第2話 30年前のタイムカプセル

 あれから1週間が経った。

 ようやくスカイラインがやって来た。

 埃だらけで真っ白になっていた車体は、さすがに洗ってくれたらしく、綺麗になっていた……って元の色はこんな色だったんだ。


 赤とは言っても、真っ赤ではなく、かと言って黒っぽくもない。

 言うならば、大人の赤ってところだろうか。

 だって、大人が持ってるスマホにああいう色、結構多いしね。


 バイト先で、クルマの話をしたら、結構みんなが喰いつくんですけど……マジで不思議だった。

 みんなして『最初からスカイライン乗れるなんて凄いよ~』だって。

 きっとみんな現物見てないからだよ。スカイラインって言っても新車じゃないんだよ、こんなボロい、兄貴が置いていったやつなんだからね。


 お母さんが、まずそこら辺を走って慣れておきなさい……だって。

 なんでお母さんは、この車推しなのか分からないけど、怒らすとマジめんどいから、そこら辺を取り敢えず1周……って、お母さんも一緒なの? 保護者同伴で車の練習なんてマジ勘弁なんですけど。


 うーん……走った印象は、ズバリ一言


 「重くて長い」


 だね。

 なんか教習所の車よりも重い感じがするよ。

 ハンドルもだし、走った感じもさ、なんていうか引っかかってる感じがして、軽快な感じ? ってやつが無いかな。


 そして、ハンドルが重いんですけど。コレ、壊れてんじゃね? ってくらい微妙に重い。

 教習所の車とか、バイト先の人の車とかって、こうなんて言うか、片手でクルクルと回る感じの軽さで、LINE打ちながらでも運転できそうなのにさ……。


 それと、ボンネットのせいなのか、妙に長い印象が強いんだよね。

 曲がる時は、ボンネットの端を意識して曲がれ……なんて教習所では言われたけど、この車に乗ると、その意味が凄くよく分かる。


 それから、低いせいか、なんか見え辛い感じがして運転感覚がイマイチというか、バイト先にあるヴォクシーとかの方が、超乗りやすいんですけど。片肘突いて、片手でハンドル回せるし、なんか、学校とかの椅子座ってる感覚で、ペダル踏めるしさ。それに前の車の先が見えるしね。


 この車ってさ、運転席に座って手と足を前に投げ出すみたいな姿勢になるじゃん。アレが、私にはマジ勘弁なのよ。

 私的には、学校の椅子とか、バイト先のパイプ椅子とかに座ってるような感覚で、上からペダル踏みつける感覚が良いのよね。ハンドルも、その姿勢で片手だけでクルクル回るような感じが、良い車な訳よ。


 それお母さんに言うと怒るんだよね。


 「そんな運転続けてると、死にますからね! 」


 だって、意味分かんね。

 こんな景色の半分、ボンネットが見える車の方が危ないと思うんだけどさ。


 それと気になるのは、エンジンの音がドロドロと自己主張強いっていうか、うるさいというか……もっと静かにならないの? って思う訳。

 このエンジンの音も、走った印象同様、重い感じがするんだよね。もっとこうさ、ケータイのバイブ並みの音にならないかな~って思う訳、その方が音楽聞こえやすいし。


 室内はメカメカしい感じがするから見ると、空調の下にラジオがある……ってこれ今と逆じゃね?って思う訳。今はナビの下に空調だよね。

 ライトとワイパーのスイッチがやけにゴツイなぁ……ってのが印象。


 エアコンのスイッチはデジタルだ。……古臭いの一言しかない車の中で、唯一目新しさを感じるかなぁ。

 でも、表示に時代を感じる。黒い背景に緑の文字が浮かび上がる……って、なんか20世紀感がする。


 あ、そう言えば天窓みたいなのがあったはずだ。

 この車の中は暗い感じしかしないから、ちょっとは明るい感じのするものが無いとね。

 信号で止まった時に、天井を見上げると、天井の内張りの一部が四角く切り抜かれたようになっていて、そこの端に取っ手がついている。

 取っ手を持って後ろにスライドさせると、そこの部分がガラス天井になっていて、空が見える。


 ようやく明るくなったんだけど、このガラス自体は開かないのかなぁ……。

 運転席側のスイッチを見るけど、これって運転席と助手席の窓が開くだけだよね。上にもスイッチはついてるけど、描いてある絵から、ドアミラーのスイッチっぽいし、なにか違う気がする。


 あれ!? お母さんが勝手に開けてるよぉ。

 スイッチってルームミラーの手前にあったのぉ……教えてくれればよかったのに……って訊かれてないって? そうか、そうだよね。


 閉め方は、開けた方と反対側にボタンを押す。途中で、一瞬反対向きに押すと、そこで止まって、半開きの状態になるのね。これがあると、風が入って来たり、抜いたりできて便利だね。


 閉まった状態で、お母さんが閉める方向にボタンを操作してる。

 あれ!? 後ろの端が持ち上がって細く開いてる。

 ちょっと便利かも。


 でもって、お母さんがなんでこの操作法を知ってるんだ?

 え!? 若い頃、付き合ってた彼が乗ってたことがある? ふーん、お父さんじゃないんだね。そうか、お母さんは東京の人だもんね。いいなぁ……東京。


 家まで戻って来た。

 取り敢えず運転には慣れたけど、まだ完全に慣れるまでもう少しかかるかも。

 まだ色々な所が重くて硬い感じに慣れないんだよぉ……。ギア入れは、このくらいの硬さの方が


 “ギアチェンジしてるっ”


 って感じがして好きなんだけどね。

 

 あれ? お母さん、何グローブボックス開けてるの?

 えっ!? 車検証と保険の確認だって?

 いい機会だから、車検証入れの中身を確認しなさい?……って、いいよぉ、よくないって、私、まだ何もしてないじゃん!


 これが車検証ね。『初度登録年月』ってところが、この車が新車登録された時期な訳ね……って『平成3年2月』だって……古っ!

 ええ……と、今年が確か平成33年に当たるはずだから、30年前の車なの?


 そりゃぁ、見覚え無い訳だし、お母さんが若い頃の車な訳だよね。


 なんかいろいろなこの車の事を知って、嬉しいと思うよりも、30年前の車だって知って、どっと疲れちゃった……。


 30年前の車なんて、嫌だなぁ……。


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■


 ★、♥評価、多数のブックマーク頂き、大変感謝です。

 毎回、創作の励みになっております。


 感想などもありましたら、どしどしお寄せください。

 

 次回は、遂に通学初日。

 舞華の生活はR32によって、何か変わったのか?

 お楽しみに。

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