冬眠を終えて学校に行くようになったら、みんなに注目されるようになりました。〜どうやら日に当たらない生活をしていたことで、俺は美肌のイケメンになっているらしい〜
第9話 高校最後の年を一緒に過ごしたいから。
第9話 高校最後の年を一緒に過ごしたいから。
久しぶりに帰ってきた、幼馴染の詩織。
とりあえず風呂から上がった俺は、まだのぼせてから時間が経っていないこともあり、安静にしながらホットミルクでも飲んで、詩織と会話をすることにした。
「それで、詩織、これからはこっちにいられるのかな……?」
「うんっ。その予定だよ。まだお父さんたちはあっちの家にいるから、私だけ先にこっちに帰ってきたの」
……その言葉を聞いて、ホッとしている自分がいるのに気づいた。
こっちにいるのなら……また、いつでも会えるようになるんだ。それは……思った以上に嬉しい。詩織の家はうちの隣だから、なおさらそう思った。
「それで、もお君はどうするの? 学校行くの?」
「俺は……行こうとは思ってる」
「おお……!」
詩織が帰ってきてくれた。そして今こうして目の前にいる。
……正直、今の自分を詩織には見られたくはなかった。詩織の前では、無理をしてでも頼もしく見える自分でいたいと思った。
だからとりあえず、今の俺にできることは学校に行くことぐらいだった。
……しかし、
「行けるの……?」
「それは……」
……そこが気がかりなことではある。
行こう行こうと思っていたけど、結局行けなくなった。
ずっと学校に行っていないと、どうしても学校に行く足が動いてくれないし、怖いと思ってしまう。そう思っていたから、行かないと、とは思っていたものの、行けなかったのだ。
「……あ、じゃあ、留年とかは大丈夫なの? 進級はできてる……?」
「うん。学校に行かなくなる前は無欠席なのと、一応、進級試験も合格したから、大丈夫だと言われた」
「おお……! 偉い! ……あ、偉くはないのかな?」
「まあ、偉くはないかな……」
一度休んでしまった時点で、もう無欠席はなくなってしまった。
それででも、一応、進級はさせてもらっているし、俺は高校三年生にはなれていた。
「外に出るのは、大丈夫なんだよね?」
「うん。買い物とかにも行ってたから」
「ああ、それも、妹ちゃん言ってたんだってね。「お兄ちゃんは引きこもりのにわか」だって」
「確かに言ってたな……」
妹は俺のことを「引きこもりのにわか」とか「引きこもれなかった男」とか「引きこもりもどき」だのと言って、からかったりしていた。
ボロクソだ。そう言われた日、俺が物置の隅っこで泣いていたのは、秘密の思い出だ。
でも、買い物とかにも普通に行っていたし、妹の買い物に付き合わされることとかもよくあった。
今考えると……あれは妹なりに俺を外に連れ出そうとしてくれていたのかもしれない。
うちの妹は分かりずらいけど、たまにそういうことをしてくれる時があったりする。
ただ……それが分かりつつも、俺は未だに学校には行けてはいない。
色々理由をつけて、そこに逃げ道を作ろうとしてしまっていて、直前になってやっぱりやめてしまっている。
「でも、もお君は別に学校が嫌いなわけじゃないんだよね。昔から、そうだったもん。逆に、クラスに馴染めない子がいたら、気を配ったりしてたもんね。だって、私がそうだったもん」
「詩織が……?」
「うん。小学校の頃。もお君のおかげで、私、女の子の輪の中に入れたもん」
それは……初耳だ。
というか、詩織はずっと明るかったから、俺がいなくても友達とか多かったのだ。
「そんなもお君は、今、学校に行く理由を探してるんだよね。だったら、私のために行ってよ」
「詩織のため……」
「うんっ。私も来月からこっちの高校に通う予定だし、三年からスタートにしてもらえるけど、周りは全然知らない人ばっかりだもん。引っ越してから、私、高校には通ってなくて、ずっと自宅学習で進級資格とってたの。テレワークだった」
「それはテレワークなのかな……」
でも、なんとなくニュアンスは分かった。
「一応、名前だけはもお君の学校に移してあるけど、ずっと田舎にいて、誰とも喋ってなかった私がいきなりその輪の中に入るのは、無理だよ。怖いもん……。だから、まずもお君が行ってよ。そして私が馴染めるようにしておいてよ」
「詩織……」
……その言葉を聞いた瞬間、情けないけど俺の心に一筋の光が差し込んだ気がした。
今までは行く理由よりも、行かない理由を探していた。
だけど……、詩織のためだったら、行けそうな気がした。
「もお君、一緒に高校最後の年を過ごそっ。私、もお君と一緒に学校行きたい!」
それなら……。
「……分かった」
「おお……!」
「俺も……もう嫌だしな。ここで立ち止まったままなのは、怖いし……なにより、詩織のためだもんな」
「うんっ」
それなら……行ける。
「それに、もし、もお君がダメだったとしても、大丈夫だよ。私がそれを生かして、上手く高校生活を楽しむからっ」
「……まさかの踏み台扱い」
「えへへっ」
詩織は嬉しそうに笑い、その頬は赤く色をつけていた。
……信じられない子だ。背中を押すでもなく、同情するでもなく、足蹴にしようとするなんて……。
怖くないと言えば嘘になる。
だけど、気持ちは驚くぐらい軽かった。
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