冬眠を終えて学校に行くようになったら、みんなに注目されるようになりました。〜どうやら日に当たらない生活をしていたことで、俺は美肌のイケメンになっているらしい〜
第14話 クラスメイトの宝山院くんと安良岡さん。
第14話 クラスメイトの宝山院くんと安良岡さん。
……前から思っていることがある。
それはイケメンはどこからやってきて、どこに向かうのだろう……と。
「き、君がそれを言うのかい……?」
俺の前には宝山院くんがいる。
「とりあえず、初めましてだよね。僕は宝山院だよ。このクラスの学級委員をしているから、僕でよければなんでも聞いてね」
「う、うん……どうも、ありがとうございます……」
俺はペコペコと頭を下げて、目の前の宝山院くんの顔を見た。
教室の窓。開け放たれているそこから風が吹き、目の前にいるイケメンをそよがせた。
風に吹かれるイケメン。
追い風だ。逆に俺は向かい風。
向かい風を浴びた俺の前髪が立って、俺の引きこもり顔がイケメンの前に披露されてしまう。
「「!」」
……まずい。
俺は慌てて顔を隠した。宝山院くんは俺の顔を見て、ギョッと目を見開いていた。若干、頬が赤くなっていた。
「と、とりあえず、座ろうか」
「は、はい……」
俺は宝山院くんに言われて、彼の席へと向かう。
彼の席は教室のド真ん中の席という、まさにリア充の席だった。
このクラスの中心に彼がいる限り、このクラスの平穏は続いていくだろう。
「それで、隠川くん。僕は学級委員長だから、一応、君と話したいと思ったんだ。今、何か心配事とかはないかな?」
「あ、いえ、今のところは、ないです……」
彼と座りながら、言葉を交わす。
宝山院くんの喋りはハキハキしている。それでいてイケボだ。自信の表れが声に出ている。
そんな彼は、俺に色々聞いてくれる。
といっても、俺と彼とは初対面。
だから軽い自己紹介とか、先生の話題とか、そんな話だ。
彼は部活動とかはしておらず、たまにある委員会活動で、学級委員の副委員長をしているとのことだった。
今は五月の中頃ということで、彼は中間服だ。長袖のシャツのやつ。
ボタンは上から二つ開けていて、腕の部分を折り曲げているようだ。それでいて、ズボンは腰履きではなくて、ちゃんと腹部まであげているから、全体的にスッキリしているように見える。ボタンを開けていることと相まって、彼はだらしなくないように、爽やかに着崩しているのだ。
……それと比べると、俺とは全然大違いだ。
俺があんなズボンの履き方をしたら、あげパンと馬鹿にされて、指を刺されて笑われてしまうだろう。
もともと俺はそんなに足が長くないから、どちらかといえば、腰パンをするしかない。でもそしたらきっとダラしなく見えてしまうはずだ。俺は座高の方が高かったりする……。
「う、うん? どうしたんだい? 隠川くん」
「あ、いや……」
「隠川ともおくんだったよね。なんだか、素敵な名前だね」
「あ、ありがとう……」
低音の爽やかボイスで、俺のフルネームが褒められてしまう。
二人っきりの教室。俺の目を見て、笑みを浮かべる宝山院くん。
まずい……。
心が……きゅんきゅんしてきた。
……何というか、本当に爽やかだ。
放課後の教室、片肘をついて、顔だけでこっちを向いている宝山院くん。
なにより、放課後に、こうやって俺に色々と付き合ってくれているんだ。
学級委員長だから、こうして俺に話しかけてくれたと彼は言っていた。
だけど、学級委員長だからと言って、丁寧に俺に付き合ってくれるなんて……宝山院くんはいい人だと思う。
高校生の放課後と言えば、色々忙しいはずだ。
そんな俺たちはもう三年で、勉強もあるし、宝山院くんは彼女とかもいそうだ。いや、絶対にいると思う。この、堂々とした爽やかさは彼女持ちの爽やかさだ。
そんな彼が、こうして時間を割いてくれている……。
……とてつもなく申し訳なくなってきた。
それは今日、何度も思ったこと。かなり迷惑をかけている。
「あの、宝山院くん……。放課後なのに、ごめん」
「いいや、構わないさっ」
「……っ」
ファサッと前髪を指で弾いて、爽やかに言う宝山院くん。
俺はなぜか自分の顔が熱くなってくるのを感じた。
……そして、そんな時だった。
「あ! 宝山院くん! こんなとこにいたんだ!」
「! み、みずさちゃん!」
ガラガラと教室のドアが開けられる。
そこから入ってきたのは、一人の女子生徒だった。
ポニーテールの活発そうな女の子だ。
そんな彼女を見て宝山院くんがガタリと席を立つ。彼を目指して、こちらに女子生徒が小走りで走ってくる。
「宝山院くん、何してるの? って、あ、そうだったね。今日は学級委員長の仕事があるって言ってたっけ」
「ごめんよ。みずさちゃん、改めてメールしとけばよかったな」
「ううん。気にしないで。宝山院くんが頑張ってるなら、全然オッケー」
「みずさちゃん……」
みずさちゃんと呼ばれた女子生徒が明るく笑い、宝山院くんを見つめていた。そんな彼女の顔は恋する乙女の可愛らしい顔だった。
イケメンと、美女のカップル。
そこにいる、俺。……まずい、かなりお邪魔だ。
空気を読んで、出て行った方がいいかもしれない……。
しかし、彼女はこっちを向くと、「おっ」という顔をして、
「そっちの人は、例の男子じゃん。隠川くんだったよね! こんにちわ、安良岡(やすらおか)みずさです。よろしくね」
「う、うん。よろしく……」
宝山院くんの彼女さんが、俺の元にやってきて挨拶をしてくれる。
その顔は自身に満ち溢れている顔で、なんだか宝山院くんにピッタリの人だなと、直感的に思った。
「それと、あ! 隠川くんは、すごいじゃん! 久々に学校来たんだよね! うちもこのクラスなんだよ? 今日のこのクラス、みんな隠川くんのことで色めき立ってたし、隠川くん、めっちゃイケメンだよ!」
「ちょ、ちょっと、みずさちゃん、そういうの、直接言ったら、だめだって」
「なんでよ。いいじゃない。隠川くんも逆に気を遣われる方が気まずいよね?」
安良岡さんはそう言うと、「ほらっ」と言って俺の顔を見て微笑んでくれた。
「とりあえず、隠川君は、学校に来て偉いね。偉い偉い」
「「ちょーー」」
俺と宝山院くんの声が重なった。
なぜなら、安良岡さんの手が俺の頭に伸びて、俺の頭を撫でたからだ。
「久々に学校に来るのって、多分怖かったよね。うんうん」
なでなで、と。
俺の顔とかも撫でてくれる安良岡さん。
「み、みずさちゃん!? ちょっと! 僕もまだ、みずさちゃんに撫でられたことないのに!」
慌てて、異議を唱える宝山院くん。
「そんなの当たり前じゃない。私は彼氏の宝山院くんには、頼もしさを求めてるの。だから、こうやって甘やかすのは、隠川くんにだけっ。ねっ、隠川くんっ」
「あ、いや……」
俺の頭を撫でながら、可笑しそうに微笑む安良岡さん。
「とりあえず、宝山院くんは嫉妬しないように!」
「そ、そんなのって……ひどい」
宝山院くんは絶句して、泣きそうになっていた……。
そして俺はというと口を引き結んで、気まずい雰囲気を感じ取りながら、それからも安良岡さんに撫でられるがままになっていたのだった……。
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