第14話オリエンテーション


 「素晴らしい成長です、惣一朗。次のステップに移っても問題なさそうですね」


俺は回転するハンドスピナーを止めて指から外す。あれから10日が経った。初めの方こそ指が引きちぎられそうになり、夜も眠れなかったが、慣れと言うべきか火事場の馬鹿力は恐ろしい物で、真ん中を過ぎると一定の速さで回路が回るようになった。そして、10日も経つと速さを変えるのもおちゃのこさいさいだ。


 「初めの方は本当に死ぬかと思ったぞ…… で、次は何をするんだ? 」


 「ええ。いざ実践へ、と行きたいところですが、少し慣らしをしましょう。惣一朗、ついてきて下さい」


そう言って凛音は俺の部屋から出る。付いていくと、なんと靴を履いて家からも出ようとしている。


 「おい、どこ行くんだよ。もうこんな時間だぞ? 」


俺は時計を見る。夜の8時半。こんな時間に出て何をするというのか。まだ、補導される程の時間では無いが、これから出来る事も多くはないだろう。しかし凛音は気にせず、出て行ってしまう。仕方がないから、ついていく事にした。しかもこんな可愛い子を、夜中に一人で外に出すわけにはいかない。外は少し蒸し暑く、半袖でも十分な位だった。そして、行きついた先は地元の中学校だった。俺も中学までは通っていて建物の中はよく知っている。だからこそ、何をするというのだ。この時間には人はいないだろう。体育館に着いた所で、凛音は口を開く。


 「ここで私と毎日、戦いの時にどのように動けばよいのかを、色々な観点から学んでもらいます。前から思っていましたが、惣一朗の身体能力は平均より上です。なので、<地導力>の流れといくつか動きを覚えれば、特別な訓練をせずとも、ある程度の動きはできるでしょう。後は、心の問題と知識です。心技体、これらが3つ揃って初めて誰かを守る事ができます。先ずは知識の方から。惣一朗は<地導回路>がどのような物かご存じですか? 」


成程。ここに来たのは俺に戦い方を教えるためか。


 「<地導士>と<バベル>だけが内蔵している特別な器官だろ? それを回す事で<地導力>を得て、様々な事に応用する。大体こんな感じかな? 」


 「仰る通りです。ですが、もう少し補足を。察しているとは思いますが、<地導力>をどれだけ使用できるかは、回路の回転の速さに依存します。そしてこれは、訓練する事で回転数が上がり、より多くの力を使う事が出来ます。ここまでは、感覚的にわかるため、すんなり理解できるでしょう。次に、<地導士>が、常に気を付けておくべき事を考えてみてください。」


 「なんだろう。<地導力>切れとかかな? 」


 「はい。完答とまではいきませんが、かなり当たっています。基本的に私たちは、地球の大地からエネルギーを受け取っているため、所謂ガス欠にはなりません。大変便利ではあるのですが、反面デメリットもあります。それは大地からエネルギーを受け取るが故に、大地から離れると<地導力>の供給が切れて、回路が空回りしてしまうのです。船に乗ると、私も身体が重くなりますし、飛行機はそれがかなり顕著です。なのでなるべく高い所に行くのは控えてください。高所恐怖症な位がちょうどいいです。もう一つは一般人から<地導力>の存在を隠すことです。特殊な状況を除いて一般人には<バベル>も<地導力>も見えません。なので、できるだけ面倒事は避けてください。これは全ての<地導士>の暗黙の了解なので、惣一朗も気を付けてください。」


 「言われてみればって感じだな。了解、極力地面を意識するよ。後者は、言われずともって感じだな」


 「お願いします。次は地導士と戦う時に何を目的に戦えば良いのかです。それはずばり相手の地導回路を壊すこと、です。相手が強くなればなるほど、与えた傷は直ぐ再生されてしまいます。余程の大怪我や即死なら話は別ですが……基本的にはここ、心臓の反対側当たりを狙ってください。すると相手は地導力を生成できないため、しばらくは一般人となんら違いはないでしょう。」


そう言われて、俺は今まで自分が受けた傷を思い出した。どれも一般人のままだとただじゃ済まないものだらけだ。今も無事なのは、地導力を僅かにも身に纏っていたからだろう。凛音は更に続ける。


 「では最後に<地導術>についての説明をします。<地導術>とは大地から得た力を回路に通した際に使える特殊能力だと考えてください。使える力は個人によって違ってきて、原則一人一つしか持てません。発現のタイミングは回路が回り始めた直後で、遺伝によって引き継がれる場合や、その人の思考や環境が色濃く反映されます。とりあえずの説明はこれで終わりです。まだまだ先ですが戦闘になった際にはこれらを意識してください。前置きが長くなりましたが……戦闘訓練を始めましょう」


凛音がそう言うと、彼女の手から青い円陣が浮かぶ。そして円陣の中から竹刀が2つ現れる。凛音は一つを俺に渡してこう続ける。


 「とりあえずはその竹刀で私が良いというまで、私と打ち合いをしてもらいます。……撃たれた際に痛みこそありますが、死にはしません。では、早速準備を」


 「え? ちょっと待てよ!! おい、り」


混乱する俺をよそに凛音は竹刀を構える。ここからの話はいいだろう。ただただ俺が撃たれるだけなのだから。

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