部車の作業をお願いね。


 それから悠梨は、ガレージの奥にある流し台の排水パイプ掃除ね。つまりが酷くて手が洗えないからさ、パイプ洗浄剤は昨日、買っておいたから、まずはお願いね。

 私も作業に参加させろ? 何言ってるのよ、あんたがこの間、勝手に壁にペンキ塗りしたせいで、水野が学校から怒られたんだぞ。

 一応、壁の汚れが酷かったからって、私も意見書書くハメになったんだからさ、あんたはしばらく反省!


 それから、悠梨はプレミオの担当ね。毎回何かしら整備していってね。え!? あの車に何をしろと? 別にオイル交換でも、タイヤ交換でも、何かしらやることあるでしょ? それに悠梨が得意な塗装でも良いんだよ。でも、あんまり下品なこと書くと元校長の車だから、呼び出されるかもね。


 そんなこと言ってるうちに、私の車のオイル交換は終了……っと。

 案外今までのオイルも汚れてなかったし、調子は悪くなかったって事かな?


 さて、これで部車の作業に合流だ。

 プラグのチェックか、さて『DIY整備の基本'95』によると、エンジンのヘッドカバー上に、プラグコードがあるから、その頭をポンと外して、レンチでプラグを外す……比較的簡単な作業だって、おや? プラグコードがヘッドカバーの上にないんですけど?


 「あるよ~。ただ、ここにプラグカバーがあるだけ~」


 柚月が、ヘッドカバーのところにある、黒いカバーを指さしながら言った。

 このカバーが、変なボルトで留まってるんだけど、そいつがいくつのボルトで留まってるのか……と思って辿っていくと、その上を妙なパイプが横切っていて、アクセスできないぞ。


 まさか、プラグ外すのに、このパイプも外さないといけないの? 


 「その通り~。だから、R32のプラグ系作業は嫌がられるんだよね~」


 ううっ! なんかめんどくさそうだし、このパイプが外れそうに見えないんだけど。


 「よし、私とマイは、マイの車、結衣と優子は部車の方を外して、プラグとコイルのチェックね~」


 オイオイ、柚月、勝手に私の車まで対象に入れて対戦形式にするなよ。……えっ!? どのみち見なくちゃならないんだったら、今のうちにやった方が良い? しかも、この作業に4人いても、2人はやる事ないんだから、その方が効率良いって?

 う~ん、仕方ないなぁ……。


 まずは、私の車の場合は、エンジンの上を通ってる、タワーバー? をボルト4本を外して外す。……結構重いなぁ、え!? このバーが、結構重要な仕事をするんだって?

 次に、パイプの脇についてるボルトを4本外す……って、何かこのパイプに書いてあるよ。なになに、セラミックターボ? セラミックなの?


 そして、今度は、このパイプに繋がるホースを外していく。3つはホースバンドだから、マイナスドライバーで緩めていくんだけど、もうあと2つは、どうやって緩めるの?

 このクリップは、2つの出っ張りをラジオペンチで掴んで縮めてやると緩むんだね。なるほど。


 今度は、ホースを外すんだけど、このホースがガッチリ喰い込んでて、超硬いんですけど? そして、引っ張っても外れやしないよ。

 柚月が両手で引っ張ると、不思議なほど、ポポポポーンって抜けるよね。柚月はバカ力だよね……って痛いよ!


 これで、上のパイプが外れたね。って、パイプの上についてるUFOみたいなのって、何? ブローオフバルブ? ターボの圧を抜くための物で、アクセルを離した時に、パシューンって音がすることがあるけど、その音を鳴らしてるのはそれだって?


 プラグカバーの端の方に、四角い箱みたいなのがあるけど、これもネジで留まってるから外して……それが、パワートランジスタ、略してパワトラだって? これもR32不調定番箇所の1つなんだ? 電圧を増幅させて、コイルに送っている? よく分からないけど、電気関係って覚えておけば良い?


 ようやく、プラグカバーに到達だ。

 なんか、もう1本上を跨いでるホースがあるけど、それは外さずにいけるらしいと、柚月がスマホ見ながら言ってるから大丈夫でしょう。

 カバーのボルトは、6角形の変なボルトだけど、ヘキサゴンレンチとかいうので緩める。……このヘキサゴンも、サイズが多すぎて分かり辛いねぇ。


 ようやくカバーが取れた……って、このカバー結構重いね。何で出来てるんだろうって思っちゃうよ。

 次に頭を出したプラグコード……って、なんか本に載っていたプラグコードと違うよ。え!? ダイレクトイグニッション? コイル一体の点火システムだって? 今の車だと結構多いよって事は、時代の先取りだったんだね。


 ハーネスが来てるから、コイルとカプラーを先に切り離しておく、柚月が言うには、3気筒分ずつ、台座から外れるようになっているから、ボルト7本で外す。

 ホントだ。台座ごと外れるね。……それと、ダイレクトイグニッションって、妙に仰々しい青なんだね。ハーネスの色と違い過ぎてビックリだよ……あれ? 部車の方は、黒だよ、おかしくない?


 え!? 私の車の方は、社外品だって?

 恐らく、ダイレクトイグニッションが寿命を迎えた時に、安くて高性能な社外品に替えたんだと思うって? その時に、ハーネスも新品にしたっぽいね、だって。

 恐らく、兄貴がやったんだろうね。


 これで、ようやくプラグにアクセスだね。

 ここからは『DIY整備の基本'95』と一緒だね。プラグレンチで緩めて、抜けた先端がキツネ色ならOKだって、うん、問題なしだね。

 プラグ自体も比較的新しいから、替えてから時間が経ってないんじゃないかって、柚月が言ってたけど、これも、兄貴がやったのかな?

 手前3気筒を終わらせて、今度は奥側の3気筒をチェックしたけど、結局、同じく問題なしだった。


 私の車の方は、元に戻して、部車の側へと合流したけど、部車はプラグが煤けてすすけて真っ黒だったね。

 これをワイヤーブラシで磨くんだけど、煤が取れると、白っぽくなってて、明らかにヤバくない?って状態だよ。同じ車でも、私のスカイラインとは雲泥の差だね……。


 結衣と柚月と優子にも1本ずつ渡して見てみるが、どうにも寿命っぽいよね。悠梨は、見なくていいよ。それより排水口掃除終わった? もう終わって、流しの掃除もバッチリだって? ご苦労様、じゃぁ、プレミオの洗車とプラグチェックやっといて。

 いい? せんしゃって言われたからって、戦車にしたら怒るからね。


 取り敢えず、部車は、新しいプラグ買って交換しないとダメだね。

 ちょっと水野に訊いて、近いうちに買ってくるから、取り敢えず部車はイグニッションコイルまで戻しとくくらいにしとこう。


 悠梨、どう? プレミオのプラグは……って、問題なさそうだね。

 でも、オイルはどうなってるか分からないから、次回はオイルとフィルター交換だね。

 え? この車何に使うのかって? 正直、競技にも出られないし、構内移動くらいしか、使い道ないんだよねぇ……。

 まぁ、でも、悠梨の担当だからさ。使い道も含めて頑張って。


 部車の場所に戻ってくると、優子から言われた。


 「マイ、この車さ、プラグだけじゃなくて、イグニッションコイルも危なくない?」


 確かに、走行距離と、プラグの状態から考えると、いつおかしくなっても不思議はないが、さっき、柚月と純正品の値段を調べたら、恐ろしい金額だったんだよね。そりゃぁ、兄貴も社外部品にしたはずだ……って思ったよ。


 「ちょっと、水野と相談して決めるよ。イグニッションコイルは凄く高いからさ」


 と言うと、結衣が言った。


 「1回、みんなで、先生と話してこない?」

 「良いけど、水野は変態だからさ。訳の分からないことを言ってきたりするから、気を付けてね」


 と、注意喚起を促した。そして


 「みんな、お知らせがあるんだけど、ここまで頑張ってくれた柚月が、今日をもって卒業します」


 と言うと、柚月が私を止めようと向かってきたが、優子と悠梨に2人がかりで羽交い絞めにされた。


 「違う~……むぐぐぐ!」


 口も押えられて反論も出来ずに、結衣の前に引き出された柚月を見て


 「大体、アンタが勝手に私ら引っ張り込んだくせに、辞めるとか、許されるわけないでしょ!」


 と結衣は、柚月に普通に蹴りを喰らわせていた。


 「ぷはっ! 違うんだって~来週から教習所に……ううー!」


 もがいて、一瞬だけ隙を突いた柚月だったが、また優子に捕まってしまったようだ。

 それを見ても、結衣は全く動じずに柚月に訊いた。


 「そういえば、来週から、アンタが連れてきた下級生が、ぞろぞろと来るんだけど、どうすればいいの?」

 「うううー!」


 会話にならない2人は放っておいて、私は、結衣に言った。


 「一応、3班に分ける。プレミオ班と、R32班、それと、今まで黙ってたんだけど、来週、1台部車が来るので、新部車班にね」

 「ええーー!」

 「んんーー!」

 

 やはり、みんな驚いている。そうだろう。

 

 「マシンXの詳細は、お目見え時のお楽しみということで、乞うご期待だよ~」


 次週への引きを残して、今週の部活動を終了した。


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■


 ★、♥評価、多数のブックマーク頂き、大変感謝です。

 毎回、創作の励みになっております。今後も、よろしくお願いします。


 次回は

 土曜日のカー用品店で、舞華は、とある2人に出くわしたことにより、大きな情報を得ます。


 お楽しみに。

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