第1話 2年縛り

 何度キーを捻っても“カチッ”としか音がしない。


「やったぁ、壊れてるんだぁ」


 私は喜んだ。

 こんな古臭い、変な2ドアの車より、イケてるオートマのSUVとかの方が良い。

 さすがに壊れてれば、お母さんも諦めるだろう。


 喜んで見上げると、なんか太いコードを2本持ったお父さんが、ボンネットを開けるように言ってる。

 直すの? こんなポンコツ無理無理、直りっこないって……ボンネットのレバーを引くが、反応がない。


 早く開けろって言われても、開かないものは開かないよ。そんなに言うならお父さんが開ければいいじゃん!


 ホラ見ろ! お父さんが引っ張っても開かないじゃん。だから、壊れてるんだって……えっ!? 両手で引っ張るの? お父さんその姿勢、マジヤバいじゃん! この間、タンス動かした時も、そんな姿勢でやって、腰が痛いって3日寝込んだじゃん。

 “ガゴッ”


 ようやくボンネットが開いた。お父さんのエルグランドが、向かい合わせに止まって、ボンネットが開いた。

 爺ちゃんがさっきの太いコードを互いの車同士に繋いで、手をグルグル回して合図している。どうやら、エンジンをかけろって事らしい。


 だって、さっき動かなかったじゃん!

 そう思いながら鍵を捻ると


 「キュルルルルルル……ヴオオオオオ」


 かかった。……むしろ、かかりやがっただ。

 マジ~、動かなきゃよかったのに。


 取り敢えず、まず外に出ないと、みんな排ガス中毒で死んじゃうよ。

 1速に入れて、サイドブレーキを降ろす。そしてクラッチ繋いで、アクセル踏んで……るんだけど、なんか動かないよ。


 お父さんと爺ちゃんが、何回も前後に揺すったりして、合図したところでもう1回クラッチを繋ぐと

  “バキッ”

 という音がして、車が動き始めた。

 なにこれ、マジでぼろい。ブレーキが解除できないって、マジあり得ないんですけど。


 納屋から外に出たけど、埃でマジ真っ白だ。

 外に出たおかげで、今まで見えなかった後ろ姿が見えた。

 後ろから見て、私でもこの車の車種が分かった。


 この丸いテールランプは、スカイラインだよね……って思ったら、テールランプの隣にちゃんと


「SKYLINE」


って書いてあった……じゃなくて、彫ってあったよ。


 さっきから、お父さんと爺ちゃんの表情がやけにニコニコしてる。なんでだろう?

 この車が動いたから? でも、なーんか違うような気がする。


 台所に戻ると、お母さんと婆ちゃんがお茶にしていた。


 「もう、あの車、マジでボロいんだけど! 」


 私は、お母さんに怒りをぶつけると


 「お父さんから訊いてるわよ。ちゃんと動いたそうじゃない」


 あっさりと返された。


 「エンジンかからなかったし」

 「バッテリー上がりなんて、大したことじゃないから」

 「アクセル踏んでも動かなかったし」

 「長いこと置いてあったんだから、サイドブレーキが固着しただけでしょ」

 「え~、そんなんで大丈夫なの~? 」

 「明日の朝、引き取りに来て車検に出すから、来週には乗れるようになるわよ」


 私の意見は、ことごとく無視され、既に明日から車検に出されてしまうようだ。

 これって、既定路線ってやつ?


 「え~、あんないつ止まるか分からない車、ヤダよぉ~」


 ストレートに意見を言ってみると


 「我儘言うんじゃないの! ウチにはお金が無いんだから、ある物を活用するの。来年、舞華の進学でしょう。取り敢えず、あの車に2年は乗るの! 」


 今、何気にお母さん、とんでもないこと言ったんじゃね? 

 あの車に2年も乗らなきゃならないの? 

 私的に、卒業まで我慢すればいいと思ってたのに、あり得無くね?


 「えーー! あの車に2年も乗るのー? 卒業までじゃないのー? 」

 「車検に出したら、2年乗った方が勿体無くないでしょ? さっきも言った通り、ウチには余分なお金は無いの! 何度も言わせないで頂戴」

 「ヤダよー! あの車に2年も乗りたくないよー! 」

 「文句があるんだったら、お爺ちゃんの車と交換しなさい! 」

 「嫌だよー! 爺ちゃんの軽トラなんかじゃ学校行けないよー、お母さんのと交換して」

 「お母さんとお父さんの車は、職場の入構登録してあるからダメ! 」


 愕然とする私に、お母さんが言った。


 「どうしても嫌だったら、舞華がバイトして別の車、買いなさい。但し、変な車買おうとしたら、土地の使用許可出さないからね」


 結局買えないじゃん! どうせ、何持って来ても最後の『変な車』って曖昧な項目を拡大させて、ダメって言う気満々じゃん!

 原付買う時も、ビーノ買おうとしたら、『無意味に高いのはダメ』とか言ってタクトにされたし、芙美香ふみかマジムカつく。


 「舞華、まさかとは思うけど、母さんの事を『芙美香』とか呼び捨てにして、ムカつく、とか思ってないわよねぇ」


 鋭い、さすが私のお母さん。

 とにかく、ここにこれ以上いても、事態が好転することはあり得ないので、私は自分の部屋へと戻って、今後の事を考えることにした。


 その途中で思い出した。

 兄貴は、高校生の頃から、いつも好きな車を買っていたことを。


 「なんで、兄貴はよくて、私はダメなんだよ! 」


 思わず口走っていた。


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■


 お読み頂きありがとうございます。

 早速、★、♥評価、ブックマーク頂き、大変感謝です。

 今後の、創作の大きな励みになりますので、今後も、よろしくお願いします。


 感想などもありましたら、どしどしお寄せください。

 

 次回は、遂に車検から戻ってきたR32。

 嫌がる舞華に、母親が周囲を1周して来いと命じて、夜のドライブへと出かけます。

 お楽しみに。

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