第18話 買い出しとライト
次の日はバイトがあるので、部活は休みにした。
一応、私以外は活動してもよさそうな気がしたが、目を離すと、悠梨が何をしでかすか分かったもんじゃないし、結衣がいないと、柚月も一緒になって悪ふざけを始めるので、強制力で休みにしてみた。
バイト先で、店長と部の事を話しているうちに、結衣から脚立を貰いに行く話になっている事を話したところ
「ルーフキャリアをつけて運ぶのがベストだね」
と言われた。
ルーフキャリアって、よくワンボックスカーとかについてたり、SUVとかにスキー板積むときにつけたりするアレだよね? スカイラインにつくの?
どうも、昔は、普通の車でも、みんなキャリアをつけてスキーに行くのが当たり前だったみたいで、R32も、結構見られたらしい。
え!? 店長が、昔使ってたやつ貸してくれるって? いいんですか? 脚立1回運ぶためだけに買うにしては、高すぎるから……だって。
じゃぁ、次のバイトの時に持って来てくれるって、やった!
バイトが終わった時には、外はすっかり暗くなっちゃった。
平日にしては珍しく、団体のお客さんが来て、しっかり残業しちゃったよ。
でも、車だから、帰り道も安心だ。ゆっくり帰ろー。
こんな暗い時間に乗るのって初めてだったんだけど、古い車のせいだろうか、なんかライトが凄く暗く感じる。
この辺が、何もない田舎だから、尚の事そう感じるんだろうけど、何もない場所なんか走ってると、ライトが消えてるんじゃないかってくらい、暗いんですけど……。
フォグランプがついてるから、それを点けると、バンパーの下の方についているおかげもあってか、黄色い光が、ぱあっと広がって、かなりマシになるけど、そもそもフォグランプって、霧が出てる時に点けるものだから、年がら年中、点けてるのは良くないよ。
そんな事があったので、次の日の部活中に、みんなに言ってみた。
「あぁ~、R32のプロジェクターライトは暗いって、よく言われるよね~」
柚月が言うので、対策は何かないのか訊くと
「色々あるけど、予算によりけりだよねぇ~」
そうなのか、なるべく使うお金の額は少額が望ましいかな~。
「となると、バルブ交換かなぁ、その前に、確認だけど~、ライトを角目にする気はある?」
角目って、部車の片側がやってる普通のライトだよね。
アレ無理無理、なんか無表情だし、妙に厳つい感じがするしさ。
「マイのは、ギリギリ前期型なんだよねぇ~。となると、H3Cなんだよね~」
柚月は言って、少し考え込むような仕草をしたと思ったら
「今日の部活は、買い出しに行くって事にしない?」
と言い出した。
「どうせマイ、オイルも買って来てないでしょ~。ガレージ班も、必要な物資が結構あるって言ってたし、それを含めて買い揃えに行って来よーよ」
うう、確かに、今日はガレージ片付けや、部室掃除くらいしかやる事が無かったのは事実だ。
バイト帰りにホームセンターに寄ろうと思ったら、残業していたおかげで閉店していたので、寄って来られなかったんだ。
一応、職員室に行って水野に訊いてみると、必要な物資を買うならと、お金を貰い、領収書を貰ってくるように言われ、今日の部活は買い出しに行くことになった。
私だけが車になるので、現地集合ということになり、私は、水野とガレージ内の不要物の処分等について話してから向かうことになった。
ホームセンターに到着すると、やはり、私が少し早かったのか、まだ柚月しか到着してなかった。
先に中に入って、メモを見ながら、必要な物を予算と突き合わせながら見ていく。
バケツとか、箒とかって、学校に申請すれば支給されなくね? 却下。
誰だ? ティーセットとか書いた奴。何でも書けばいいって訳じゃないんだぞ! 悠梨の字っぽいな……アイツ、全然部に貢献してないくせに、こういう事だけは……明日お仕置きでよくね?
書いてあるものの半分くらいは、学校に申請でいけそうだから、買うのは車のケミカル関係がほとんどだね。
よし、部の関係の買い物は、ひと段落ついた。
1回トランクに積んできて、それから、私個人の買い物だね。
昨日買いそびれたオイルは、2480円か。柚月曰く、同じグレードの物をカー用品店で買うと7000円くらいらしいから、凄いよね、ホームセンター。
フィルターは、さっき、私のスカイラインの記録簿を見たところ、オイルと一緒に車検の時に交換したことになってるから、今回はそのままでいこう……と。地味に1000円くらいするしね。
さて、今度はライトのバルブを探してみよう。室内灯は、LEDとかあったから、ライトもないのかね? え!? あるけど、専用品で高い? それじゃぁ今回はパスだなぁ。
ハロゲンで、H3Cってのを探せばいいんだね……ってなくね? あ、あったって、それは純正相当品だから今のと同じだって?
やっぱりここにはないのかな? じゃぁ、カー用品店に移動するしかないかな……って、優子と悠梨が来た。
ずいぶん遅かったね。え!? バイク通学禁止明けだから、速度チェックが厳しいんだって? フン、自業自得だろ、私は捕まった事ないもんねー。
あぁ、優子、オイルはあったんだけどね。ライトのバルブは無かったんだ。
だからカー用品店に移動して……えっ!? ここのレジ前に、処分品のワゴンがあって、ライトのバルブも入ってたって?
よし、一応見てみよう。もしかしたら、H3Cの明るいバルブもあるかもしれないからね。
ワゴンの中には、トイレの芳香剤やら、スリッパやら、色々あるなぁ……よく優子、見つけられたね。凄いなぁ。
あ、あった、ライトバルブ。……やっぱりH4ってのが多いねぇ、へぇー、ほとんどの車がH4なのかぁ。
あっ! これって、もしかしてH3Cって書いてない? あぁ、書いてあるよぉ……ついに見つけたよぉ、H3Cの明るいバルブ。
65Wから140Wクラスになるって書いてあるよ。そして、元々5480円が2480円になって、更に1480円になった後で、980円になってるよ! 超お買い得じゃね?
よし、これを買うぞ……って、色はそれで良いの? へ? 色って選べるの? いや、もうそれ現品しかないから色は選べないけど、バルブカラーがイエローになってるって?
てことは、フォグランプみたいな色になるってこと? 別に明るくなるんだったら、色なんて何でもいいよ。
ちなみに、2006年以降の車は、ライトのバルブに色ついていると違反だって? でも、R32は全く対象外なんでしょ?
こういう時だけは、古い車の良さを実感するよね。
会計したら、まだ明るいから早速ここで取り付けてみよ~って、みんな元気だね。
ボンネットを開けて、ライトを見る。この丸いところが、今日交換する部分だね。その裏側にあるコネクターをまず抜く。
……コネクターにリリースボタンってあるのかな? 特に関係なく引くと抜けてくるので、ゆっくり引っ張って抜いていく。
抜けたら、ライトの裏側にある、プラスチックのリングを回して外す。
おぉ、左に半回転させたら、あっさり外れたよ。
次に、リングがあった場所の中にあるゴムカバーを切らないように気を付けて外す。……きっと防水と防塵のためについてるやつだろうから、慎重に扱わないとね。
そしたら、中にある針金状のストッパーを外す。
……これ、随分きつく、ついてるんだねぇ……ちょっと押したら、バネみたいにパツーンと外れたよ。
すると、中からフリーになった古いバルブを取り出す。
取り出したバルブを見てるんだけど、随分古くね? なんか濁ってるんですけど、これじゃぁ、暗くも感じるよ。
そして、逆の要領で、新しいバルブを取り付ける……か。
言うのは簡単だけどさ、つけるの、凄い大変だよ。さっき、外すのが大変だった、針金みたいなストッパーさ、つけるのも大変なんだよ。どうなってるか分からないし、引っかかる場所が分からないから、どのタイミングで縮めるのか分からないしさ……。
苦労の末、ようやく交換に成功した。
まずは、ボンネットを閉める前に、ライトのスイッチをオン。
車の前に回り込むと、おぉ~、両方ともライトがついてるよぉ、しかも黄色いねぇ……。
よし、これで夜が待ち遠しいねぇ……って、夜なんてほとんど車に乗らないけどね……って、なんでみんな私の車に乗るの?
「マイ、あそこから立体駐車場に行くんだよ!」
後席に乗った悠梨から言われて気がついたが、ここのホームセンターには、2階駐車場があるんだった。
ゆっくりとスロープを上がって2階の屋内に入ると同時に、ライトを点けると、それは感動の1言だった。
目の前から
「どう?」
優子が訊いた。
「凄いよマジで……全然違うわ」
と言うと、柚月が
「でしょ~、ホントは、HIDかLEDにいきたいけど、高いからね~。お手軽にこれでも十分効果あるでしょ~」
と、言ってきた。
よく考えると、柚月はバイクのライトをLED化させていたくらいだから、その辺のノウハウはあったのか。
ちなみにR32には3種類のライトがあるらしい。
1つは、標準の角目、そして、もう1つは、私のR32がつけている、前期型のプロジェクターライト、そして、最後の1つが、改良された後期型のプロジェクターライトだそうだ。
ちなみに、明るくするには、角目がやりやすいらしいのだが
「角目のHIDとか、マジで迷惑だよ~。自分は見やすくなったから良いんだろうけど、対向車にグレアがモロに入って、私なんか、1回バイクで、危なく落ちそうになったんだから!」
優子が、かなりマジで怒りながら言った。
どうも、通常ライトは、上下に光が漏れる特性があり、そこに、新車時の規定外に明るくなるHIDライトなどを入れると、漏れた光が対向車や歩行者を幻惑するそうだ。
「プロジェクターは、光の漏れは少ないんだけど、その漏れの少なさが、暗いって感じちゃうんだよね~。だけど、HIDやLEDとの相性は抜群だよ~」
と柚月が言った。
「ちなみに、前期と後期のプロジェクターの違いは?」
私は訊いてみた。すると、優子が言った。
「プロジェクター自体の大きさ。前期は、丸い目玉の部分が綺麗に収まってるけど、後期は、大きくなったから、上と下がちょっと切れちゃってるんだ。そして、バルブのサイズも変わってる」
「へぇ~」
「明るさを取るんだったら、後期のライトに変えるのも手だよ」
悠梨が、珍しくまともなことを言った。
私は、しばらくはこれでいいとして、今後の事については、ゆっくり考えていこうと思った。後期のライトと言うフレーズに、ちょっと引っかかるものを感じたのは事実だが……。
1階に戻って、みんなで自販機の前で今後の事を話していると、結衣が今日、試験場に行っている話になった。
「来週から、結衣も免許取得者だから、次は柚月だね」
私が言うと、悠梨が
「マイ、なんで決めてかかるんだよ! 結衣は落ちるかもしれないだろ!」
と言って、私と柚月から蹴飛ばされていた。
すると、柚月が言った。
「それで、マイな、私な~、来週から教習所が忙しくなるから、部に来られなくなるんだ~」
「そうか、部の戦力としては惜しいけど、柚月が退部した分は、みんなで頑張ろー!」
私が答えて、悠梨と優子と、ハイタッチをしていると、柚月が悠梨にツッコんで
「辞めるんじゃなくて、休むの~!」
「ホラ、ちょっとでも休むと勘が鈍るって言うから」
悠梨が言って、柚月の背中をポンと叩くと、優子が涙を拭うフリをしながら言った。
「柚月~、忘れないからね~」
「私は、辞めないもん!」
すると、経験上、柚月は1ヶ月くらいは、部に来られないから、その間の活動を、後で柚月と打ち合わせる必要があるな、と思った。
「まぁ、それでも、今週いっぱいは通常活動ということで、明日もみんなで活動しようね~」
「お~!」
私たちは、これからの部活に妙に前向きになっていた。
その時は、まさか、次の週にあんなことが待っているとは、知る由もなかった。
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■あとがき■
★、♥評価、多数のブックマーク頂き、大変感謝です。
毎回、創作の励みになっております。今後も、よろしくお願いします。
次回は
部車R32のコンディションチェックと共に、自車の作業もする舞華、それは、柚月の企みだった。
そして、最後には衝撃の発表が……。
お楽しみに。
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