第38話 無力の蜥蜴
鮮血を纏った鋼鉄の少女は地に力無く崩れ落ちたーーー
「………死ね」
男はとどめを刺すべく武器を構える。
「ーーーーてめぇ!!!イヴから離れやがれ!!!」
『我焼き貫く子竜の火種弾、
激怒した俺はイヴがぶち抜いた窓から火ノ粉の弾を男目掛けて放つ、しかしその攻撃はイヴの時と同様に男をすり抜ける。
「行くぞクリス!!」
「へ?、ちょっまっーーー」
少し離れた場所に姿を現す男、その隙に俺はクリスを抱えて窓から飛び出す、そのまま重力に任せて中庭に落下していく。
「ッッッッッーーー!!」
「キャッーーー」
高所からのダイブは命綱がついていても怖いのに、命綱無しなら怖くないわけがない、肝を冷やす俺と短い悲鳴をあげるクリス。
『我操る無気力な墜落翼、
あと数メートルで地面と激突する瞬間、人間にはない竜化した特権の一つ、背中の命綱を使う俺。
魔力が漲った翼は勢いよく広がり、重力加速度を鈍化させ、最初と比べるとかなりゆっくり着地する。
「……重い……」
「誰が重いですって!!!誰が!!!」
いくら滑空するだけと言っても、俺の翼に人ひとり支える力はない、つい愚痴をこぼすと、クリスに鬼気迫る剣幕でキレられる。
いついかなる時でも女性の体重を口にしてはいけないことを忘れていた。
「………まだ鼠がいたか………」
正面の男は呟く、俺達は瞬時に体制を立て直し警戒度を引き上げる。
間近で観察する………間違いない………あの時も薄暗く印象が不確かだったが、目の前に立たれば明らか、仲間を連れて消えた男だ。
「クリス、二人を頼む」
「は、はい!!」
俺はクリスに二人を任せる、一瞬イヴを流し見、いつものかすかに匂う硝煙の香りはなく、血の鉄臭さが嫌でも鼻につく。
「………金狐をどうするつもりだ?」
「金狐?………ああ、これの事か、お前に教えてやる義理はない」
「………
「なんだ?気に障ったか?、これは意外だ、狐につつまれたか?それとも同じ化け物だから親近感でも湧いたか?」
「………黙れ」
「蜥蜴と狐の馴れ合いなど見ていて吐き気がする………不愉快至極、極まりない」
「ッッッッッーーー黙れ!!!!!『我が拳に火種の殴打、
怒りに任せて一直線に殴りかかるも難なく避けられ、後ろに回り込んだ男にカウンターの蹴りを背中に打ち込み、俺を吹っ飛ばす。
「ガッッーーー?!」
「ふん、愚かな……」
拳が空振り、呆気にとられるも束の間、自身の体が突如前に進みだすという事態に至って漸く背後から攻撃されてることに気づく俺。
しかし、気づいたところで意味などない、できることといえば精々力の方向に逆らわず受け身を取る事ぐらいだ。
呻き声を上げながら無様に地を転がる。
「………クソッ」
悪態をつくも不幸中の幸い、痛みで少し頭が冷える。
冷静に頭の中で相手の戦力の分析を始める。
(………あいつのスピードは異常だ………こっちの反応速度を楽々超えてきやがる…………視界に入った瞬間に反撃されてしまう…………どうすれば………うん?………いや……隙はあるな…………賭けてみるか………)
く
『我が両拳に火種の殴打、
「芸のなッッーー!!?」
俺はさっきと同じように右腕で正面から殴りかかると同時に自身の背後に、左腕を火の粉を纏わせ突き出す。
虚空に向かって突き出された左腕は何かを掠めた。
どうやら男の頬だったらしく、皮膚が切れて鮮血の一本線が流れ落ちる。
「チッーー………小賢しい」
「なかなか俺も芸達者だろ?」
そう、今までこいつは必ず背後から攻撃をしてきた、来る場所が分かっているなら多少早かろうが関係ない、同時攻撃してやれば自然と当たるはずだ。
しかし、仕留め切れなかったのはこちらの失敗だ、次からは油断せず全方位から攻撃してくるだろう、そうなれば嬲り殺されるのは確定的に明らか。
(さて………どうするか………)
「はっ、芸達者だと?、一発屋の間違いだろ、まぐれは一度、次はない」
(ーーーくる!!!?)
男の姿が掻き消え、俺は身構える………だが、いつまで経っても何も起きない。
「…………なんてな、思ったより面倒臭そうだ、ターゲットはもうすでに捕らえている、わざわざ貴様と遊んでやる理由はない」
声がした方向に振り向くといつのまにか男は出口である門の上に立っていた。
「逃げるのか?」
「安い挑発だな、今の戦闘でどっちに分があるかわからんわけじゃあるまい…………だがまぁそれも
「………………」
「当初の目的は果たした、じゃあな」
「クソッーー」
刹那、男は影形もなく消えた。
(………仲間は守れず、女の子ひとり救えない………俺はなんて無力なんだ)
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