第37話 襲撃
「…………どうしたのハル……?」
「え?、な、何が?」
「さっきから難しい顔して、全然食事が進んでないじゃないですか、何があったんですか?」
「べ、別になんでもないよ………」
あの後、とりあえず腹が空いたので夕食を食べるものの、銀狸のことが気になりあまり食が進まない。
鯛や焼き魚に味噌汁と白米、梅干しに甘露煮に天ぷらに焼き豆腐、所狭しと並んでいるご馳走。
絶対うまいはずなのになんだか味がしない、まるで砂でもかじってる気分だ。
「ご馳走さん、疲れたから俺もう寝るわ」
二人からの質問を誤魔化すように夕飯を喉に流し込む俺。
彼女達と目を合わせず、隣を早歩きで抜け寝室に入り、布団の上に寝転がる。
「ちょっとハル、それで誤魔化せたとーーー」
「………まって」
「イヴさん?」
「………嫌なら………無理に喋らせる必要はない…………喋ってくれるのを………待とう……」
「……………わかりました」
「………悪りぃ」
聞こえたかどうかはわからないが、謝罪を呟く、本当に俺にはもったいないくらいいい仲間だ、そのまま泥のように眠る。
気づいたら先ほどの
頭に硝子を被った銀狸、追い討ちをかけるよう怒鳴りつける風狸、キレかける俺に
何度もそれが繰り返される、無限に続く銀狸への虐待は俺の心を擦り減らす。
過去の映像は俺の不安を感じ取り、最低最悪の光景を形作っていく。
何十回目かもわからない怒り、
…………なぜか違和感を感じた、俺のしたいことはしたはずだ……ムカつく奴を殴り飛ばした、なのになぜ俺は悶々としている?
この疑問の答えは背後にあると不思議な確信に導かれるまま振り向く。
…………振り向いてしまった……見てしまった………そこには力なく横たわる銀狸の姿、急いで駆け寄るも息はなく心臓も止まっていた。
これは夢、これは夢、ただの悪い夢、そう自分に言い聞かせる、しかしどんなに言い聞かせたところで意味など無い、無力感、焦燥、怒り、この鬱憤を発散する術を持たない、それらが綯交ぜになった形容し難い黒い感情が顔を出し始めた。
これは………この感情を………俺は知っている………あの時と同じだ。
俺の親友が死んだあの時と………銀狸の姿が親友の死に様に重なる。
悪人でも殺すのはやりすぎ、そう思い見逃した…………盗みに暴行、殺しに薬、人間というより獣に近い、ケダモノと言われた方がしっくりくる、そんな狂人だとわかっていて見逃したんだ……命を奪うという行為に恐れて逃げ出した…………選択を棚に上げた…………そしてその甘さのツケは………俺のかけがえのない存在で支払われた。
もしかしたら銀狸も殺されるかも…………という考えが頭をかすめ黒い感情はどんどん膨れ上がる、不安と怒りで発狂しそうになるも、突如訪れた衝撃で視界が歪み黒く塗りつぶされた。
「ぃーー、くーーさいーー、起きてください!!ハル!!」
まだ寝ぼけている耳に響くのは途切れ途切れの声、だんだん意識が覚醒し、はっきり聞こえてくる。
「どうわぁ!!!、な、何だよ!!、人が気持ちよく寝て…………なかったな」
「何一人で漫才やってるんですか!!、外見てください!!」
「そんなに慌ててどうし……ッッーー!!?」
俺は言われるがまま窓から覗くと声を失った、幻想的で美しい里が今は見るも無残な光景だ。
美しい夜空に黒い煙がいくつも上がっている、適度な灯りは赤黒い火が大きすぎて目に見えない。
「な、何だよこれ………」
「憶測になりますが、先日の賊達の仕業かと……」
「で、でもあいつらにあの門を開けられるのか?」
「わかりません、しかし………」
「………できるかどうかを………論じてる暇はないんじゃない?」
「チッーー確かにそうだな…………ちょっと待て、あいつらがこの騒ぎの犯人って事は………」
「ッッーー………金狐が危ない………?」
「そういうことだ!!、急ぐぞ!!」
装備を身につけると俺たちはドアを蹴破り屋敷の捜索を始める。
屋敷内も火がついており、あちこち燃えている。
「うん?、まだ残りがいたのか」
『
『
「命が惜しくバァァァーー!!?」
黒装束の男がこちらにクナイを向けて脅し文句をいうが、言い始めた瞬間にイヴは『
男は言い切ることは叶わず断末魔へと変わる。
「………相変わらず容赦ないな〜」
「ですね………」
敵を掃討しつつ捜索するも、炎が勢いを増していき俺たちを焦らせる。
耐えきれなくなった天井の一部が焼け落ちてきた。
「もう限界です!、二人とも外に避難しましょう!」
「「まだだ!!まだ見つけてない!」」
「もしかしたら避難したのかもしれません!!」
「「いるかもしれないだろ!」」
俺とイヴは必死に瓦礫をかき分ける、しかし見つからない、刻々と迫りくる炎。
冷や汗をかくも熱気ですぐ乾く、こんな所に残されてしまったら死は確定的だ。
「クソッーー、何処に………おい、あそこにいるの天狐さんじゃないか!!?」
見つからず、絶望に窓を仰ぐと中庭に天狐さんの姿が見える、息絶え絶え、四つん這いで地に伏していて、見下ろすように黒い装束の男が手前に立っている。
「………あの人が脇に抱えてるの………金狐じゃない?」
「あっっーー!!ほんとです!!、よかった〜」
「安心するのは速いんじゃないか?、見た感じ仲間ってわけでもなさそうだ」
「……言われてみれば」
「なら…………先手必勝……」
「「え?、イヴさん?」」
『
『
二階からだというのにお構いなしに爆音を轟かせ、硝子を突き破り、男に肉薄、そのまま慣性を生かしラリアット気味の一撃を叩き込む、首と胴が別れ、その命を刈り取った………かに見えた。
「ーーー?!」
しかし実際は違う、イヴの攻撃は男をすり抜けた、首がなくなったように見えたのは目の錯覚だったようだ、男の姿は夢幻の如く霧散する。
「イヴ後ろだ!!!」
「ーー遅い」
「ッッーー!!?」
イヴは反射的に砲身となった腕を裏拳気味に振り回す、しかし男は難なく躱してそのまま彼女の隣を通り過ぎる。
お互い両足を地につけた瞬間、イヴの服に一本の線が入ったーー刹那、彼女の体全身、あらゆる箇所に斬撃が走る。
「なッッッーー?!!?」
「………ウスノロが」
鮮血に染まった鋼鉄の少女は力無く地に落ちていく。
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