第13話 優子と遊馬
帰り道でホームセンターに寄り、例のLEDの室内灯を買ってきた。色々値段が違っていて分かり辛かったが、LED球の入ってる数の差だというのが何となく理解できたので、1500円する一番球の数が多いのを買った。
ホームセンターの駐車場で早速交換をしてみた。
まずは、室内灯の透明カバーを外す。柚月は専用工具みたいなのを使ってたんだけど、さっき見たら800円くらいして高かったから、この間、トランクの中を見た時に見つけた工具袋からドライバーを持ってきた。
持ち手のところに日産のマークが入ってるから純正品なんだよね。柚月が言ってたけど、最近の車にはドライバーは入ってないらしい。
このスカイラインなんてスパナまで入ってたのに、コストダウンの影響らしいよ。
そのドライバーは差し替え式になっていて、マイナスドライバーにして、先っぽに雑巾を巻いてから室内灯のカバーの隙間に差し込んで一気に外す。
外れたらこっちのもんでしょー的に思っていたが、この電球の外し方ってのが、簡単なようで一癖あった。
両側が金具になっていて、そこに電球がはまってるんだけど、電球を片側に寄せて、その隙に片方を金具から抜く作業が、ちょっと大変だった。
まず、片側に寄せる片側が、どっちなのかが分かり辛い上に、元々ついてる電球のガラスが薄くて、乱暴にやると電球が割れそうで怖い。更に、電球がさっきまで点灯してたもんだから熱くて、不意に触ったら超ヤバかったんだよね……。
そんな苦労の甲斐あって、電球はLED球に交換できた。
まずは試験点灯させてみたんだけど、今までのがあまりに暗すぎたから、替えた電球の明るすぎる事と言ったら……眩しすぎて、直に見れないくらいなんだ。
良かった、満足だ。
車の中がLEDで明るくなって、スマホも充電できるようになって個人的には超満足なんですけど。
これで、例のオーディオも換えて音楽聴けるようになったら、もう言うことないよね……って、そうだ。この間、部車からスピーカー貰ってきたんだった。この間の作業で要領は覚えたから、今日か明日でやっちゃおうかな……って、色々欲が出てきちゃったよぉ。
いけない、いけない。この車は、どうせボロいんだし、そのうち違う車に乗り換えるんだから……でも、まだ2年は乗る訳だし、その間だけでも、快適にしておくに越したことなくね?
2年我慢して、音楽も聴けない車に乗るんだったら、そこは快適にして2年過ごす方が有意義じゃん。2年も我慢してたら時間が勿体無くね?
ちょっと、この間のカー用品店も覗こうかなぁ……っと思ったけど、時間はお昼過ぎだ。
カー用品店のフードコートって土日は混みそうだよね。それに、メニューが少ないし。
だから、ちょっと回り道して県道沿いのマックに行こう……って、いくらここいらが山の中の小さな街だからって、マックくらいあるんだからね! そりゃあ、モスバーガーとか、バーガーキングは無いけどさ。マックがあるのは、やっぱり小さくても市だし、その昔は、観光客でごった返してた名残ってやつよ。
駐車場に入ると、そんなに混んでなさそうだから、中に入った。
混んでたら、初のドライブスルーってやつを体験してみたかったけどさ、結局、どこかに止まらないと食べられないから、同じでしょ。
取り敢えず、季節限定はしっかり押さえて頼んで、久しぶりだから飲み物をシェイクにして貰ったりして何処に座ろうかな……と思ってたら、あそこで手を振ってるのは優子じゃん!
優子は2人席にいたので、向かいに座った。
今向かいにいるのは、桜井優子。クラスメイトで、私や柚月とは、幼稚園の頃からの友達なので、結構長い付き合いになる。
見た目は、色白で、黒髪のロング、学校では髪を結んでいることもあって、私ら5人の中では最も大人しいイメージに見えるし、実際にクラス内では昔から、私らのグループに何故優子がいるのか? という風に言われていたが、優子は、大人しいのであるが、昔から怒らせると結構怖く、柚月は基本優子には頭が上がらない。
私らのグループは、ムードを作る柚月と悠梨、抑えの結衣と優子、中間の私というバランスで成り立っているのだ。
でも、入ってくる時に見たけど、優子のバイク無くない? え!? バイク禁止期間かぁ……。
あれって、通学に限らず、期間中は外出時のバイク使用も禁止なんだっけ? 知らないの? って言われても、私は1度もバイク通学禁止になった事ないから分からないよぉ。
優子は、見かけによらず結構飛ばす。
柚月のメイト90を、唯一追い回していたのは優子のビーノだった。
柚月と一緒になって排気量アップを図ってみたり、ブレーキを変えたりして、柚月を下り坂になると追い立てていた。
なので、バイク通学禁止になるのも、今回が初めてではなく、常習犯なのだ。
え!? 優子、わざわざマックまでバスで来てたの? 違う? 近くのファストファッションのお店を覗きに行きたくて、ちょうどお昼だったからマックの後に行こうと思ってた? そうだったんだ。
じゃあ、私と一緒に行かない? どうせ、ディーラーで点検も終わったし、後はカー用品店でもブラブラしようかと思ってたからさ。
よく考えたら、カー用品なんかより、ファッションの方が大事だよね。
食べ終わると、優子を乗せてマックを出た。
優子は誕生日6月だから、路上はまだなのか、取り敢えず入校して学科は進めてるんだ。その方が良いよ。早くに車通学に切り替えられた方が絶対楽だもん。
優子は車どうするの? やっぱり家のは使えないんだ……って、優子の家は商売やってるもんね。お店で車使っちゃうんだね。
ファストファッションのお店に入って、あれこれ見たんだけど、私は目的なしのブラっと見に来ただけだし、優子は、目当ての物が売り切れてたらしく、取り置きだけお願いして1時間足らずで特に用事は無くなった。
仕方ないなぁ、特に行く場所もないし、優子を送って私も帰ろうか……って、カー用品店に行きたいって? 別に面白くないと思うよ。え!? もうすぐ免許取るんだし、自動車部員だから、関係ないってことはないんだって?
この間、柚月と来たカー用品店に入る。土曜日だから、この間より駐車場も、店内も混んでるね。そうだよね、今日もガラガラだったら、さすがにこんな大きなお店だし、潰れちゃうよね。
優子は2階のバラエティショップとか面白いんじゃない……って、1階の奥の方のディープなエリアに攻め込んでいったよ。
色々念入りに見てるね。これは、スポーツマフラーか。こういう太いマフラーにして音を大きくして、何が楽しいんだろうね? え!? 違う? マフラーを太くするのは、排気の流れを良くしてパワーを上げるためで、音を大きくするのが目的じゃない?
そうなの? 私の車にもついてるじゃないかって? 知らなかったよ。どうも音がうるさいと思ってたら、兄貴の仕業か。
これはエアクリだね。この間、このフィルターを買ったんだよ。うん、一応エアクリも変わってるみたいだよ。私はよく知らないんだけど。
え!? 今まで車に何をしたのかって? 取り敢えず、エアクリのフィルターを替えて、室内灯のカバーを磨いて、LED球にした。それからカップホルダーをつけたよ。
なんでため息つくの? 優子ったら、私、何かおかしなこと言った?
「マイさ、あの車にどんな足が入ってるか知ってる? 」
優子、何言ってるの? 車に足ってなに? え!? 足回りのこと? いや、知らないけど、きっと普通の足回りなんじゃない……って、いきなりツッコむの? 柚月と一緒じゃん!
「そんな訳ないでしょ! あんな車高が低くて、それでいて、段差とかはしなやかで、絶対スペシャルメイドの車高調でしょ! 」
なに? しゃこちょーって? シャコは知ってるけど……って、またツッコむの?
「よーし! 後で見てみようじゃないの! 」
優子、もしかして怒ってる? なんで怒ってるのよって、怒ってないけど、私があまりにバカだから腹が立ってるだけ? なんか、柚月も似たようなこと言ってたけど、なんの話よ?
「じゃぁ、マイのお兄さんが、どんな人か知ってる? 」
え!? 兄貴の話? 知ってるよ、あちこちに迷惑しかかけてない兄貴だよ! 以前は、ウチらの街の外れから県を跨いで山を越えられる道があったんだけど、兄貴が2週間で6台車落としたせいで、一般車両通行禁止になっちゃたんだよね。
それと、学校の桜の木を車でなぎ倒して、卒業式の日に、校門の前のロータリーをスピンターンで10周して、怒られたとか、交通安全講習の授業でドリフト走行して、来てた警察の人から大目玉喰らったとか、ロクな思い出がないよ。お父さんもお母さんも、いつも兄貴のせいで、あちこちに謝りに行ってたし……。
優子は、はぁ~っとため息をついた。
「やっぱり、知らないんじゃん! マイのお兄さん、この辺じゃ凄い人なんだよ」
ハイハイ、どうせその『凄い』ってのは、グレイトじゃなくて、クレイジーの方ででしょ? 分かってるって、子供の頃から、沢渡って言うだけで、『あの』沢渡遊馬の妹か? って言われて、蔑んだ目で見られてきたんだからさ。
優子ったら、すっかりヒートアップしちゃって、駐車場に来るや否や、ジャッキで車を持ち上げてタイヤを外しちゃったよぉ。
「ホラ見てよ! 」
足回りってこうなってるんだね。優子ったら、真ん中にある、棒の先にばねの付いた部品を指さしてドヤ顔してるよ。
「車高が調整できるようにねじ切ってあるじゃん! 」
このネジが、純正品には無い部品なのか。そして、これってどうやると車高が上がってどうやると下がるんだろ?
この棒、金色っぽくて、ちょっと仰々しいね。しかも下にアルファベットで名前が書いてあるよ。オー……リンス? オーリンズ? って読むのかな? 日産じゃないのね。
「やっぱり、こんな凄い足回り入れてるじゃん! マイは知らんぷりしすぎだよ」
優子ったら、さっきから物凄いヒートアップしてるんだけど、あのこと知ったら、きっと立ち上がれないくらいショック受けるんじゃないかな……。
どうか、優子が訊いてきませんように!
「マイのお兄さん、今、何やってるの? 」
ああ、遂に訊いてきちゃったよ……絶対、兄貴に心酔してた一部の層って、コレを訊きたがるんだけどさ、やめといた方が良いよ。
じゃぁ、言うよ。
「酒メーカーの営業やってるよ」
「えっ!? 」
ホラ、優子の目から魂が半分抜けちゃったみたいになってるよ。
そして、とどめのアレも訊いてくるに決まってるよ。
「じゃぁ、今、車は何乗ってるの? 」
あぁ、訊いてきたよぉ。……ウソは良くないからね。正直に言うよぉ、お願いだから腰抜かさないでね。
「セレナ」
「う……そぉ……? 」
「ホントだよ。兄貴、2人目の子供が出来てね。それまで乗ってたポルテから、セレナe-パワーに買い替えたよ」
「うそだぁ~~! 」
優子、泣きたいのはこっちだよ。こんな所で、私の車ジャッキで上げて、腰抜かした挙句泣かれても。
ホントに困るよーー! もう、だから兄貴の信者って嫌い!
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■あとがき■
★、♥評価、多数のブックマーク頂き、大変感謝です。
毎回、創作の励みになっております。今後も、よろしくお願いします。
次回は
日曜日の舞華は、バイト前の時間で、納屋の中を捜索します。
お楽しみに。
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